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七番 ショート 看破 ①

ーーー七番 ショート 看破ーーー



「無理よ。あんなの。死ぬわ。」



バッターボックスから引き返してきた西九条は、開口一番そう言った。その表情はまるで、北海道の山奥で熊を見たかのように青ざめ、体は縮こまっていた。



………一応本人の名誉のため西九条自身の話を先にしておくと、彼女のスイングは間違いなく素人のそれではなかった。


右で文字を書くくせに左打席に入った時点で何か異様な雰囲気を醸していたが、打席の入り方から足場の慣らし方、フォームに入る前のルーティンに至るまでまるごと、阪神不動の四番『鉄人・金子憲明』をコピーし、


バットを相手へ傾け野球部顔負けの気迫で「ッシヤァコォーーーイ!!」と叫んだ彼女は、


もしかしなくとも打つ気満々だった。素振りのスイングも、力はないが無駄なく美しく、当たれば前にとぶくらいのことは可能なのではないかと思わせた。



………だが、圧倒的な実力差は気合いではカバーできない。


初球、二球目と球を見送った西九条。いずれもストライク。見逃すときの構えは超プロ級であったが、


その時点で既に顔には青筋が入っていた。右ピッチャーのカットボールは、ピッチャーから向かって右から左へスライドするもの。


つまり、左打席に立った西九条からは、腹に食い込んでくるように見えるのだ。


むしろ、女子なのに逃げなかったことが凄いというレベル。三球目を意地の空振りで、彼女はヘルメットを取り一例、さいごは逃げるように帰ってきたという訳である。



「プロレベルじゃないわ。あれはプロよ。来年阪神が採るといいわ。あんなのを草野球で野放しにしていたら、競技人口を減らすだけよ」



「わかった、凄いのはわかったから落ち着け西九条。それにまともに立ち向かっていったお前のクソ度胸と野球に対する飽くなき探求心に、俺は感心しているよ。」



「あなたの感心なんて求めていないわ……とにかく、打てっこないわ、あんなの。


絶対、右打席に立ちなさいよ。いい?でないと3Dのアバターを最前列で見るよりはるかに恐ろしい目に逢うわ。


私、こう見えても部員を大切にしたいと考えているの。話し相手が消えるのは惜しいのよ。だから、無事に帰ってこれるように努力しなさい。いい?バッターボックスの一番外側に立つのよ」



「いや……そこまでしなくたって大丈夫だって。あの人コントロール良さそうだし。第一お前も当たってないじゃんか」



「いいわ。ここまで言って聞かないならもう死んできなさい。あの世で後悔するのがいいわ。さぁ。」



とん、と背中を押してバッターボックスへ促してくる西九条。あんまりにもなげやりな送り出し方だなぁ、などと思いつつ、俺は左打席に入る。


向こうの方で西九条が片手で顔を覆うのが見えた。見てられない、とでもいうかのように。



仕方ないじゃないか、左利きなのだから。



足場を慣らしながら俺は思う。



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