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茶々視点外伝 茶々視点・⑤③話・光る板と南蛮船

 真琴様がふところから取り出した“光る板”。


 私はそれを一度だけ見ている。真琴という人と出会ったあの日――お江が手に取り、不思議がっていた物だ。


あの頃は陰陽師の秘具かと勝手に思い込んでいたけれど、いまは違う。


未来から来た、と聞かされた身としては。


 指先で板の面をなぞる真琴様。


そのたびに、景色をそのまま閉じ込めたような絵が、つぎつぎと移り変わる。


私は思わず身を乗り出し、横から覗き込んでいた。畳の香と、漆の匂い。天主の高欄こうらんから差す光が、板の黒に淡く揺れている。


「……あ、あったこれこれ。――おっと、茶々、いつの間にこんな近くに」


 はっとする。気づけば真琴様の顔に触れそうなほど近い。


頬が熱くなる。


「戯れておらず、早う見せよ」


 義父・織田信長が、あきれ顔で言い放つ。


「はい。……ええと、これです」


「南蛮船か? それがどうした」


「このに映っている南蛮船は、私の時代の“復元”ですが、元となった船はこの時代――今から二十年ほど後、陸奥の大名・伊達政宗が建造します。日本初のガレオン船です」


「ほう……日本でも造れるのか」


「うろ覚えですが、スペイン――この時代ならポルトガル、イスパニアと言うべきでしょうか。そこの冒険家や船乗り、宣教師が監修し、和の船大工に造らせたと聞きます。信長様なら南蛮人との交わりもおあり。頼めませんか」


 義父は“光る板”を受け取り、しばし黙考された。真琴様は私の方へ向き直り、小声で囁く。


「あれはね、“スマートフォン”っていう未来の機械。風景を切り取るみたいに写し絵にして、覚えさせておける。本当はね、離れた人と“話す”ための道具なんだ」


「離れた人と……話す?」


 頭の中で幾度も想像してみるけれど、思い浮かぶ光景はどれも、現世の理からするりと逃げていく。


「南蛮人を奉行に据え、日本の船大工に指図させるか。……できるな」


 義父の声色がわずかに弾む。


「安宅船では外海には不向き。強度も安定も足りません。そこでガレオンです。信長様はすでに鉄貼りの船をお試しのはず。その技を南蛮船にも応用し、大砲を据えた“鉄貼りのガレオン”を造れば――最強に違いありません」


 “最強”という言葉に、義父は口の端を愉快そうに持ち上げられた。


「最強、か。わが名にふさわしい響きよ。よし、九鬼嘉隆に命じ、船大工と材を集めさせる。南蛮人か……交流はあるが、やや難しいな」


「協力が得られませぬか」


「やつらは利にさとい。己らの利を損ない、やがてこちらに攻め込まれるやもしれぬ船を、易々と造らせはすまい」


「でしたら――イスパニアと、イギリスの争いを利用します」


「……どことどこの争いだ」


「蘭丸、ごめん。地球儀、あったよね」


「はっ、常陸様」


 控えていた森蘭丸が、すぐさま地球儀を抱えて戻る。


 天主の床に置かれた球は、朝のひかりを受けて微かに艶めいた。


私の胸の内でも、まだ見ぬ海風が、そっと吹いた気がした。

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