0-1 見通す者
・・・彼にもこんな時があったのね
とても可愛らしくて、愛おしくて、
そして狂っている。
彼の時折見せてくれた『優しさ』はこの頃の
記憶があるからなのかしら・・・?
「・・・貴女様は相変わらずですね」
あら?いたの、貴方。
「屋敷の清掃とお供え、そして周辺の散策を終わらせて来たばかりですので・・・」
そう、そういう貴方だって主人を亡くしたのに
全く変わらないのね。
「いえ、あの方はきっと戻って来ますよ。
・・・そういう貴女も、帰ってくる事を密かに期待してらっしゃるのでは?」
・・・期待なんかしてないわよ
「そうですか?・・・ああ、失礼。用事を忘れるところでした」
用事?何かあったの?
「いえ、大したものでは無いのですが・・・
このような鍵が落ちていましたので」
・・・黒と青が半々で塗られている鍵、ね・・・。
「もしや、あの方の『記録』でしょうか?」
そうね・・・、少し見てみましょうか?
えーっと、確かこの本に鍵がかかって・・・・・・
よし、開いたわ。
さーて・・・、何が書かれているかしら?
・・・・・・・・・
「・・・どうかなさいましたか?表情が固まっていますよ?」
・・・これは、彼に起きたことなのかしら?
それとも、彼であって彼ではない別な誰かかしら?
「・・・私にも見せてください」
ええ、どうぞ
「・・・・・・・・・・・・これは」
貴方はどう思う?
「・・・あの方に起きたこと、ではあるが
少々ズレています」
へぇ・・・、どのあたりが?
「・・・それはこの方にも見せてからの方が良いのでは?」
・・・それもそうね
それじゃ、この本も渡しておくわ
・・・私は少し眠るわ・・・・・・
「全く・・・、ここで眠るとは」
「・・・ああ、それでは私も席を外させていただきます。ごゆっくり・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・