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茶々視点外伝 茶々視点・⑤④話・博識黒坂真琴

 森蘭丸が地球儀を抱えて戻り、真琴様の前にそっと置いた。


磨かれた球面に、天主の高窓からの光が揺れる。


「この地球儀、不完全すぎるんだよなぁ……地図好きとしてはモヤモヤするけど、まぁ仕方ない。――信長様、話を続けますね。この島国がイギリス、そしてイスパニア(スペイン)。両者は宗教対立が深く、いま険悪です。同じ“キリスト”を唯一の神と崇めながら、宗派で争っている。仏教にも宗派の対立があるのと同じ理屈です。やがて大きな海戦となり、貿易の影響圏を争う段にまで発展します。そこで南蛮人に対し、日本が援軍を出す――などの交渉材料にできる」


 義父上は唇の端をわずかに持ち上げられた。


「ふふ……小癪な手を考えるの。それで、南蛮人を説く口実がひとつ増える」


「でしょう? それと、船の拠点ですが――石山本願寺跡に、大型船が停泊できる施設を備えた“海城”を。信長様も、あの場所に目を付けておられるはずです。俺が知る歴史では、羽柴秀吉がのちに大阪城を築き、西日本最大級の都市へと育てます。ただ、俺は、あの地を“首都”として推すのは賛成できません」


「なぜじゃ。海を埋めれば広大な地所が得られる。商いを興すにはうってつけだ」


「平坦すぎる土地が広がるのです。自然災害――大津波に脆い。人の逃げ場がない。ようやく栄えた都が、一度の大波で呑み込まれれば、損失は計り知れません。私は“だからこそ”できる都市計画――自然災害を織り込み済みにした町づくりを勧めます」


「大津波、とな」


「はい。地震に連動して起きる大波は、人の力では防げません。ですから、人の多く住む都は、できる限り内陸へ」


「では、石山本願寺跡に築く城はどうする」


「造船所と船の基地――“海城”としての役割に限ります。本願寺跡の高台を本丸とし、そこを働く者たちの“逃げ場”として整備する。商いの町はさらに陸側へ。淀川の水運を使えば、海と陸を補い合えます」


 ふたりの言葉は、地球儀の上を渡る風のように、するすると進んでいく。


私はひと言も取り落とすまいと、息を潜めて耳を澄ました。


畳の匂い。茶の余韻。指で球面をなぞる真琴様の爪先が、かすかに光る。


「……あの地を次の居城と考えていたが」


「“首都”としては、琵琶湖こそ最適です。湖を一周する“”の都市。水運は発展を支え、人が増えても水に困らない」


「なるほどな。海には大波が来る。湖には、それがない。……うむ、のちに回そう。来ると知れた災いへ、わざわざ人を誘い込む愚はせぬ」


「懸命なご判断かと」


「うむ」


「――ただし、近江には近々、大きな地震があるはずです。長浜城が壊滅的被害を受けた、と物語で読んだ記憶がある」


「正確な日取りは分からぬのか」


「申し訳ありません、そこまでは。けれど日本は、地震と津波が“定期”に起きます。とりわけ活発になる時期が、もうそこまで。火山も噴きます。富士の山も」


 徳川に縁深い“霊峰”の名に、私は思わず東を見つめた。


「……そうか、あの山が火を吹くか。うむ、胸の隅に置いておこう」


「――いまお伝えできるのは、このくらいです」


「よい。また伝えるべき事が整ったら、いつでも登城せい。大儀であった」


 義父上は裾を払って立ち上がり、天主を下りて行かれた。


 静けさが戻る。

窓の光が地球儀にまわり、金の経線が細く伸びる。


私は胸の奥で、その線をたどった。未来へ続く、見えない航路を。

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