茶々視点外伝 茶々視点・⑥③話・茶々の甲冑
嫁入り道具には、女のしつらえだけでなく武具も当然ふくまれる。
太刀、薙刀、弓、そして火縄銃に甲冑まで――一通り、母上様が心を配って用意してくださった。
細身で軽い太刀を庭でためしに振っていると、お初が縁先から顔を出し、
「私も、太刀をちゃんと打ってもらおうかなぁ~」
と、いつもの調子で言う。
真琴様のもとで剣術を習うようになったお初は、すでに少し小ぶりの脇差を買い求めている。
「たしかにお初は腕力がありますから、太刀も余裕でしょう。私はこれでも重く感じて、太刀に振り回されているようです」
「姉上様の太刀は、黒坂家が籠城したときに携える物でしょ。実際に振るうことは、あまり考えなくていいのでは?」
「そうね。流石に戦に出ることはないでしょうから……この薙刀を使いこなせるよう、柳生の者に手ほどきを頼みましょう」
柄を握ると掌に漆のなめらかさが移り、薙刀の重みが脇にすっとおさまる。
お初が火縄銃の箱に目をやって、少し眉をひそめた。
「それにしても……火縄銃まで嫁入り道具なんて、風情が欠けたような……」
「火縄銃を画期的なまでに改良なさった黒坂真琴に嫁ぐのですもの自分用を備えるのは当然でしょう」
「たしかに、そうですけど……」
用意された火縄銃は、真琴様の最新式。
朱漆の飾りが施され、見栄えもよい。
私はそれをそっと持ち上げ、頬付けの構えで撃つ真似をしてみる。
鉄と油の匂いが微かに鼻をくすぐった。
「あの時の母上様みたいだね」
お江が言ったその時、ちょうど母上様が姿を見せられた。
「種子島――火縄銃は、女子であっても武士を退けられる道具。あなたたちは黒坂家で剣を磨いておりますが、銃の腕も磨きなさい。いざという時に役に立ちます」
母上様は伯父・織田信長直々に手ほどきを受けておられる。
だからこそ、明智残党が忍び込んだ折にも迷いなく構えられたのだ。
「それより茶々、甲冑を着てみなさい。合わなければ直しを頼まねばなりません」
「はい」
侍女たちの手を借り、ひとつひとつ紐を締める。
朱漆塗色々威腹巻具足。
細かな金具には織田木瓜の家紋が光り、小ぶりな金色の前立ては黒坂家の家紋――抱き沢瀉。
肩に重みが落ち、胴の中で呼吸の間合いがひとつ狭くなる。
「恐らくですが、母上様。これは飾り甲冑になるかと。真琴様は南蛮式の胴を好まれています。戦は火縄銃が基本になった今、南蛮胴がよいと話しておられました」
「南蛮胴は重いからねえ……まあ、それは黒坂様と相談なさい。私の用意したものは、床の間にでも飾っておきなさい」
「え~、マコの屋敷の床の間、そんなに多く飾れないよ」
お江が頬をふくらませる。お初がすかさず、
「ほら、真琴は大津城主だと伯父上様がお決めになったじゃない」
と言えば、お江はぱっと顔を明るくした。
「あ、そうか。城主だもんね! マコ、それなら大丈夫だね。どんなお城なんだろう? 行ってみたいなぁ~」
「今、築いているそうよ。真琴様は近々、見に行くと」
「姉上様、ほんと? 母上様、マコと一緒に見に行きたい!」
「あんたが住むわけじゃないんだから、行っても仕方ないでしょ」
そう言いながらも、母上様は私たちの顔を見比べて、小さく笑まれた。
「安土に籠もる暮らしが長かったから、よいでしょう。ただし、黒坂家のくノ一を必ず近くに置きなさい。――お初、一緒に」
「やった~!」
「はぁ~……」
喜び勇むお江と、どこか面倒そうに応じるお初。
甲冑の朱が、秋の夕陽にきらめいた。
私は面頬を外しながら、胸の内でひとつ息を整える。
嫁ぐということは、飾りと同時に備えでもある――そう教えてくれる重さだった。




