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茶々視点外伝 茶々視点・④⑨話・松の評価

「なるほど。このような料理で胃袋を掴み、そしてその優しいお人柄で心まで掴むのですね、常陸様は……茶々姫様の心までも」


思わず口を衝いて出たらしく、前田松は自分で驚いた気配で口もとに手を当て、すぐさま私に向き直って深く頭を下げた。


「松……余計なことを」


お初が眉をひそめ、桜子たちもそろってこちらを見る。


私は頬に熱がのぼるのをはっきり感じた。


「茶々様、顔、真っ赤」


屈託のない三法師の一言が矢のように刺さる。


追い打ちをかけるようにお江までが――


「ほんとに顔、真っ赤だよ。姉上様、どうしたの。恥ずかしい? 恥ずかしがることないよ。ここにいるみんな、マコのこと心底好きだもんね。ねぇ~?」


「こっち、みんな馬鹿。私は違うわよ」


お初はお江の視線に気色ばんで大慌て。


けれど私はもうその場がおそろしく居づらくなり、音も立てず席を立った。


襖の陰で桜の香がふっと揺れ、私はそのまま広間を辞した。


外気はまだ冷たく、庭の砂利が草履の下でかすかに鳴る。


屋敷を抜けようとしたところへ、お初たちが小走りで追いついてくる。


さらに、背後からは慶次の声。


「姫様方の警護、黒坂家の手練れが裏から付いてますがね。松がうるさくて。大手門まで、拙者がお供つかまつる」


「勝手にしなさい」


私は歩みを緩めず答えた。


行く手で春風が袖をはためかせる。


ふと、三法師が私の手をきゅっと握った。小さな掌は温かい。


「常陸様、いい人ですね」


その真っ直ぐな瞳に、私は言葉を詰まらせる。


お江がすかさず肩をすり寄せて――


「ねぇ~、そうでしょ。私が先に見つけたんだからね、あんないい男」


「あなたは、ただ遊び相手見つけて喜んでいただけでしょうが」


お初がこつんとお江の頭を小突く。


口では毒づきながら、どこか目元は柔らかい。


足舐めお化けだのと罵っていた頃から、そう日は経っていないというのに――私たちは、間違いなく、あの男・黒坂真琴に魅せられている。


お初が何やら言いかけては口ごもるのも、その証だ。


「……姉様、真琴に嫁ぐの?」


「そのような話が出ているのは本当です。黒坂様を高く評価なさっている伯父上が、織田家一門に引き入れたいと」


「伯父上様の命なら、仕方ないですね」


「そんな顔をなさらずとも、わかっています。母上様は『あなたが正直になるなら悪いようにはいたさぬ』と仰せです。――私、思うの。姉妹そろって黒坂家に嫁ぐのが、一番だと」


「なぜ……でございます?」


「他家に嫁げば、敵味方に分かれることもある、この戦国の世。ならば、敵味方に分かれるより、ひとつ屋敷の中で取り合いの喧嘩をしているほうが、まだ幸せ――私は、そう思うのです」


「姉上様……それは……」


答えを探すお初の手を、三法師がまた引く。


春の日だまりのように笑った。幼い笑顔に、私の胸の棘もほんの少し溶ける。


やがて大手門が見えてきた。見張りの槍の穂先が陽を返し、石畳の埃が光る。


「黒坂家家臣・前田慶次、姫様方、並びに三法師君をお送り申した。あとの警護はお任せいたす」


守備兵へ引き継ぎを済ませると、慶次はひらりと踵を返し、大手道を駆け下りた。


黒坂家の屋敷前を風のように通り過ぎ、街のほうへ――酒の香りのする逃げ足であった。


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