第11話 神文血判
『神文血判』または、『起請文』は、戦国時代一般的な物で同盟や和睦、家臣の忠誠を誓う為に神仏に誓うと言って書くもので書かれた約束事を破れば神仏の罰を受けると言うのだが神仏を信じていなければ紙屑同然か?
「あの契約書を良いですか?起請文と言うのか神文血判と言うのか」
ギロリと音がしそうなくらいの目で俺を睨み付ける織田信長。
俺はまるで、蛇に睨まれた蛙の気持ちだった。
「良かろう、書いてやる」
意外な答えに俺が驚く。
「へ?」
「屁は、出ん。意外か?起請文」
「えぇ、織田信長が書くイメージがなかったもので」
「いめぇぇじ?」
首を傾げる織田信長だがあまり気にはしていないみたいで、座ると蘭丸が机と筆、硯を用意した。
「生憎だが起請文の紙はないが、誓紙して書く、さぁあ、なんて書いてほしいか言ってみろ」
神文血判のあの独特の紋様が入った紙はやはり持っていないのね。
何を書いてほしいって、そりゃー身の安全を保証してほしいから。
「俺の身の安全の保証と、無礼を許してくれる事、あと待遇ですかね?」
「わかった、どの神に誓えば良い?」
「鹿島神宮の武甕槌の神にお願いします」
◆◆◆
黒坂真琴
無礼御免の義、許可する物なり。
領内勝手自由とする。
身体危害加えないと誓う。
また、何人なりとも危害加えてはならない。
客分として三万石相当の金子で迎える物なり。
以上、鹿島神宮武甕槌大神に誓う。
織田信長
◆◆◆
まぁあ、現代語的にこのような事が書かれて花押に血判が押してあった。
「うわースゲー、これ平成に持ち帰れたら、間違いなく国宝級なんだけどなぁ、いや?重要文化財かな?でも、歴史では価値は大きい起請文、これで『天下布武』の印もあればなぁ、これで官位官職も書かれていたら絶対に国宝」
紙を賞状のように受取り高々とあげて喜ぶ俺に、不思議な者を見る目をしている織田信長。
「天下布武の判子が欲しいのか?」
「はい、あれ凄い有名ですから」
「わかった、押してやる」
と、蘭丸がすぐに運んできて織田信長がグイグイと押して完成した。
「しかし、なぜに神文血判を作ってくれたんですか?」
「知れたことよ、神隠しにあったものに助けられてもなお神を否定するには理に合わない事、貴様が知る歴史では本能寺で死んだのであろう、わしは?天から与えられた寿命が伸ばされた、と。違うか?運命は変わったのだ」
確かにそうだろう。
俺のタイムスリップは神隠しとしてとしか説明できないのだから当然かもしれない。
「蘭丸、これを表具師に巻物に仕立ててもらえ」
「はっ、かしこまりました。黒坂様一時お預かりいたします。お館様、そろそろ出陣の刻限」
サッ、と立ち上がる織田信長。
「黒坂、貴様はしばらく本丸御殿に隠れていろ、外は明智の残党がうじゃうじゃおる、明智の残党を蹴散らしてくるわ、いざ出陣!」
そう言って織田信長は天主から降りていった。