転生ポイント
やっちまった。
うるせークラクション。
この世に生を受け、早40年。
大学を卒業してからというものの、のらりくらり自由に生きてきた。
もちろん、必死に働こうとしていた時期もあったさ。
悪いのは僕じゃない。
僕を雇わなかった会社共だ。
……けれども、確かに僕は悪だった。
働かないということは、社会から見れば十分、悪だ。
だからこういった事態になるんだろう。
急に車が飛び出してきて、残り一メートルで僕と打つかるってことになるんだろう。
そして、僕は、死ぬんだろう。
悪人には、死刑を。
……
「はっ!」
気付くと辺り一面、真っ白な空間にいた。
本当に何もなくて『無』という言葉がお似合いだ。
いや、何もないという訳ではなかった。
下の方に異常な明るさを感じ、覗き込んでみると、小さなパネルがあった。
そこには『転生チャンス!』と大きく表示されている。
「転生チャンス? 転生って……僕は死んだのか」
呟きながら、画面をタッチする。
画面が切り替わった。
「必要転生ポイント、3。スライムに転生可能です、だと?」
画面にスライムという、真っ黒の変な動物が映し出された。
右にスライドしてみると、ゴーレムという動物が現れた。
「たかっ! ポイント120だって!」
次々とスライドしてみると、色んな生物が出てくる。
例えばドラゴン。
こいつは凄い、何せポイントが590もいるからな。
ポイントで一番高いのは、なんと『人間』だった。
1000ポイントも必要とするのだ。
一度スライムの表示に戻ってから、今度は左にスライドしてみる。
マイナスが出てきた。
「花、木……あー。なるほどね、そこら辺がマイナスに分類される訳か」
ポイントが高いほど、自由のきく生物に転生できるってことね。
「って。転生ポイントって何だよ!」
何故か順応していたが、いきなりポイントとか出てきても分からんわ。
もっとこう、説明書とかないのかな。
というか、ここはどこだよ。
生と死の狭間の空間? 魂の墓場?
「ダメだ。どっこにも説明書がないや」
画面にあるのは四つ。
生物の名前、
生物の写真、
必要ポイント、
そして、所持ポイント。
僕の所持ポイントは4。
転生先はスライム、花や木ぐらいだ。
転生ポイントというのは、前世での行いも関係してくるのだろうか。
だって、僕のポイント低すぎるもん。
「はー。どうすっかな」
とりあえず横になって考えよう。
……
それから何時間か経ったとき、考えに耽っている最中に女の子が現れた。
高校生くらいの、あまり可愛くない女の子だ。
ここに来たということは、何らかの形で死んでしまったのだろう。
深いことは聞くまい。
最初は僕も女の子もパニックになっていたが、どちらもようやく落ち着きを取り戻した。
「分かりました。つまり、このパネルに表示されているのが、転生先ということですね」
「たぶん」
僕に聞かれてもよく分からない。
「なるほど、中々面白いですね」
女の子は画面をスライドしている。
そりゃ初めは面白いだろうよ。
でも、だんだん嫌になってくるんだ。
来世がスライムだぜ? 最悪だろ。
そういえば、こいつは何ポイントあるんだろう。
「どれどれ」
「あ、ちょっと急に……」
「はあ!? 1028ポイントォオ!」
信じられない。
僕でさえ4ポイントしかないというのに、この小娘が僕の何十倍もポイントを持っている。
「君さ、前世で何やったの?」
「え? 悪いことはしてませんよ」
どうやら、1028って低すぎだろ! という意味と勘違いしているらしい。
「いや、前世で何か良い行いした?」
「しいていうなら……死ぬ直前に子供を救ったことでしょうか」
「そうなの?」
「はい。私は事故に遭いかけの子供を助けて死んでしまいました」
ああ、高ポイントなのにも納得するわ。
めちゃくちゃ良い奴じゃん。
「そんなに私のポイントは低いでしょうか?」
彼女が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
僕が難しい顔をしているから、また勘違いしたのだろう。
「逆だよ、君のポイントは高すぎる」
僕について色々教えると、彼女は親身になって話を聞いてくれた。
「なあ、どうすれば良いと思う?」
「……何とも言えません」
「だよな、良いなぁ。人間になれる奴は」
「そんな言い方……いえ、すみません」
ちくしょう。
「君さ、もう転生しな」
「え?」
「ここにいられても不快だからさ。いいじゃん、人間になれるんだから」
「……はい。ありがとうございました」
彼女は静かにそう言って、画面をタッチした。
次から次へと操作を続けている。
最後にピッという音が鳴って、彼女は消えた。
「……ちくしょう」
……
ある国に天賦の才を持つ少女がいる。
生まれながらに天才的な行動を繰り返す彼女は、前世の記憶を持っていると噂されるほど、世間に驚かれていた。
その少女は今、花畑にいる。
「綺麗なお花……」
少女は色鮮やかな花畑の端にある、一輪の毒々しい色をした花を手に取った。
誰もが「枯れている」と言うであろう、その花を少女は大切そうに愛でていた。
「良い選択をしましたね」