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②ー3



井の中の蛙大海を知らず、なんて言葉もあるが、大海を知ってしまってから井戸に戻る方が……ある意味ではよほど気力を要するのではないかと思う。なにもしない、成り行きに任せる、というのはある種大きな海に出る、ということだとも考えられなくない。何をするにも、何を知り得るにも『自由』である権利を有した状態で気ままにさ迷う……それが許された状況から、海で何かを始めることに焦りを感じることなどあろうはずもない。だが、行動ってやつはたぶん、多少の焦りから生じるものなのだと思う。


故に、一度怠惰を経験してしまえば………井戸にもう一度飛び込むことも、大海を自ら井戸にしようとすることも、なかなか難しい話になる、ということなのだろう。



「………受験勉強でもすればいいんですかねぇ」



「進路決定急かされてる二年生として言うんやったら、まぁそれも安易には否定でけへんかな……何て言うの、『将来』っちゅうやつはな、これはまぁ押し付けがましいやつで頼みもせんのに向こうからやたらと鼻面押し付けて迫ってきよる。


やれ大学受験やー、やれ就職や、言うてな。


やりたいことも決まらんうちからヅカヅカうるさいねん!ちゅーて殴り飛ばせりゃこんなに楽な事もあれへんけど、これがまぁ………そうもいかんでな。」



「そのこころは?」



「うん。まぁ、周りの大人らの経験談を総括した場合の確率論やなぁ。


九割がた、勉強せぇ言う。それもしょっちゅうな。聞きもせんのにくどくどと………


シンジローもよう聞かんか?今頑張らんと後で後悔する、っちゅうな話」



「んー……まぁ、聞くような、聞かないような………」



察するに、春日野道はかなり近しい親しい大人、具体的には『親』にかなりそういう類いの話をされているのではないかと思う。


確か、本人から聞いた限りでは彼女の両親は数年前の阪神と広島の優勝争いが原因で離婚をしていて、父親と二人暮らしであるはずだが、かといって母親と仲が悪いらしい話も聞いていない。たぶん普通に会っているのだろう。


しょっちゅう、聞きもしないのにくどくど言ってこれるだけ近しい相手なんて普通に考えりゃあまぁ肉親くらいなものだ。それができる状況が揃っているならほぼ間違いないと思う。


ともすればそれは、世の中の高校生、いやむしろ学生全体にとって普遍的なであるのかもしれないが……



「………勉強の事で言われたことは、あんまりないですね。うん。イマイチ覚えがない………」



裏を返せば、それ以外……俺の場合は野球ということになるが、そこではしょっちゅう言われていた、ということになるか。


母親が生粋の野球好き、父親がプロ野球選手という家庭においては、勉強の重要性は一般家庭に比べて多少軽く見積もられているのかもしれない。少なくとも俺自身は、あくまで座学という意味での勉強をしろと急かされた事はない。


それが立派だとか、自由があるだとか誇るつもりもまたありはしないが。結局、スポーツ推薦でプロまで直通で行った父親こと名投手タイヨウには、勉強を必要とした経験が乏しく、その重要性の認識が他に比べて低いという、ただそれだけのことなのだ。


中学時代ならともかく、凡庸に成り下がった今の息子に対しての教育方針として、自分の経験からそれを伝えようとしていないのであれば……それはそれでどうなんだろう、という気もするのだ。


まぁ、そういう気風ゆえに、こういう部活に理解があるのだろうとも言えるが……







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