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茶々視点外伝 茶々視点・⑥①話・黒坂真琴本領発揮

義父上が広げさせた琵琶湖一帯の大図。


紙の匂いと墨の黒が、天主の明り取りに白く照り返る。


真琴様が扇子の先で、湖面に浮かぶかのように幾点かを示された。


「せっかく地図が出ていますので、ひとつ提案を。――ここと、ここと……琵琶湖の東西南北を水運で結ぶように築城しませんか? 賤ヶ岳で塩津街道を押さえ、牧野で西近江街道を押さえる。すでにある安土城・長浜城・大溝城、そして今建てている大津城。湖に六つの要を置き、水運で結ぶ“水の都”です」


 義父上は目を細め、地図の縁を軽く叩かれた。


「大溝と長浜、それに明智光秀の元居城・坂本城を安土と結んでいたが、さらに増やして琵琶湖全体を活用するというわけか?」


「はい。一極集中を避けられます。未来では江戸や大坂が一極集中で膨らみすぎ、さまざまな弊害が出ました。新しく置く城主は、前田利家殿や佐々成政殿など、信長様が小姓から引き立てられた信頼厚い方がよろしいかと」


「内蔵助と又左衛門か。……なぜその二人だ?」


「私の知る歴史線では、本能寺後に羽柴秀吉が台頭しても、両名は織田家を守ろうと最後まで抗したと語られます。最終的には服属しますが、信は置ける、と」


「確かに、信は置いておる」


「また、謀反が起きても、安土城から船で各城へ即時に退避できる。京で謀反があれば、大津まで下れば船で対岸へ離脱可能。――一極集中を避け、同時に“逃げ道”を確保できます」


 義父上はふっと笑まれた。


「……猿、秀吉をその六城の主に据えぬのは、警戒しておるからだな?」


「羽柴秀吉その人、というより黒田官兵衛を警戒しています。秀吉を天下人に押し上げる才を持つと伝わります。ですので、その勢と距離を取っておきたい」


「うむ……よい。考えよう。今日は大義であった」


 義父上が退室され、森蘭丸が地図を巻こうとしたので、私は手を差し出し止めた。


「――もう少しだけ拝見したく。あとで力丸に仕舞わせます」


 蘭丸はうなずき、弟の力丸に目配せして下がる。


 私は広げられた湖面を指でなぞった。波形の墨のかすれが、まるで本物の風にさざめくよう。視線は、どうしても北へ――賤ヶ岳へと吸い寄せられる。


「……小谷城が近い」


 口に出すと、胸の奥がちりりと疼いた。生まれ故郷。失われた熱は、まだこの湖風のどこかに残っている。


「小谷は、茶々たちの故郷だもんね」


と、真琴様は静かに言われた。


「再興をすぐ提案すべき場所だと頭ではわかるけど、まだ熱が冷めきっていないと思う。民の心にも、いろいろな“熱”が残っているから……」


「致し方ありません。それにしても――水路で編む大きな都市。琵琶湖全体が、一つの城のよう……。まさしく“軍師”と囁かれるだけのことはありますね」


「そんな大層な。未来で見聞きしたものを、今の世に合う形に言い換えているだけだよ」


 謙遜めいた声に、私は微笑み、力丸に地図を片づけさせた。


天主を下り、玄関口までお送りする。


「真琴様。大津城を視察なさる折は、必ずお声がけください。私もご一緒いたしたく」


「おっけー。わかったよ」


 石段を吹き抜ける風が、衣の裾を軽く巻き上げる。


 去っていく背は、口では「統治は皆無」と言いながら――大名の貫禄を、確かに帯びていた。

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