表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1182/1182

茶々視点外伝 茶々視点・②⑥話・留守居役黒坂常陸介

伯父上が兵を率いて京へ発たれると、黒坂様は真面目に本丸に詰め、上様より宛てがわれた部屋に入られた。

本丸の門には柳生宗矩とその配下を配置し、前田慶次には二ノ丸の巡回を命じている。立ち居振る舞いも、いつしか武家の大将としての体裁を備えつつある。


その様子を母上様とともに遠目に見ていると――


「黒坂様にも、大将の風格が少し芽生えてきたようね」


「当然にございます。でなければ困ります」


「まあ、茶々がなぜ困るのかしら。黒坂様は兄上の“客分”。家臣ではないのだから、大将として育たずとも差し障りはないでしょうに」


「……」


「ふふふ、冗談よ。――それなりの大名になっていただかねばね。輿入れするには」


「母上様、わたくしは黒坂家に輿入れしたいなど、一度も申し上げておりません!」


「そんなにむきになって否定しなくてよいのよ、茶々」


母上様は、私の心の奥底まで見透かしている――私はいま、織田信長の姪。いつ政略のために嫁がされるか分からぬ身である。見知らぬ大名に出されるくらいなら、黒坂家へ……そう思ってしまう自分がいる。


「母上様。では、黒坂様が出世なさるには、どうすればよろしいのでしょう」


「黒坂様は、戦に出ずとも出世するわ。あの御方は、それほどの知を備えておいでだから。兄上の“軍師”の座が黒坂様へ移るのも、遠い先の話ではあるまいね」


「それほどの……。もしや、大陸の唐や天竺、あるいは南蛮まで行き来したことが?」


「茶々。黒坂様のことは、ご本人からお聞きなさい。時が来れば、あなたの問いにすべて答えてくださるわ」


母上様はそう言って、するりと奥の間へ消えた。


私も居室へ戻ろうと廊を折れたところで、声が耳に入る。


「――常陸殿は、あくまで上様のお客人。留守居役も名目上のこと。警備に指示など出されずともよろしい」


「いや、名目であっても役をいただいた以上は、全うしないと。相応の御扶持も賜っているからね」


佐久間信盛の家臣が、遠回しに黒坂様へ“控えよ”と釘を刺している。


「留守居役奉行を申しつかった我が主・佐久間信盛様では、不満がおありか」


「不満はないよ。ただ――この前の明智の変の折、残党が忍び込んだろう? ああいう事態は二度と避けたい。だから、うちの身軽な者たちに巡回させているだけ。気にしないでくれ」


「……ちっ、新参者が出しゃばって」


その舌打ちが、私の耳にもはっきり届いた。胸のうちに熱が走る。私は一歩進み出て、わざとらしく声を張った。


「黒坂様が警護のお役を引き受けてくださっているおかげで、私どもは安心して過ごせます」


振り向いた佐久間家の家臣は、はっとして膝をつき、深く頭を下げた。黒坂様が肩をすくめ、私に笑いかける。


「あっ、茶々。しばらくは本丸泊まりだから、よろしくね」


「こちらこそ、お願い申し上げます」


私が恭しく頭を下げるのを見て、家臣はそれ以上、黒坂様に絡むことなく退いた。

雪の明るさが庭を白く照らす。


静かな白の下で、本丸の布陣は、黒坂様の采配に従って、少しずつ、しかし確かに形を整えていった。

電撃大王連載中

挿絵(By みてみん)

電撃コミックスNEXT

⑦巻2025年10月27日発売☆

挿絵(By みてみん)

原作継続中

オーバーラップ文庫

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i621522 【書籍版案内】 最新情報オーバーラップ文庫公式サイトへは画像をクリック i533211 533215 i533212 i533203 i533574 i570008 i610851 i658737 i712963 本能寺から始める信長との天下統一コミカライズ版☆最新情報☆電撃大王公式サイト i533528 i533539 i534334 i541473 コミカライズ版無料サイトニコニコ漫画
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ