茶々視点外伝 茶々視点・⑤⑤話・未来の道具
義父・織田信長が天主を下りられたあと、私の視線は“光る板”――真琴様いわく「スマートフォン」と呼ばれるものに釘付けだった。
それに気づいた真琴様が、私の隣へそっと移り、指先で板の面を滑らせて見せてくださる。
黒い鏡のような面に、光がふっと灯り、絵が生き物のように入れ替わった。
「これが未来の風景なのですね」
「うん。――これが、さっき信長様が見入ってた南蛮船。サン・ファン・バウティスタ号。奥州で造られるんだ」
言葉に合わせ、画面の絵は次々と変わっていく。金具の光る帆柱、海を裂く舳先。
立派な社殿――大崎八幡宮、鹽竈神社。
そして「仙台」という町で行われるという七夕祭りの景へ。
色とりどりの吹き流しが風に鳴り、町の人々は皆、美しい衣をまとい、男女どころか老若や異国の人まで、笑顔のまま静止している。
まるで宮殿が立ち並ぶかのごとき華やかさ。私は息を呑んだ。
「……誰も太刀を帯びておりませんね」
「ああ、未来の日本では帯刀が禁じられてるから。みんな持ってないんだよ」
「ならば、襲われたらどういたします? 身を守れませぬ」
「はは。町で襲われること自体がほとんどないんだ。法で厳しく取り締まられてるし、“警察”って治安を守る役人がいる。大きな祭りには見回りもね」
「見回り組、というわけですか」
「うん。安土の町にも増やすよう、このあいだ提案したよ」
見回りの話より、私は手元で移り変わる絵に、ますます目を奪われる。
次の一枚――紙で作られたという長い吹き流しの飾りの下、真琴様が、私と同じ年頃の女と腕を絡めて並び立っていた。
「……こちらは真琴様でございますね? お隣の方は?」
「ああ、それは“萌香”。幼なじみ。家が隣でさ」
「親密なご関係で?」
「い、いや、“特別な”関係とかじゃなくて……未来では、友だちならこれくらいのスキンシップ――写真を撮る時は、ね」
「いくら幼なじみとて、好いてもいない男の腕を、そう易々と絡めるものでしょうか。――時代が違えど、そこは変わらぬはず」
「うっ……」
「正直におっしゃいなさい」
「……交際を申し込むつもり、ではあった。けど」
「好いていた“女子”、というわけですね?」
「……はい。そうです。なんか、怖いよ、茶々」
「私のどこが怖いというのです? 夫となる方の“女子”が気になるのは、妻として当然のこと」
「ぐ……それを言われると弱いな。でも、もう心の整理はちゃんと“つけた”から。二度と会えない人だ。およそ五百年も先を生きる人。――幸せであってくれ、と願うだけだよ」
そう語る真琴様の目に、悲しみと悔しさ、そして愛おしさが、淡い光のように宿る。胸が、きゅっと縮む。
「いま、愛しているのは――茶々。偽りはない」
その眼差しを真正面から受けたとき、私は自分がひどく酷い問いを突き付けたのだと悟った。
言葉で、真琴様の目を、刺してしまった――。
頬がかっと熱くなり、座に留まることが難しくなる。
「真琴様。……本日は、さまざまなお話を伺って、頭が少し疲れてしまいました。痛みも覚えますので、これにて戻らせていただきます。――力丸、あとのご案内、頼みます」
控えていた森力丸に声をかけ、私は深く一礼して退いた。




