表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1178/1184

茶々視点外伝 茶々視点・②②話・黒坂真琴と大鎧

「……げっ。大鎧が届いてしまった」


私たち姉妹が、いつものように黒坂家の屋敷でくつろいでいると、今井宗久の使者が具足入れを抱えて現れた。


「常陸様。主人の申しつけにて、甲冑をお納めに参りました」


「え? もう出来たの? 頼んだの、つい先日だよね」


「いえ、こちらは常陸様が鎧をお持ちでないと聞き及び、もしもの折のため主人がご用意したもの。いま採寸して拵えております南蛮式甲冑とは別物にございます。たまたま常陸様の体格に合う品が手に入り、急ぎお運び仕りました」


「俺、合戦へ行く予定はないんだけどな……」


私は口を挟む。


「黒坂様。織田家に席を置く身であれば、戦はいつ起こるとも知れません。今井宗久殿の気遣い、ありがたく受けるべきです」


「そうよ。姉上様の言うとおりだわ」


稽古を終えて汗を拭いながら、お初も顔を出す。


「御大将、姫様方の申すとおりにござる――おっと、俺はちょいと一献に」


前田慶次は慌ただしく袴の裾を払って出ていってしまった。


「みんながそう言うなら、受け取っておくか。代金は?」


「上様より賜っております。それと南蛮式甲冑は一月ばかりで仕上がる由、主人より言付かっております。それまでのあいだ、なにかございましたら、まずはこちらを。――では用は済みましたゆえ、これにて」


使者は礼を正して去っていく。


黒坂様は桜子たちに命じ、具足入れから甲冑を出させて床の間に飾らせた。現れたのは、堂々たる大鎧。


「また古風な鎧だね」


「体格に合うのが、これしかなかったのでしょう。大鎧は太刀を振るに良いけれど、防御はやや心もとないのよね……」


「つべこべ言わないの。仕方ないじゃない、真琴は背が高いんだから!」


お初が少し叱るように言う。


「わかったよ、わかった」


「ねぇねぇ、マコ~。着て見せてよ」


「一度、着慣れておくか。桜子、手伝える?」


「はい。こちらに参る少し前、武家奉公の作法を――森家にて仕込まれております。三人で手伝えます」


「じゃあ、奥の間で」


黒坂様は大鎧とともに奥へ。三姉妹が手際よく草摺を整え、袖を吊り、威糸の張りを見て、緒を結ぶ。ほどなく、具足櫃の香木の匂いとともに、武者姿が広間に現れた。


「――“馬子にも衣装”って言うのかしら?」


お初が横目でからかう。


「それ、似合ってるってこと?」


「か、勘違いしないでよね!」


「どっちなんだよ、まったく」


そうぼやきつつ、黒坂様は庭へ出て太刀を抜き、軽く素振り。草摺がさらさらと鳴り、日の光が小札の面に細かく走る。


「マコ、すっごく似合ってる。かっこいい!」


お江が目を輝かせると、黒坂様はつい口元を緩めた。


「黒坂様、着心地はいかがで?」


「なかなかいい。古い物を――ええと、リメイク……いや、改めて仕立て直して急ぎ整えてくれたんだろうね。剣を使う俺に合わせてある。ほら、この脇のあたり、振りが邪魔にならない」


「それは結構。これで、当面なにか事が起こっても一安心ですわ」


「はは……事なんて、起きてほしくないけどね」


苦笑いが、兜の無い額に柔らかく浮かんだ。


――後日、私は今井宗久に確かめた。

この大鎧は武田家秘蔵・楯無たてなし鎧の“写し”の品だという。黒坂様の体格に急ぎ合わせ得るものがほかになく、まずはこれを。だが物は上々、いずれ南蛮式が出来上がれば、間に合わせの役目を終えて床の間を飾るにふさわしい――宗久は、そう評していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i621522 【書籍版案内】 最新情報オーバーラップ文庫公式サイトへは画像をクリック i533211 533215 i533212 i533203 i533574 i570008 i610851 i658737 i712963 本能寺から始める信長との天下統一コミカライズ版☆最新情報☆電撃大王公式サイト i533528 i533539 i534334 i541473 コミカライズ版無料サイトニコニコ漫画
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ