㉞話 愛の勘違い
【時系列・原作書籍4巻付近】
「殿、離縁いたしてください」
突然、妻の愛が神妙な面持ちで黒坂常陸様の献上側室候補の身辺が詳しく書かれた帳簿を見ていると部屋に入って三つ指を付き深々と頭を下げて言った。
「愛、やぶから棒になにを言い出す?どうしたと言うのだ?熱でもあるのか?」
愛は顔を上げずに、床に涙をちたりちたりと垂らしていた。
「なにがどうしたと言うのだ?誰かになにか言われたか? それとも母上様になにかされたか?」
愛を抱きしめ上げ言うと、
「そんな義母様はとてもお優しいかたでございます。なにかと心配していただき・・・・・・」
我の母は武道に精通し男性気質、男として生まれていたらひとかどの武将になったであろうと実の父親に言われているほどだが、曲がったことは嫌いで言葉に棘はあるが陰湿な嫁いびりは確かに今までしてこなかった。
「ならどうして?」
「だって私は用済みなのでございましょう?」
「はぁ?なにを言っておる?」
「なかなか子が出来ない私・・・・・・」
愛は黒坂常陸様献上側室名簿の方に目をやって言った。
「あっははははははは、あっははははははは、これか?勘違い致すな。我の側室ではない」
「お隠しにならなくても・・・・・・」
「これは小次郎が仕える黒坂常陸様に送る側室候補よ」
「大納言様に?」
「あぁ、黒坂常陸様とは隣国となる話が出ておる。あの奇才の軍師として名を轟かせている黒坂常陸様と縁を結ぶ必要がある。人質として仕えている小次郎だけでは心許ない」
「隣国?常陸様が奥州に国替え?」
「常陸守として常陸国を治めるとの噂よ。伊達家は磐城が加増される。となれば隣国」
「それで女子を・・・・・・」
「愛、お前はまだ若い。子の事に悩むのはまだ早いぞ。我の正室は愛お前だけだ」
「殿・・・・・・」
「伊達家はこの度の加増で大きな大名となる。その伊達家を内側から支えてくれるな?」
「殿、その様に言っていただけるなんて」
我の胸元から離れてまた愛は床に三つ指を付いて深々と頭を下げた。
「喜んで精進いたし支えられるようにいたします」
「誤解させてすまなかったな。女子を献上と言う話は不快になるかと思ってな今までいたさなかった」
「お優しい殿らしいですね。ですが、下女とも飯を一緒に食べるほど女に優しいと噂が届く大納言様の所にだったら話は別です。それに隣国と縁戚になることはこの乱世では当然のこと・・・・・・私にその帳簿見せていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、かまわぬとも」
側室候補の帳簿を渡すと愛はすぐに驚いた顔を見せた。
「え?この二人ってもしや!」
 




