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5-Ex 引き継がれる悪夢


 …あの後、皆に私の目のことを言ってみたが、どうやら皆の目には何も変わっていないようだった。なら、これは自分だけなのだろうか?疲れすぎてか、悪い夢のせいか、幻が見えていると?

 

 何度鏡を見ても、そこに写っている目は自分の目ではなかった。何度見直しても、時間を置いて確認しても、その目は変わらず、赤と青の2つだった

 

 「…気にし過ぎかなぁ」

 

 皆が違うと言っているのだから、多分私の見間違いなんだろう。そう思うことにして、私は母さんの元に行く

 

 

 「お母さん、何か手伝うことある?」

 

 「うーん…特にないから、葉華と遊んできなさい。たまにはあの子も外に出て動かないと」

 

 「はーい!!」

 

 

 葉華を呼ぼうと階段の方へ行こうとした。…行こうと、しているのに。何故か母さんに釘付けになって動けない。それどころか、母さんを見ていると、段々喉が渇いてきて…手が母さんの首元へ伸びていって…

 

 「っ!?!?」

 

 何をしているんだ私は!?今…母さんが…いや幻だ!悪い夢のせいだ!!

 

 急いで階段を上り、葉華の元へ行く。相変わらず本を読んでいて、私にはまだ気づいていなかった

 

 彼女を見た途端、突然心臓がドクンと鼓動したような気がした。またさっきの渇きが襲ってきた。頭がぼぅっとして、そのまま葉華を後ろから抱き締め、首元に…

 

 「お姉様?」

 

 ハッと我に返る。葉華がキョトンとした表情でこちらをじっと見つめる。…ダメだ、このままじゃ…!!!

 

 「っ!!!!」

 

 「きゃっ…お姉様??」

 

 葉華を突き飛ばし、私は森の中へと走っていった。とにかく皆から離れないと…私は…私は…!!!

 

 泣きながら森の奥へと駆け抜ける。無我夢中になって走って走ってはしって…

 息も絶え絶えになって、石に躓いて派手にすっ転んだ。壁に強烈にぶち当たり、大怪我を負うはずだったのだが、怪我は一切なく、辺りを見渡すと、そこは見知らぬ洞窟の中だった

 

 一体何が?何で母さんや妹を喰おうとしたんだ!?これじゃあまるで…

 

 「まるで、師匠と同じだ」

 

 ぽつりと呟いた一言で、全てが腑に落ちた気がした。自分が、師匠と同じ状態…人ではない化物になっているのではないか、と

 

 右手に、師匠がよく使っていた銃をイメージしてみる。すると、突然ふわりと右手に銃が現れ、私はそれを握っていた

 そのまま引き金を引くと、弾が1発、轟音と共に発射された。…そこから更に、師匠がよく右腕を異形の姿に変えていたことを思い出してしまう。ふと右腕を見ると、そこにあった銃は既に消えていて、代わりに人ならざる怪物の腕があった

 

 「…ぁ」

 

 声にならない悲鳴をあげる。一気に恐怖が溢れ出し、私はその場にへたりこんだ

 

 

 違う…違う!私じゃない!これは私じゃない!!夢…夢なんだ!まだ夢なんだ!!お願いだから覚めてくれ!!覚めてって!!

 頭を抱え、縮こまる。嫌だ…こんなの私じゃない、違うんだ…私は怪物なんかじゃない…怪物になりたかった訳じゃないんだ…

 ただ私は護りたかっただけなんだ…私は…

 

 …ふと、頭に嫌な考えが思いつく。左手にもう一度銃を構え、私はゆっくりと、それを自分の頭に突きつける

 全身が震え出す。銃を持つ手も不安定で、ガチガチと自分の歯の音が鮮明に聞こえた

 

 呼吸がだんだん荒くなる、今自分が何をしようとしているのか理解しているからだ。それ故に、恐怖はより1層強まる

 

 「…っ!!!!!」

 

 勇気を振り絞り、引き金を引く。轟音と共に、今まで感じたことの無い痛みが襲ってくる

 そのまま力無く壁にもたれ掛かり、私は目を閉じた。これで…これで大丈夫だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そう思ったが、無意味だった

 

 すぐに私は目を開けた。まだ自分で撃った痛みが響く。確実に頭を撃ち抜いた。普通なら即死だ。…撃った後に、考えることなんて出来るわけが無い

 周囲には血溜まりが出来上がっていた。…さっきまで、流れていたであろう自分の血が

 

 「っ…ぁぁぁ…!!!!!!!!!!!」

 

 今まで出したことの無い声が、恐怖と絶望に染った叫びが洞窟に響き渡る。自害できず、害を及ぼす人ならざる怪物

 

 自分もそうなってしまったのだと、自ら証明してしまったのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 …かくして、かの勇者は、自らもまた化け物に成り果ててしまったとさ

 彼を殺したのだ、当然だ。あんな奴を殺しておいて、五体満足で生き残れるはずがないだろ

 

 「はぁ…これじゃあ、幸せな奴はアイツだけじゃないか」

 

 彼女の観察をやめ、彼の墓へ行く。墓前に座り込み、独り言を話す

 

 「これが君の望んだ末路だ。…そうまでしてでも、君は死にたかったのか?見知らぬ誰かの不幸は取り除いて、自らの周りの幸福を潰して、本当に良かったのか?」

 

 当然ながら返事はない。ただの独り言なのだから。そこにはただの無機物しかないのだから

 

 

 …全く、アイツの一人勝ちか。ここまで嫌な思いをするとは思ってもいなかったなぁ…

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