どうでも良いから帰らせて。
「んで?この妖精がお前たちの目的ってことで良いのか?」
文句を言った自分を無視して話を進めようとしている俺に対して怒った表情を出している。いや、だからね。勇者の胸を揉みながらだと俺以外の奴らから非難を受けることになるよ?まあ、これがサファイアだったなら目にも止まらぬ速さでぶっ潰すけどね。
「すまない。私達がこの迷宮に来たのはこの妖精自体を探していたって訳ではないんだよ。」
「は?どゆこと?」
「この迷宮には呪いを解くカギが眠っていると言われていてね。私にかかった呪いを解くために来たんだよ。」
「そうそう。勇者の呪いの解除方法を探していたら、この迷宮にカギがあると書物に載っててな。城から近いし丁度いいから来てみたわけよ。」
「ふ~ん。でもさ、勇者が呪い受けたのって結構前なんだろ?なんで今頃になって呪いの解除方法を探してんだ?」
「もちろん私が呪いにかかった時から探していたさ。でも、最近まで小さなヒントすら見つけることが出来なかったのだ。ん?ところでリンク。なぜさっき私の事をタカヒロみたいに『勇者』と呼んだんだ?いつもの様に『リアス』と呼んでいいんだぞ。」
「いや~仲が良いからって今までずっと呼んでたけどさ。タカヒロがお前の事をそう呼んでいたから、なんか『リアス』って呼ぶのに抵抗が出来てしまってな。」
「な、なら略称じゃなくて良いから普通に『イーリアス』と呼んでくれよ。なんで『勇者』なんだ。」
「特に理由はねえな。強いて言えば呼びやすかったからだな。ま、慣れてくれよ。」
「そうだよリアス。こいつらが呼ばなくても俺だけはリアスって呼び続けるからさ。」
杖男に対して「うるさいっ。なぜ呼んでほしい人達には呼んでもらえずこいつだけに・・・」とブツブツ言いながら凹みモードの勇者。別に呼び方なんてなんでもいいじゃん。呼び方を変えることで対応が変わるわけでもなかろうに。
にしても、妖精の行動を見ているのは俺だけなのか。お前ら勇者の仲間だろ?無理矢理はがしたりせめて止めろと言わないか?揉まれている本人が何も言わないから言えないのかもだけどさ。
つか、そうだよ。なんで揉まれてる張本人が何もアクションしないんだよ。
「おい、お前ら。オイラを放っといて仲良く話してんじゃない!もう一度言うぞ!そこの黒いの。オイラを投げ飛ばすなんてただじゃおかないぞ。」
「あ~はいはいわかったわかった。俺が悪かったよ人間ごときが妖精様に暴力を振るうのはいけないことだよね~。・・・もういいよな?話し戻すぞ。お前は呪いを解く鍵ってことで良いのか?」
「呪いを解く鍵~?オイラがここにいるのは人間が来なくてとっても静かにのんびりいられるからいるだけだぞ。」
こいつじゃなさそうだと判断したので他に何かないか手分けして探し始めた。
結論、見つからなかった。探し始めてわずか10数分。教室よりも狭い空間だったからすぐ終わっちゃったよ。
本当にここに手掛かりあるのか?そもそもその本が合ってるかどうかが怪しいと話し始めた。ここで新しい情報が手に入るとすれば、このいつまでも胸をもんでいる妖精しかいなさそうだ。仕方ない。再度妖精に呪いに関して聞いてみか。
「なあ、お前。呪いに関して何か知らないか?お前がずっと揉んでいる勇者が呪いにかかっててな。それを解くのに必要な何かがここにあるらしいんだけど。」
「ん~そもそもさ。その『呪い』って何?オイラが知る限りではこの世界ではタレントやマジックはあるけど、呪いなんて言葉聞いたことないぞ。」
直訳すると能力と魔法か。つか揉んでいるって部分に何の反応もしないな。逆に尊敬するわ。
「・・・つまりなにか?能力や魔法、タレントやマジックはこの世界にある。で、それらによる負の効果をこの世界の人間が『呪い』って付けただけであって、『呪い』という力はそもそもないってことか?」
「わからないけどそうなんじゃないの~?そもそも名前なんてそっちが勝手に色々付けただけだし。区別とか差別とか好きだよね~人間って。」
「それじゃあ質問を変えるか。お前はタレントやマジックによって害された人間を浄化。つまり、対象のデメリット効果を消す方法を知らないか?」
俺の質問を聞き、返答に困っているのかうんうん唸り胸を揉みながら悩んでいる。
・・・もう何も言うまい。
俺がいろいろ質問していることが嬉しいのか知らないが、勇者が微笑みながら俺を見ている。その他は妖精の言葉を聞き逃すまいとじっと見ている。見てるのは妖精だよね?形を変えている胸を見ている訳ではないよね?杖男はともかくリンクが胸を見ていたらこれからの対応の仕方を変えないとな。お前だけはまともキャラでいてください。
「ん~オイラには無理だな。妖精が使ったマジックなら少しは何とかなったかもしれないけど。
でもねでもね。お前の希望通りの事は出来ないけど、オイラには珍しい道具を見つけることが出来るセンサーがあるんだよ。もしかしたらそれが役に立つかもしれないよ?」
『無理』という言葉に俺以外のテンションが下がってしまった。まあ、そうだよな。何か知らないけど呪いを解けるかもという状態だったんだからな。
でも、その後の発言により皆の目の色が変わった。
「ほ、ほんとか?私にかかった呪いを解く道具があるのか?」
「だから呪いじゃないってば。期待させて悪いけど特定の道具だけをセンサーで反応させるってのは出来ないから色んなとこに行かないとダメだね。」
「そこまで願ったりしないよ。それでなんだが、出来れば私たちと一緒に旅をしてくれないか?君の能力が必要なんだよ。」
「ん~相手が人間でも頼られるのは良いものだね~。ま、特にやらなければいけないことなんてないし。良いよ。一緒に行ってあげる。」
「お!なんかトントン拍子に事が進んでるな。良かったな~リアス~。」
「ちょ、おいユリウス!私にとってうれしいことがあったからって抱きついて良いわけではないんだから離れろ。何かと理由を付けて抱きついてくるのはやめてくれ。」
胸には妖精がいるからか杖男が後ろから抱きついている。なんだ?こいつらは付き合っているのかな。
あ~俺もさっさと城に戻ってサファイアに抱きつきたいわ。惚れてるからか元からか知らないけど、サファイアってなんであんなに柔らかいんだろうな。体は男性の作りなんだろうけど、見ても触っても男に見えないんだよな~。まあ、どっちでもいいか。あ~早く帰りたい・・・。
「待った。旅に行くのは構わないけど一つ条件があるよ。」
「こちらの都合に合わせるから仕方ないな。どんなことだ?」
「旅をしている間は君の胸を触らせてほしいんだ。あ、もちろんずっとって事じゃないよ。飛ぶことはできるけど疲れるから移動中は君の胸の上にいるってのが良いんだけど。どう?これが条件だよ。」
この妖精ブレね~~~~~!!触っていても抵抗しないことを知ったうえで、さらに相手より自分の方が上の立場ってことを分かったうえでのこの条件出し!!
こっちの出す条件を相手が拒否することが出来ないって状況を使って自分の希望を100%叶えさせようとしている。条件受けるしかないよね~。条件を飲まないってことは呪いを解くヒントがまたゼロになるってことだし。
まったくなんて野郎だ。知らないだろうけど相手はこの国の王子様だぞ。相手の方が身分は高くても現状が自分有利に働いているからって自分勝手な奴だな。
こんなことしてると、いつかヒドイ目にあって『あんなこと言うんじゃなかった。』と嘆くに違いない。
「・・・そんなことで良いのか?」
「・・・・・・・え?!う、うん。オイラからはそれが条件だけど。良いの?」
「おい、勇者。そんなあっさり承諾していいのかよ。女性の胸ってのはそんな安いものなのか?」
「普通の女性にとっては好きな人以外には触れて欲しくないものだろうな。私も良い気分ではないし。ただ、」
「ただ?」
「見た方が早いな。リンク、あとどれくらいで明日になる?計算では今日までのはずなんだが。」
「ああ?それなら聞くのはこいつの方だろ。」
「そうだぜリアス!俺の腹時計は秒読み可能なんだから!!」
「いちいち大声出すな。それで?あとどれくらいで明日になる?」
何の話をしているんだかわからないが女じゃなくても三人寄れば姦しいな。話しに入る気はないので何かないかな~と見渡すと、妖精が寝ていたところに綺麗な石を発見した。よし、これをどっかで加工してもらってサファイアにプレゼントしよう。オーダーメイドになるのかな?ま、金なんてたくさん手に入るからもーまんたい。
石を取って三人の所に戻ると、杖男がカウントダウンしていた。どうやらこのカウントダウンが終わると次の日になるらしい。はぁ~またサファイアに会う日が伸びてしまうのか。
杖男の「ゼロ!」というカウントダウンの終わりを告げると、勇者の身体から緑色の光が放出してきた。え?なに?勇者も俺みたいに複数の能力持ってるとか?でも、ここでそれを発動する意味はないと思うけど・・・。
あ、まさか転移魔法使う条件とかかな。うわ~それならありがたいな。だって一瞬で城に着くんでしょ。
離れていた時間が長ければ長いほど想いを溢れさすけど、そんな想いは毎分毎秒で溢れているわ!!この溢れる想いをサファイアに注ぐ為に、さ、転移魔法はよ!!
勇者から放たれていた光がなくなっていったが、俺たちのいる場所は一夜を過ごした城ではなく迷宮の最下層から一切動いていなかった。
俺の希望通りの転移魔法の光じゃなかったのはまあ予想通り。それじゃあ何なのさと思い、勇者を見ると先程まで見ていた勇者の姿が見えず、勇者が立っていた場所には別の人物が立っていた。
高身長と銀の長髪は変わらないが、輪郭や身体の作りといった身体的な個所が先程まで見ていた勇者とは異なった人物が目の前に。
そんな新人物を見てリンクはほっとした表情を浮かべ、ユリウスはドヤ顔をしている。先程まで勇者の胸にへばり付いていた妖精はぽか~んという表現を身体で表したような状態で新人物の手の平の上にいる。
俺?俺は分かっていたけど転移魔法じゃないことに悲しんでるよ。
新人物は周囲を見渡し空いている左手を握ったり開いたりして体の動きの確認?をしている。
あれ?グーパーグーパーしているその左手・・・
「やはり計算通りだったな。タカヒロ、妖精殿、改めて自己紹介だ。この国の王子でミラテリアの兄で勇者として産まれ、幼少時に呪いをかけられたイーリアス・ダーゴーンだ。これからよろしく頼む。」
緑色の光が消えたら勇者(女)が勇者(男)に変化した。今の言葉からすると勇者(男)が正しいようだな。
・・・ふむ。つまり勇者が受けた呪いってのが女に変化するということなんだろう。それを解くためにここに来たわけか。
納得している俺の方に妖精がふらふらと飛んできた。また投げてやろうかと思ったが真面目に凹んでるっぽいからやめとくか。
手を前に出すとそこにちょこんと着陸した妖精は膝立ちで両手を目の前に出し震えながら呟いた。
「男とか・・・。あんなこと言うんじゃなかった・・・。」
早い、早いよ妖精!!
ま、女性の胸が好きだからあの条件を出したんだしな。また女性の身体になるんだとしても元が男だと知っているから触っても嬉しくなかろう。
よし!何はともあれ。これで目的は達せられた。いざ城へ。
次はタカヒロが出かけていた時の城での話をしようかと思います。