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茶々視点外伝 茶々視点・④⑤話・華道

書院の畳に、春の匂いが沈んでいた。水盤の面に窓の光が揺れ、切り口の青い息がふっと立つ。私は、桜と菜の花を一盌に寄せ、池坊専好お師匠様の前に捧げた。


「これは――若い男に見せる花でございますな」


一目で言い当てられて、私は思わず息を呑む。


「お師匠様、よくおわかりになりました。常陸守様に、お目にかけたくて」


「今、織田家で名の上がる御仁。左様で……だからこそ“勢い”が立っております」


「感じられますか、その……勢いが」


「はい。満開の桜、満開の菜。華やかにして、散り足も早い。――ゆえに、常に緑を保つ“松”を添えるがよろしい」


「松……ですか」


「ええ、松。そういえば“前田の松”様は、まっすぐで力のある花を活けなさる。あのお方の花は不思議と息が長い。人が花に生命を与える、とは、あながち誇張でもありませぬ」


「人が、花に……」


「活ける心に迷いがあれば、切り口が崩れ、水が上がらぬ。迷いなく、花のためにスッと切れば、自ずと口は美しく仕上がるのです」


私は残しておいた菜をためらわずに断ち、切り口を見せた。


「迷いはございません。――ただ、筋の読みはまだ浅い。お若いゆえでございます。見聞が積もれば、手が先に“道”を知りましょう」


お師匠様が同じ茎を少しだけ角度を変えて切り直し、水に挿す。たちまち、消えかけていた葉にみるみる水が上がり、艶が戻った。


「茶々姫様。常陸様に嫁がれるのでしょう?」


「……はい。伯父上の仰せのままに」


「ふふ。『命じられた』とは申されますが、すでに“思い人”であった。――この花が語っておりますよ」


返す言葉が見つからず、私は花器の水面に落ちた桜片を指で寄せた。


「いずれ私も、お目にかかりたいもの。上様のみならず、茶々姫様まで虜にする御仁とは……松との相性が、よさそうです」


そう言って、お師匠様は私の花に細身の若松を一本、風の通り道にすっと差した。桜の薄紅と菜の黄の間で、常盤の緑が座を締める。


――“勢い”に“永らえ”を。


その教えが、胸の奥で音もなく沁みた。前田の松様の名が出たときの含みを、私は見逃さない。黒坂様の傍らに、永らえる緑を――人にも、花にも。


「……精進いたします」


私が頭を垂れると、鋏の刃がひとつ、澄んだ音を立てた。外では、遅い花嵐が、庭砂をやさしく撫でていった。

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