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俺の条件を飲むか?それとも死ぬか?選べ。

 国王の言葉を聞いて何も発言しなかった俺を見て、希望のメイドが男だという真実を知った事でショックを受けていると思った国王が、なぜか気分良さそうな表情をしながら良い声色を使い話し続けている。


 「君が所望するメイドはこの世界で数年に一人生まれる希少種なんだよ。珍しい存在なんだけど、本人も周囲にいる人も特別不運になったり幸運になったりするわけではない。まあ、祟りだのなんだのと恐れられて生まれてすぐに殺される地域もあるから、本人が不運と考えられるかもね。」

 「サイファーは、私がミラテリアを産む数月前から若い下働きを募集していた時に教会の方が『メイドとしてどうでしょうか』と送られた女性の中の一人でした。サイファーはまだ5歳でしたが、メイドとして今から勉強させることで、メイドながらもミラテリアのお姉さん的存在としてミラテリア専属メイドにしようと思っていました。だけどある時、メイド達が買い物から急いで戻ってきたので理由を聞くと、旅人が『そのメイドは希少種だね』と告げられた話を聞き、専属メイドにする話をなかったことにしました。」

 「そうそう。で、サイファーをどうしようかという話し合いをしたんだよ。ここ一帯は希少種=殺害という考えの持ち主はいないけど、自分の周りにいると知って良い気分はしないからね。でも解雇すると今まで勉強させた費用が無駄になるってことで、そのままメイドとして働いてもらうことにしたんだよ。まあ、その時からずっと他のメイド達のストレス発散の道具として使われていたらしいけどね。ああ、別に君たちを責めてるわけじゃないよ。働けるように手加減をしていたようだし。もし、動けないほどだったら治療しないといけないしね。」


 国王の発言を聞き、無言でサイファーの元まで歩き彼女の了承を取らずに袖を上げる。自分の素肌を無理矢理肌露わにされたというのに、何も感じていないのか微動だにしなかった。彼女の腕は、肌の色が青紫だと言われる方が納得できる様な色をしていた。もちろん、顔や首や手、裾から靴下の間に見える足は俺と同じ肌色をしているから、元の腕の色が分からなくなるほど暴行を受けていた事が分かる。これだと、腹、背中、太腿といった服で隠れている個所も痣まみれの可能性があるな。


 「・・だ?」

 「うん?」

 「なぜだ?なぜ彼女が暴行を受けていることを黙認していた?国王のアンタですら知っていたんだからこの城で働いている全員が知っていたってはずだ。なぜ誰も何も言わない。今知ったとしても誰も何も言わないのはなんでだ!!」

 「いやいや、タカヒロ君そんなに怒るなよ。さっきも言っただろ?殺そうとはしないけど近くにいていい気分はしないって。だってさ、男の身体なのに女性の服を好きで着ているんだよ?誰が見ても皆が思うだろ?」

 「お祭りや祝いの日に男性が女性服を着る場合があります。例えば、そこで立っている全身鎧の騎士団は祝日にメイド服を着て踊ることがありますが、そんな彼らを見た街人は皆笑っています。ですが、それとこれとは違うのですよ。騎士団は皆を笑わせるためにメイド服を着ます。でも、自ら好き好んでメイド服を着て暮らしているサイファーを見て、誰もが思うことは一つです。」

 「だから何をだ!そんな彼女を見て誰もが何を思うって?!」

 「『『気持ち悪い』』っと。」


 二人の言葉を耳に入れた瞬間、頭の中には彼女に対しての疑問が溢れ出てきた。彼女はただ服を着ていただけだ。自分が好きな服を、自分が着たい服を着ていただけだ。それだけなのに彼女は体に傷を負っている。なぜだ?彼女がメイド服を着て何かしでかしたのか?同僚に暴力を振るった?飲食物に毒を盛ったか?金品を奪ったか?何でだ?彼女の何が原因で傷を負っているんだ?


 「そうだ、国王様達の仰る通り。異世界人よ。貴様は異世界から来たのだから知らないのも無理はない。サイファーの様な存在は昔からこの様な扱いなのだ。この土地の住人は殺したりしないが、こんな気持ちの悪い奴に幸福感を与えようとする人物なんていない。存在する価値としては、卑下する対象とされストレス発散の為の道具。それぐらいしかないのだよ。」


 彼女のことで悩んでいる最中の俺の耳に宰相の言葉が流れ込んだ瞬間、俺の身体を今まで湧き出したことのない感情が埋め尽くしていった。それは、自己満足の為に希少種、サイファーを道具扱いするバカどもに対する憤怒。


 【高広様の感情が一定値を超えたことで第1条件が達成されました。第2能力を発動しますか。YES/NO】

 【・・・YESが選ばれました。能力を身体に定着させる為、少し時間がかかります。・・・定着完了しました。最終確認として、発動キーワードの宣言をお願いします。】


 「な、なんかやばいぞ。タカヒロの足元から赤い煙みたいなやつが出てきて身体に巻き付きやがった。おい、タカヒロ!!お前何する気だ?!?!」


 うるせぇな。ん?リンクか。・・・そういえば、こいつと姫さんはサイファーの事笑っていなかったな。


 「リンク、姫さん。お前ら、さっき顔を伏せたのはサイファーが希少種って知ってたからだよな。じゃあお前らもこいつらと同じ考えか?希少種は人間じゃなくて道具か?」

 「嬢ちゃんは分からないが、俺は違う。確かにそこのメイドが希少種だってのは耳に入っていたからな、知ってたよ。だが、俺の生まれはこの地域じゃないし、希少種に関して偏見を持ってはいない。ついでに言うと、勇者も希少種には偏見を持っていない。」

 「わ、わたくしもそうです。昔からそんなリンク様やお兄様と一緒にいたからだと思いますが、サイファーさんに対してそんな考えなど持ったことありません。ただ、サイファーさんを助けようにもお父様やお母さまには逆らえませんでした。」


 ふ~ん、リンクは育ちにより思考が違い、勇者はおそらく勇者として生まれたからだろう。普通の人とは違う存在っぽいし。で、そんな二人とべったりの姫さんも例外っと・・・。


 「そうか。じゃあサイファーを第一に考えてリンクと姫さん、ついでに勇者も対象にしないでおくか。」

 「タカヒロ。さっきも聞いてみたが、お前これから何やらかす気だ?」

 「ん~こいつらが自分勝手にしているから俺もそうしようと思っただけだが?正確に言うと、こいつらの意見や笑った理由に関して気に入らないからまとめてぶっ殺そうとおもってな。ああ、三人は殺さないで置くから安心しな。」


 俺の発言を聞いたからか、それとも俺から発している能力の一端を浴びてるからか、メイド、騎士、女王、国王などこの部屋にいる俺が殺そうとしている奴らが恐怖を感じているのがわかる。強烈な恐怖を浴びてしまったメイドの数人と女王は失神し、王族を守るはずの騎士達は武器を構えるが一歩も動けていない。国王や宰相も騎士同様立ってはいるが、青ざめた顔をしている。


 「き、貴様、何を考えている。私たちを、王族を殺すだと?しかも、その理由がそこの希少種に暴力を振るったり気持ち悪いと思っただけで?そんな理由で殺される?バカなこと言うんじゃない!!」

 「あん?バカなことを言っているのはどっちだ。殺すから黙れよ。」


 俺は国王の言葉に返答しながらサイファーを抱き寄せた。さすがにこれには反応し俺から離れようとしているが、力を込めて離れないよう抱きしめた。あ、やば。身長が近いから顔が超近い。やばい、超かわいいまつ毛長い半目でちょっとうるってしてる若干顔赤くなってて可愛い。・・・ふぅ、サイファーに見惚れたことでちょっと冷静になってきちまった。


 「いいか?確かに俺は異世界人だ。こっちの世界の常識なんてわからないし、希少種に対して俺の様な感情を持つ奴は珍しいんだろうよ。リンク達のような存在もいるが、お前らが希少種に対して持つ感情はこの世界で生きる人間大半に刷り込まれたモノだと思う。希少種=気持ち悪い存在というのが当たり前になっているから今からそれを無くすなんて不可能に近いことだろう。だけどな、」


 抱きしめる力に抵抗する気が失せたのか、先程と変わらず半目で俺の方を見続けているサイファーを一旦見てから周囲を見渡し言葉をつづけた。


 「まだ喋ったこともないし声すら聴いていないが、俺はサイファーを好きになった。一目惚れだ。身体が男で中身が女?んなの知らねぇよ。俺の両親はどちらもバイで兄さんはゲイで姉さんはレズ、そんな特殊家庭で暮らしてきたから俺も特殊なんだろうよ。だが、それがサイファーを好きになった理由じゃない。今まで家族以外を好きになったことがない俺が初めて好きになった人がサイファーだ。身体が、感情が、本能が、心が、サイファーを欲した。ただそれだけだ。自分が好きになった人と皆が仲良くして欲しいとは思うけど、無理に好きになって欲しくはない。誰だって、食べ物、服、遊び、異性、同性、生き方等好みはあるんだから無理強いはしない。だから、お前らが希少種を疎ましい存在だと思うのは勝手だけど、それを俺に押し付けるな。」


 俺の感情をぶつけられた奴らは皆口を閉ざした。サイファーはどうしたのか、俺の発言中から下を向き続けているので表情が分からない。リンクと姫さんも喋る気はなさそうだが、他の奴らとは違って関心した様な表情をして俺を見ている。

 さて、サイファーを見て少し冷静になり言いたいことを言ったので、最後の締めにかかるとするかな。


 「これが最後の選択だ、国王。俺の望む条件を全て飲むか、それとも死ぬか。選びな。」


 俺の言葉を聞いたリンクと姫さんはアホみたいに口を開けていた。顔色が戻った国王は助言を乞う様に周りを見渡すが誰とも顔が合わず、悔しそうな顔をしながら舌打ちをし、望みを言えと呟いた。

 国王の呟きを聞いた俺は、悪魔のような笑みを浮かべた。


 【高広様の感情『憤怒』値が通常に戻りました。YESを選択されましたが、発動キーワードを宣言されませんでしたので第2能力の発動を解除いたしました。なお、再度感情が一定値を超えた場合、YES選択後の能力定着時間は必要ありません。選択後、直ぐに発動キーワードを宣言することで第2能力を発動することが出来ます。】

どうしてこんな長くなっているのか。

話を決めた時は6話ぐらいで終わる話だったのに。

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