僕の戯曲~思い出~
あらすじにも書いてありますが処女作です。
稚拙かもしれませんが、ご容赦を・・・
「ここに来るのも数年ぶりだなぁ・・・」
そう一人呟きながら、僕は自販機でカイロ代わりに買った、あたたかぁい缶コーヒーをコートのポケットに入れ目を瞑った。
数年前、高校を卒業し、大学へ入学した僕は大学生という言葉に少なくはない期待と希望を孕んでいた。そんな折に出逢ったのが、この演劇サークルである。各学年10人程度、役者をしたくて---舞台上という日常とは違う風景が見たくて---集まったメンバー。中には、自分が操作して音を舞台から客席にかけて響かせたいものや自分が作った大道具で舞台上を彩らせたいものなどの日陰者もいたが、それらすべては一つの舞台を作りたいという目標を持っているように見えた。僕もその中の一人であったと思う・・・。
サークルに入って一年、これまでの一年は充実した毎日だったように思う。先輩や同期と仲良くなり、後輩を初めて持ち不安を抱えていた春。
「おい、聞いてんのか?」
「・・・ん?ごめんなんだっけ?」
「あれだよ!次の脚本、お前何狙ってんだよ?」
「あぁ、僕はべつに・・・今回も役者はいいかなって・・・」
「せんぱーい!今回も役者しないんですかぁ?」
こんな他愛のない話を友人としていたとき、彼女は僕たちの会話に割って入ってきた。---今でも頭から離れない笑顔を見せながら。
「うん。今回は大道具する人も少ないし・・・僕がやらないと」
「俺は、あれがいいな、照井!いい感じのキャラ出しててさ」
「照井さんですかぁ!イメージぴったりですね!
でも、先輩の役者見てみたいなぁ・・・」
そんなことをいいながら僕を見てくるのは、一つ下の女の子だ。愛想が良く、笑顔が可愛い後輩は僕たちの学年では人気が高かった。かく言う僕もその一つ下の彼女に惹かれている一人ではあるけれども。
「僕は下手だからな・・・」
「違うんですよぉ!上手い下手じゃなくて、一度見てみたいんですよぉ!」
「そうだぞ。あと、お前はあれだぞ!下手なんじゃなくて台詞が覚えれないだけだぞ!」
「そうだそうだぁ~!」
「ごめんって・・・もう一年近く前の話だからさ、そろそろ許して・・・
あとキミはアレ観てないでしょ・・・」
「「あはははは~」」
などと笑いながら話していた。それから数週間、何事もなく役者が決まり、スタッフ(大道具や音響などといった担当ごとに分かれた7つのチーム)も決まり、芝居は完成に近づいていっていたある日の晩。
サークルの活動から帰宅し、お風呂---と言ってもアパートで一人暮らしをしている僕はいつもシャワーで済ませているのだが---から上がった僕には大学進学とともに買い換えたスマホがベッドの上で音と振動を使って自己主張をしている様子が目に入った。ベッド脇に置いてある目覚まし時計を見ると、ちょうど日付が変わったばかり。
「ん?こんな時間に誰だろ・・・?」
短く切りそろえた髪をタオルで拭きながらスマホのディスプレイにもう一度目を向けるとそこには、あの後輩の名前が表示されていた。僕は少し不審に思いながらもディスプレイをタップし電話に出ると、彼女は耳が痛くなるような大声で
『助けてください!!』
と、こう叫んだ。
耳鳴りがする右耳から左耳へとスマホを持ち替え、焦りながらも彼女をこれ以上興奮させないように、努めて穏やかに会話を始めた。
「どうした?何かあった?」
『助けてください!ピンチです!』
「とりあえず、落ち着て。何があったか話してくれないと僕も・・・」
『台詞が・・・』
「台詞?」
このとき僕は、この一言でなんとなく彼女の言いたいことを理解して
『台詞が意味わかんないんです!!』
いなかった。というより、彼女の言った台詞の方が意味がわからなかった。
「ちょっと待って。どういうこと?僕のほうが意味わかんないんだけど・・・」
『だからですね!48ページの9行目の「ハクシッ」・・・大丈夫ですかぁ?』
「ごめん、この話長い・・・?」
6月下旬の夜。寒いというわけではないが、お風呂上りに髪も乾かさず下着一枚で長電話していると風邪を引いてしまいそうだったので、彼女に風呂上りであることを伝え、少し待ってもらうことを伝えると後輩は笑いながら
『じゃぁ、うち来てくださいよぉ
電話じゃめんどくさいし・・・』
と言う。僕は驚きと期待を持ちつつも、冷静を装いながら家に行くことと準備するから少し時間がかかる旨を伝え、電話を切った。
僕も大学生である。いかに普段は興味がないようなフリをしているとしても性欲はあるし、男色家でもない。むしろ、少し惹かれている女の子からの誘い。胸が躍らないわけがなく、無意味にテンションを上げながらも僕は準備を進めていく。髪を乾かし、クローゼットを開け、お気に入りの服---普段あまり服に気を付けない僕でもまともな服は数着はある。---を選ぶ。その後、登校用のカバンに台本と明日の授業で使う教科書類を念のために入れ、ゴムの入った箱---春の身体測定で無料配布していたものを友人が勝手に僕のカバンに入れていた---をこれもまた念のために忍ばせた。最後に髪がはねたりしていないか再度確認して、家を出た。
後輩の家は、僕の家から大学を挟んだ反対側。お世辞にも近いとは言えない距離を自転車を必死に漕ぐこと15分。彼女が一人暮らしをしているアパートに着いた。アパートの場所はサークル帰りに数人とご飯を食べに行きその後彼女を家まで送ったことがあるので知っていたが、部屋番号までは知らないので、スマホを操作してしばらくすると、スマホから彼女の声が聞こえてきた。
『もしもし~?』
「着いたけど、部屋番号知らないや・・・」
『意外と早かったですね!先輩~上!』
彼女に言われるがままに上を見るとベランダから手を振ってる姿が目に入る。
『401号です~!早くあがってきてくださ~い!』
もう一度スマホから声が聞こえたので、言われた通りに急ぐことにした。4階に上がるとドアが少し開いている部屋があり、そこから彼女がいつもの笑顔でこちらを向いていた。
「すみません、夜遅くに」
「そんな笑いながら言われても、ねぇ」
「さすがの私でも申し訳ないと思ってますよぉ!とりあえず、中に入ってください。」
僕はいつもとは違う少し薄着の彼女に目を奪われながらも、言われるがままに部屋へと入っていく。僕も女の子の部屋には何度か入ったことはあるが、それらはサークルメンバー数人で家で遊んだり、お酒を飲んだりしたことはあるが、気のある・・・しかも後輩の部屋で二人っきりという経験は初めてであった。
「何か飲みます?と言っても、お茶かお水しかないんですけどねぇ」
「じゃぁ、お茶で」
「はぁ~い。じゃぁ、その辺座っといてください。」
と言われ、部屋を見回す。ベッド、四角いテーブル、テレビ、本棚。よくある1Kの部屋である。しかし、カーテンや寝具などは薄緑で統一されており、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
「せんぱーい!あんまりじろじろ見ないで下さいよぉ!」
振り向くと後にはコップ二つを持った後輩がすこしむくれたような顔をしてこちらを見ていた。そして、目が合うとすぐに僕の脇をすり抜けテーブルのそばに座り、僕が座るのを催促するような目でこちらを見ていたので、僕はそれに従うかのように彼女から見て左側に座ることにした。それを確認するとすぐに彼女は台本を取り出すと話し始めた。
「それでですね、先輩に来てもらったのはですね、他でもないこの私の役についてなんですけど・・・」
「うん。」
「この、水谷の『なに一人で黄昏てんですか?』ってあるじゃないですか?それに対して照井さんは『久しぶり』って言うじゃないですか!それも他に言うことあるだろって感じなんですけど!それよりもそれに対して微笑むって!なんですか!!どんな顔すればいいかわかんないんですよ!」
「とりあえず、何パターンかやってみるしかないでしょ・・・で、どれがしっくりくるか決めるしか・・・」
「いやぁ・・・、そうなんですけどぉ・・・あ!それとですね!」
この後も、1時間近くに渡り彼女の役である『水谷』についての談義は続いた。僕は、夜中に電話を受け期待しながら来たものの、こんな風に後輩と『水谷』に対する真面目な談義は何度もしていたのでこうなることは予想はついていた。しかし、ふと疑問が浮かんだ。
「あのさ、別に電話でもよかったよね・・・?」
「えっとぉ・・・」
「それに、僕じゃなくてあいつに聞いた方がいいんじゃないの?『照井』本人に・・・」
「・・・」
と、ここまで言ってから『しまった。』と思った。良く考えればわかることだった。彼女は僕のこと・・・
「あの、呼び出したのはすみません。電話よりスムーズに話し進し、先輩なら来てくれるかなって、甘えてしまいました・・・お兄ちゃんみたいっていうか・・・」
僕のことが好きなわけではないようだ。でも、嫌われてはない。異性として見られているかは怪しい感じだが・・・。後輩に頼られてうれしいような意識されてなくて悲しいような気分になりながら聞いていると不穏な言葉が耳に入った。
「あの人は・・・あの人と二人きりはなんか嫌なんですよね・・・でも、今日中に考えておきたかったし・・・」
「二人きりが嫌・・・?」
『照井』は前も僕と彼女と三人で話をしていた、僕の友人である。狙っていた役が取れてうれしそうにはしゃいでいたのを覚えているが・・・。そう考えているうちに、彼女からの答えが飛んできた。
「いや、別に嫌いとかそういうんじゃなくて・・・真剣に『照井』さんしてますし、むしろ尊敬するくらいなんですけど・・・というか、先輩と一緒に居いたかったっていうか・・・会いたかったっていうか・・・半分口実?」
「ん・・・?ちょっと待って・・・?その先輩って・・・」
「それ以上は恥ずかしいんで言わないでください!!
あ、あぁ~眠くなってきちゃったなぁ、私寝ますけど!先輩どうします?」
「えっと・・・」
「先輩!男ならビシッとしましょビシッと!
しかも、カバンに教科書とか入ってるの見えてますから!泊まる気満々だったでしょ~」
「・・・」
「あと、『あの箱』も見えてるし・・・」
「えっ・・・」
つい言葉に詰まってしまった。カバンの奥に入れていたはずだから見えないはずと思いながらカバンを見ると自分の台本を取り出した時に少し手前まで出てきていたようで『箱』が顔をのぞかせていた。
「先輩、いつまで私に恥かかすんですかぁ?添え前食わぬはなんとやらですよ!」
「えーと、ほ、ほんとにいいの・・・?」
「何度も言わせないでくださいよぉ!」
「ご、ごめん。えっと、その初めてだから優しくしてね?」
「せんぱぁい!それ私のセリフですからぁ!」
その後、僕は彼女が入っているベッドまで行き、彼女の初めてを貰い朝まで抱き合うように眠った。
そして、朝目が覚めると彼女は隣で幸せそうに笑っていた。そんな彼女にキスをし僕は一人で大学へと向かった。
数週間後―――本番当日
本番は無事大盛況の中終わり、本番後『照井』と『水谷』はみんなに祝福されながら結ばれた。
そして、僕はこの日以降サークルへ顔を出すのをやめた。
あの日から今日まで、僕の時間は何事もないかのように過ぎていった。しかし、変わったことは一つだけあった。あの日から僕は彼女と一言も会話をしていない。ふと昔を振り返っていると長い時間がかかっていたようで、ポケットの暖かかった缶コーヒーも冷めてしまっていた。
「ここに来るとダメだな・・・」
と一人呟きながら目を瞑ったままの僕。
『せんぱぁい!なに一人で黄昏ちゃってんですかぁ?』
聞き慣れた声が前の方から聞こえてきたような気がして、
「久しぶりだね・・・」
と呟きながらゆっくりと目を開いた。
そこには彼女の『お墓』があるだけだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
その場の思いつきで書いた作品なので後輩ちゃんがどうしてこうなったのか、作者自信も理解しておりません。
「この後僕がどうなったのか」、「後輩ちゃんの原因は?」などは読者の皆様のご想像にお任せします。
皆様、ぜひ『僕』を幸せにしてあげてください。
感想などございましたら、お願いします。