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5話 河川敷

お久しぶりです。

リアルの方がもたついていて更新遅れました。

申し訳ないです。

 コハルは本屋を出た後、川に続く裏路地を歩いていた。

 地面に描かれた子供たちの落書き。

 パンの焼けるいい匂い。

 井戸端会議に勤しむ女性。

 空を見上げると家々の間にロープが掛けられて、所狭しと衣類が干されている。


(ここは、平和な街ね)


 普通の街なら裏路地は孤児や犯罪者の巣窟となる。

 だけど、この街は全体的に明るい。

 街の管理をしている領主が善人なのか、街の住人の人柄が良いのか。

 中にはさっきのような軟派な人もいたがそれも一部分だろう。


(あっ、水の流れる音がする)


 コハルの獣人特有の高い聴力が水路の流れを聞き取った。

 ぎこぎこと舟のオールを漕ぐ音も聞こえる。

 一定のリズムで動かされる櫓声だけで心が落ち着く。

 今日は初夏の晴天。きっと川沿いは陽の光が当たって気持ちがいい。


(うーん、そうね。河川敷で作戦を立てよう)


 コハルは河川敷でゆっくりと作戦を練ることにした。




 大きな石橋を渡った先にある木陰のベンチ。

 ここは水路がちょうど見える位置にある。

 水路では昼時なので昼食をとっている家族連れや網を使って魚を追いかける子供など老若男女が好きな事をして過ごしている。



「絶対俺の方が多かっただろ!」

「いいや、僕の方が跳んだね」


 そんな中、折角のいい雰囲気なのに、少年達と青年が言い争っている。


「町内水切り大会を三連覇した俺にお前が勝てる道理はない」

「兄ちゃん5回しか跳ねなかったじゃん。僕は7回跳ねたもん」

「あれは…………その………調子が悪かっただけだ」


 どうやら水切りの回数で揉めてるらしい。

 ここの水路は水面ぎりぎりまで降りることができて、そこで少年五人と青年が話していた。


「よし、ジュート。もう一回勝負してやる。今回の俺は本気を出すぞ、この毎晩磨き続けた秘蔵の石を使う、ほらお前も構えろ」

(…………大人気ないわね)


 ジュートと呼ばれた少年に必死に勝負を仕掛ける男。

 見た目は軽く18歳は超えている。

 背丈は180センチくらいの細型だが服の下にはムダの無い筋肉が付いている。


(あいつ…………剣士ね、でも修練を怠っている、というか実践経験が無い?)


 コハルは影法師で容姿でだいたいの職業を見破る訓練を受けていた。

 腕、肩から背にかけての筋肉が一般人に比べて発達していて、重心が常に体の中央に置いてある。

 それは剣を扱うと予想するに値する特徴だった。

 しかし、半袖半ズボンから露出している皮膚には傷一つなく、水切りに集中して周りを全く気にしてない様子は武人とは思えない。


(あれなら一瞬で殺れるかな)


 無防備過ぎる背後に急接近して小太刀でグサリ。息の根を止めるのに3秒もいらない。


(もしかしたらドラゴニウスかと思ったんだけど…………)


 英雄は水切りをしていると情報があったのでコハルはあの男がそれではないかと疑っていた。

 でも、コハルには子供相手にムキになっている情けない者が世界最強だとは到底思えない。

 その青年が今水切りをしようと振りかぶっている。


「いくぞ!!オラァァァ!!」


 ぱしゅ、ぴた、ぴた、ぺたん。

 跳ねた回数3回。


「ふふっ」


 コハルは思わず笑ってしまった。

 それは口元を抑えた本当に小さい笑いだった。

 なのに青年は目敏くコハルを見つけ、指をさして、


「そこ!今笑ったろ」


 と、叫んだ。


(えっ?ウソ、私が笑ったって分かったの?この距離で?獣人でもないのにあいつどんな耳してるのよ)


 コハルと男との距離は25メートル以上は離れている。それなのに自分に対する笑いを聞きつけるなんて、彼はとんでもない地獄耳を持っている。

「あはは、兄ちゃん笑われたの?だっせー」

 ジュートがクスクスと笑い、他の少年達が囃し立てる。


「本気出すんじゃなかったの?」

「3回しか跳んでなかったし」

「秘蔵の石とかいってたよね」

「うんうん、いってたー。超キメ顔で」


 カチン、実際に聴こえた訳ではないが男が怒ったのが分かった。


「よーし、もう許さん!!お前ら覚悟しとけよ」


 そう言って青年は足元に転がっている石を拾う。


「あー、これでいいか」


 青年は水切りには向いていないゴツゴツと角張った石を拾い上げた。

 それをビー玉を太陽に透かすかのように掲げる。

「ジュート。悪いな、俺は今から大人気ないことをする」

 青年はジュートの肩に手を置いて続ける。


「いいか、俺は負けない(・・・・・・)


 と言って、2回目と同じように振りかぶり、投げた。

 とはいえ、同じなのは投石のフォームだけだった。

 男の手から高速で放たれた石は水の上を跳ねる。

 その跳ね方が尋常ではなかった。跳ねた後は水路の底が見えるくらいの大きな波門が起きた。それに伴い水しぶきがあがる。


(…………凄い、川が割れたみたい)


 水を切り裂くように進んだ石は水路の壁面にめり込んでやっと止まった。


「どうだ!!凄いだろ」


 青年はくるりと少年達の方に振り向きにんまりと笑った。


「「「「「………………」」」」」


 子供たちは驚いて固まっている。


「ん、なんだ?オレの事見直したか?」


 青年が少年達のそばに近寄って行くと、


「う、うわああああ!!」

「逃げろー!」

「食べられるぅ!!」


 背を向けて逃げ出す少年達。


「おいおい、逃げることないだろ」


 そう言って、追いかけようとして伸ばした手は……虚空を掴んだ。

 青年は頭をくしゃくしゃと掻きながら、


「はぁー」


 しょんぼりと肩を落としてため息をついた。


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