JKはデザートイーグルをぶっ放して脱臼。
拙作、バレンタイン戦役と世界観を同じくした作品です。
外伝的に読んでいただいたら幸いです。
雨が、降っている。
割とザーザー降っている。春の天気と女心は変わりやすいと言うが、ここまで降る春というのもなかなかない。
駅から出ると雨に濡れる。ちゃんと傘を差す。
九六駅のロータリーには車がたくさん来ていた。送迎の車だろう。
ただ、俺は今から仕事だ。
……気配が明らかにまともじゃないのが三人、後ろにいる。
ジャケットにつけた反魂香の香りに引き寄せられているらしい。
あーあ、めんどくせぇなクソが。
そんなことを思いながら人気のない路地裏にレッツラゴー!……テンションあがらねぇ。
レッツラゴーとか死語だよな……。
テクテクと歩いていくと、良い感じの廃屋を見つけた。どうやら廃病院のようだ。
まぁ、下調べはしてたんだけど。
目視で確認したところ、周囲に一般人はいない。めんどくさいから探査魔法は使わない。
大丈夫でしょ、多分。
確認したあとはポケットから十字架を取り出して後ろにぽいっと投げる。振り向くと、十字架が道にズブズブと沈んでいった。
セーヌ姉お手製の簡易人払い結界だ。これで、どんなに騒いでも一般人には見つからない。はず。
ついてきた奴らの顔には少し驚きがある。
容姿は三人ともサラリーマンと変わらない。というか少し前までは本当にそうだったのだ。
ただ、悪霊が憑いてしまった。
それだけならまだどうにかなる。神社だの寺だの教会だの行ってお祓いすればいい。聖性の強い場所なら居るだけで悪霊が消滅する。
ただ、それをそのまま放っておいた場合がこのザマだ。祓魔師だろうがなんだろうが、魂が癒合しすぎて払えない『化物』となる。
広義で『鬼』だの『悪魔』だの言われているものの大半はこれだ。本物とは全く違うが。
そもそも本物は絶滅危惧種だ。
……さて、ネタばらししますか。
「キサマ、ナニモノダ」
はいはい、教えてあげますよ。
「俺が誰かって?知らざあ言って聞かせやしょう。(中略)奇跡調査局奇跡処理部九六支部神道陰陽課員、久眠烏兎たあ俺のことヨォ!」←ちょっとふざけた(テヘペロ☆)
高らかに宣言すると、バッジを見せる。ちゃーんと上からお墨付きをもらったバッチだ。
「キサマァッ!」
三体ともに、殺る気だ。
両目とも瞳の部分から赤くなり、爪はまるで獣のよう。頭から角が生え始め、筋肉が不自然に隆起する。
まさに怪物の名にふさわしい変異。
「ふぅ、大人しくしてりゃ銀のブレスレットつけるだけで勘弁してやったのに……。」
嘘だけど。
そもそももう手遅れだけど。
深呼吸して四肢に魔力をみなぎらせ、いつでも魔導を発動できるようにする。
「……久眠烏兎、これより戦闘を開始する。後悔すんなよクソ野郎共ッ!」
雨が降っていますがそんなこと気にしませんよ気にすると思ったんですかバーカバーカ読者バーカバーカww
「と、いうわけで恋猫はまんじゅうが怖いのです!(チラッ、チラッ)」
「はいはい、久佐木屋の芋まんじゅうね。」
逸見さん、分かってるじゃないですか。
えへへ。
「よぉ〜く分かってますよ。恋猫の考えることは。」
「そんなに分かりやすいですか?いちおうミステリアスなキャラを目指してるんですけど、けどけど。」
「今のは超分かりやすかった。いつもは……まぁ五分五分かな?千歳家の考えることは大概分かんないわよ。」
そう言って逸見はお店に歩いていきます。
ふっふっふ、やはりミステリアスな少女のようですねぇ、恋猫。
もてますねぇもてますねぇ。
男子の皆さん、恋猫のココ空いてますよ。
「はい、これ。十個分先払いするのは恋猫くらいだっておばさん言ってたわよ。」
はずかしいですね。食いしん坊みたいで。
「じゃ、私こっちだから。部活帰りだからって、寄り道すんなよー。」
「あいあい、りょーかいしました大佐ぁ!」
「……ほんとに分かってんのかね。」
逸見と別れるとそのまま家にゴーホームです。
……。
あの影は……
「ねっこさんじゃぁありませんか!ぐへへ、よいではないかよいではないかー。」
ああ、待ってねこさん逃げないで!
寄り道……ちょっとだけならノーカウントッ!
完全に変異が終わる前に処理するのが定石だ。
手に持った傘の先を相手に向けるようにして、顔の横に構える。
「死ね。」
傘から直刀を抜き放つと共に傘――実際には鞘となっている――を鋭く投擲する。
投擲された傘はまっすぐに一体の心臓に吸い込まれ、貫通。
残りの二体がそれに気付く前に懐に潜り込む!
首が斬り飛んで、残り一体。
的確に首をねらった一撃は――避けられた!
丸太のような腕が飛んでくる。
「驚いてる場合じゃッ、ねぇなぁッ!」
紙一重でかわす。
この動きは、先ほどの二体のような低級悪霊ではない。これは多分……
「上級悪霊さんじゃありませんかァッ!」
さすがに、不味い!
「オン・ガルダヤ・ソワカ!」
迦楼羅真言、唱えると飛翔能力を一時的に得ることができる。
また、魔力の練りを甘くすると、ちょっとジャンプ力が上がるくらいになる。
化物の上を飛び越えて背後に回る。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」
不動明王一字咒。狐火が化け物を襲う。
「コレで……無理だよなぁ。」
確かにダメージは与えるが、決定打にはならない。
「黒曜のおっさんだったら火界咒をこの時間で結べるんどろうけどォッ!」
剛脚、剛拳が連続で飛んでくる。
火界咒なんて結べるか!
「サキホドマデノイセイハドウシタァッ!」
「うるせぇ殺すぞ!」
どうせ殺すけど。
「夫霊剣呪振の大刀と申は、即武甕槌太神の霊剣御事を奉申也」
呪文をつぶやき刀を地に刺す。魔力を込めた刀はコンクリートに易々と突き刺さり、そこから神聖な波が広がっていく。
そしてその波に化物は吹き飛ばされた。
「グァッ――コイツ、ナニヲ!」
「距離は取れたな。」
距離が取れたら銃撃戦の始まりだ。
腰からデザートイーグルを抜いて安全装置をすばやく外して撃つ、撃つ、撃つ。
.50AEの銀弾が化物の肉に食い込んでいく。が、それだけだ。
まさかコレで死ぬとは思っていない。まだ最後にシメが――
「ん?猫さん、どうしたのですかい?」
……何で一般人いるのオオオオオオオオオオオ!?
「む!こ、これは……」
おう、そうだはよ逃げろJK。
はよ、はよ。
「これは、中二病の集いですか!?」
「意味わかんねぇよゴホォフッ!」
思いっきり吹っ飛ばされてコンクリートにめり込みますた俺。
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ 」
薬師如来の真言。治癒を促す程度だが気休めにはなる。これで肋骨の痛みを無視する。
背中へのダメージは神札がカバーしてくれたようだし。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫に……見えるのか!?」
「見えません!」
じゃあ聞くなよ。
「あいつですか。あいつが悪者ですね!」
「おう、そうだ。だから早く逃げ――」
「あいつを倒せば良いんですね!」
いや、逃げろって。
JKは落ちていた俺のデザートイーグルを拾うと照準を化物に向けて撃ち始めた。
って正しい姿勢で撃たないと――
「はぐっ」
反動で肩が脱臼するぞ。もう遅いけど。ていうかそもそも撃つなよ。
一般人が生き物に対して銃で攻撃するというのはなかなかできる芸当ではない。どういう精神性してんだこいつ。
ったく……仕方ねぇなぁ。
まぁもとより俺の仕事。一般人を巻きこんだのは俺の責任だ。
そこにつべこべ言ってらんねぇ。
化物が完全回復しJKを睨んでいる。
既に一回空振ってるから、あと四回。
何もない空を斬る、斬る、斬る、斬る。
四回。合計五回。
お願いだからそんな目で見ないで!ちゃんと意味があってやってるんだから!
「サッキジャマシタコムスメガ、シネ」
「嫌です。」
そうだ。今回は――
「火行、土行、金行、水行、木行、急急如律令!」
――間違っちゃいねェッ!
五行相生五連蔓縛り。呪符を一気に五行分投じて相乗効果で相手を縛り上げるオリジナル魔導。
悪霊程度に破られるものじゃない。はず。
「ナッ、マタキサマカッ!」
うるせぇ、死ね。
「未解剣、《伍重土》ッ!」
胸の真中に剣を突き刺す。
すると不可視の突きがその周囲に四大刀現れ、首、右肺、心臓、みぞおちを貫いた。
見えないが確実にそこにあると分かるのは、しっかり化物の体が貫かれているからだ。
原理、由来共に不明、故に未解剣。
魔導師で、これを解除できるものはいない。まして悪霊に解除できるものでもない。
「フンッ、思い知ったか化物。」
「イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ!シニタクナイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
これで、仕上げだ。
「付くも不肖、付かるゝも不肖、一時の夢ぞかし。生は難の池水つもりて淵となる。鬼神に横道なし。人間に疑いなし。教化に付かざるによりて時を切ってゆるすなり。下のふたへも推してする。」
魂を、消滅させていく。
というか、浄化させていく。暴力的な手段を執ったことに対する最大限の謝罪と慈しみを持って悪霊を送り返す。
上級悪霊はこうでもしないと飛んでいかない。
やがて、体は今までの反動によって灰となって消えていった。
残ったのは虚しさだけだ。これだから仕事は……。
他の死体もちゃんと処理して(火界咒で滅却)帰路につく。
さすがに一人じゃきついので、半ば巻き込むような形でさっきのJKに付き添いをお願いした。
「あー違う、こっちだこっち。」
「うるさいですねぇ、人に迷惑をかけてるご身分で。」
うざい。めっさうざい。
「ああ、ほらついた。」
「おお、ここですか。ぼっろいビルですねぇ。」
「黙れ。」
ああ、疲れる。
「ココは……?」
ああ、そっか。説明してなかったな。
っていうか何も知らずについてくるって……安全性の問題があるな。
「ここは、奇跡調査局奇跡処理部九六支部。あんたらとは住む世界が違う奴らがいるところだ。」
こっからもまだまだ続きます。世界観とか設定もどんどん広げていきたいと思うので、よろしくお願いします。