表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1191/1238

茶々視点外伝 茶々視点・③⑤話・臣下の礼

天正十一年(1583)春。


安土城の大広間に、織田家の重臣が居並ぶ。そこへ、越後の上杉景勝、羽州の最上義光、奥州米沢の伊達輝宗が召し出された。

定式どおりの挨拶に続き、織田家へ忠節を誓う神紋血判状が差し出され、三大名は正式に織田家家臣の末席に列することを許される。


私は襖の隙から、その一部始終をのぞき見ることを許されていた。


――あれ? 黒坂様がいない。なぜ?


背後に控える侍女に身を寄せると、黒坂家の裏柳生のくノ一が、気配を殺した小声で告げた。


「大殿は台所にて、饗応の支度に不備なきよう目を光らせておられます」


私は小さくうなずく。


儀式がつつがなく終わるや、伯父上は森蘭丸に命じ、料理を運ばせた。

安土城の料理方が整えた本膳に加え、黒坂家自慢の“異国めく”品々。

見たことも聞いたこともない膳立てに、三人の目は思わず釘付けになる。


「東国の田舎では口にせぬであろう。南蛮の“フライ”と申す品々よ」


伯父上はみずから箸を取り、ひと口。


「相変わらず美味いのぅ。――ほれ、熱いうちが格別じゃ」


勧められても、三人はわずかに逡巡の色を見せる。

上杉側に控える家臣――直江影継が、主へささやくのが見えた。


「殿、慣れぬ物はお控えあそばせ」


伯父上は一笑に付す。


「毒など入ってはおらぬ。――蘭、毒味をいたせ」


「はっ。――上杉様の御膳より、ひとつ拝借」


蘭丸は懐紙に牡蠣フライを取り、座へ戻るや迷いなく口へ。


「おお……西の海の牡蠣を、わざわざ運ばせただけはある。実に美味」


素直な感想に、上杉景勝がわずかに眉を動かす。


「……“西の海”?」


蘭丸は淀みなく応じた。おそらく事前に言い含めがあるのだろう。


「饗応役の者曰く、『お国に近い味こそ何よりのご馳走』と。西海の牡蠣を選び申しました。

また、最上様は“鮭”を殊の外お好みと承り、工夫を凝らした品を。

伊達様には、魚のすり身と卵を合わせ焼いた“伊達巻”をぜひに、とのことでございます。

そのほか、お供の皆々には、鳥と牛蒡を炊き込んだ握り飯と、豚の肉を具とした熱々の汁を振る舞っております」


毒味は済み、好みも立てられている――口に運ばぬわけにはいかぬ。

三人は恐る恐る箸をのばし――その顔が、一度にゆるんだ。


「牡蠣をこのように……初めてだ。――美味い」


“偏屈者”と評されていた上杉景勝でさえ、続けて言う。


「お供の者にまでお気遣い、痛み入る。上杉景勝、何と礼を申せばよいか」


深く頭を下げると、最上義光は鮭の皿を見つめ、短くも重い一言。


「鮭の旨みが逃げぬ。――美味」


伊達輝宗は、伊達巻のやわらかな甘みに目を細め、しみじみと頷いた。


盃も進む。箸も進む。

控えていた森力丸が、膳の減り具合を見ては台所へ合図し、都度、熱々が差し替わる。

三人の箸が止むまで、しばし時を要した。


伯父上は満足げに座を眺め、かつて黒坂様を陰で笑っていた織田家の家臣たちでさえ、黙々と箸を動かし続ける。

この広間にいる者すべての“胃袋”を掴み切って――黒坂・常陸介・真琴は、戦わずして勝利したのである。

電撃大王連載中

挿絵(By みてみん)

電撃コミックスNEXT

⑦巻2025年10月27日発売☆

挿絵(By みてみん)

原作継続中

オーバーラップ文庫

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍版案内】 13巻2026年2月25日発売 i1090839 i928698 i533211 533215 i533212 i533203 i533574 i570008 i610851 i658737 i712963 i621522 本能寺から始める信長との天下統一コミカライズ版☆最新情報☆電撃大王公式サイト i533528 i533539 i534334 i541473 コミカライズ版無料サイトニコニコ漫画
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ