⑦④話 女間者
【時系列・原作書籍⑤巻付近】
「しかし、隣国が、常陸大納言様というのはかなり厄介」
「だから、磐城の守りを強固にするのにそちの平城と俺の小名浜城が必要なのだろう」
「藤五郎殿、もう酔いが回りましたかな?常陸大納言様の軍に城は無意味」
「なにを言うか、攻められている間に背後をから突撃すれば勝機はある」
声を荒げる藤五郎を小十郎が宥める。
確かに少し酔いが回ってきているな。
「藤五郎、けしてこちらから仕掛けることのないようにな。それと磐城は国境、左衛門、草からの情報がなにかあったら早馬で仙台に知らせるようにな」
「はっ」
「左衛門殿、黒坂常陸様は湯治を大変好まれると聞き及んでおります。もしかしたら佐波古の湯に忍んでくる様な事もあるやも知れません」
「小十郎殿、流石に国を跨いでは来ますまい。常陸には大子と呼ばれるところに良い湯があるとか、そちらに行くのでは?」
「黒坂常陸様は寒がりで有名、これから春が訪れるまでは山奥は控えるかと」
「なるほど。忍んで来るかどうかは別として湯女として差し出しお手つきになれば側室としてそばに置けるか」
「お~、それは妙案ですな殿」
「大変真面目な気性で今は側室になった元下女も婚姻の儀をしてから抱いたと聞き及んでおりますが」
「小十郎、そんなの噂にしか過ぎん。酒が入った上で素っ裸の美しい娘が『お背中を流させてください』と来たら抱かぬ男がどこにおるか?小十郎、お前は抱かぬのか?」
「それがしは間者として疑いすぐに下がらせますが」
「つまらぬ男よ。抱いて自分の虜にするくらいの気構えを持て小十郎」
「藤五郎殿、少し酒が進みすぎておりますぞ」
左衛門にすら諫められてしまう藤五郎。
「湯女としては悪くない。上手く佐波古の湯に案内できればの~」
「殿、この鬼庭左衛門綱元そのお役目果たして見せます」
「はははははっ、これは酒の上の話。期待はしとらん。女子を無碍に扱う、無理をすれば逆鱗に触れかねないと聞き及んでいる」
「はぁ~」
藤五郎に目を向けると、こくらこくらと首を揺らしていた。
「今日はこの辺でお開きとしよう。藤五郎、左衛門、領地の磐城に帰り正月はゆっくりいたせ」




