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茶々視点外伝 茶々視点・⑥②話・茶道具

 今井宗久の店に茶道具一式を頼んでいたゆえ、のれんをくぐると、主みずからが待っていた。


店内は白檀と漆の匂いがまじり、棚には名のある茶入れや釜が静かに光を吸う。


「ようこそおいでくださいました。さ、御用命の品はこちらにご用意しておます」


 奥へ案内されると、茶道具一式が一揃い。どれも一級の品ばかりで、私の小遣いの限度を明らかに越えている。


「これは……どれも一級の品ばかり。私には到底払えませんよ」


「いえ、よろしおます。黒坂家御用として、今井屋は散々もうけさせてもろてます。日頃の礼、それと今井屋からの祝言の贈り物として、お納めいただければ」


「……黒坂様が袖の下をお嫌いな方だとは、あなたがいちばんご存じのはず」


「もちろん承知しておます。しかし、儲けの一部を回させてもろただけのこと。商人として損にはなりまへん。それより――」


 宗久は先ほどの笑みを消し、すっと声を落とした。


「黒坂家御用を仰せつかっている今井屋が揃えた品が、他に劣るようでは笑われますさかい、受け取っておくんなはれ。茶々様は、やがて大名やその奥方、わしら商人と商いの席で茶を振る舞わはる。そこで用いる茶器が大納言相当の家格に釣り合わなんだら、笑われるのは茶々様だけやおまへん。黒坂様もまた、恥をかきなさる」


「……確かに。ですが――」


「この品をお受け取りやからとて、今井屋をひいきせい、とは申しませぬ」


「ならば、ひとつだけ。無償では受け取れません。先に申しつけた金子はお受け取りください。いささか格の上がった品ぶりについては、祝言の心づくしとして受け止めます」


「はっ、ありがたき幸せでおます。――申しておきます。これは黒坂真琴っちゅう、いずれ大大名となりますお方への“投資”どす。交渉の場で名のある道具を据えられれば、相手は侮りまへん。そこで生まれた商いが巡り、御用商人の当店にも、いずれ何がしかの役が回って参りましょう」


「流石ですね」


 正室ともなれば、留守居や応対の座で茶を点てることもあろう。


交渉の席は必ず来る――それを見越す目、やはり宗久は只者ではない。


「では、祝言ののち黒坂家へ運び入れるよう手配を。……あ、もうひとつ」


 帰ろうとしたところで呼び止められた。


「祝言のお召し物、拵えを――とお市様より申し付かっております。こちらで採寸をいたしたく」


 別座敷には女衆が控え、私は言われるまま台に上がる。


白い紙尺がするすると肌を渡り、絹糸のように冷ややかで、やがて温もりを帯びる。


「生地はもう決めてありますの?」


 問うと、宗久は恭しく頭を下げた。


「お市様より、当日まで内密に、との仰せ。なにとぞおゆるしください」


「そう。――それは仕方ないわね」


 見たいという心を、ひとつ息で押し沈める。


 採寸を終えて店を出ると、夕の光が瓦をなで、包み紙の白だけがやわらかく浮き立って見えた。


胸の内で、茶釜の湯の音のように、未来の席次と道具の名が、静かに湧き立っていた。

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