勇者専用の剣を持っている人がいるけど
目的地である勇者たちがいる場所に向かって歩いていると、急に壁が盛り上がり敵と思われる物体が現れた。へ~迷宮の敵はこうやって襲って来るのか。見た目が狼みたいだけど、壁から生み出されているからか身体が石でできていたり、お馴染みゴーレムさんが敵対行動しかけてきた。攻撃が出来ないし無駄に札を使えないから、リンクの戦闘の邪魔にならない様にぴょんぴょんと敵を煽りながら攻撃を避け続けた。痛くないから当たってもいいんだけど、煽っとかないと全員がリンクに向かっていくと危なそうだしな。やっさし~俺。
そんな俺を横目で確認しながら危なげなく敵をどんどんと倒していってるな。リンクが強すぎるのかそれともこの迷宮の敵が弱すぎるのかは不明だけど、これなら三日と言わずに勇者の所へ辿り着けるかもしれないな。
そう思っていた時期が俺にもありました!!
・・・確かに。確かに敵は雑魚と言っていいほど簡単に倒されていくんだけど、出現率高すぎない?迷宮に入ってから敵がいない時ないんだけど。最初に敵が出てきて、倒したと思ったらその後からぞくぞくとゴーレム系獣系蝙蝠系と多種多様の敵が襲ってきて、たまにスライム系(こっちは石じゃなかった)も出てきて倒しても倒しても現れてくる。なるほど。この迷宮の敵は雑魚なんだけど、ポップ率が以上に高くて倒しながら歩かないといけないから時間がかかるんだな。
これ、帰りもこんな風に移動しないといけないのかな。倒せないってことは敵がどんどん出てくるわけで、そうすると通る隙間がなくなってしまうから俺だけ走って逃げるって選択肢は取れない。やはりここは敵を分散させて、一体一体リンクに倒してもらいながら進むしかないか。
リンクが敵を倒している最中、もぐもぐと食事をしながらのんびりしていると、睨み殺すような目つきで俺を見てくる。分かった分かった。ごめんよ一人だけ食事していて、っとリュックから腹持ちが良さそうなものを選んで武器を振り回しているリンクにあ~んをしてみた。背に腹は代えられないと思ったのか嫌々ながら口に入れた。いや、俺だって初めてのあ~んが好きな人じゃないってのは黒歴史だよ。
そういえば、この世界でした食事ってリュックに入っている非常食だけなんだよな・・・。城を出る前に朝飯を食わないで出かけたのは失敗だったかも。城から迷宮に来るまでの道のりで村も見かけなかったし。味気ない。
迷宮に入り敵を倒しながら歩き続けて恐らく三日目。頭上から青白い光が照らしているけど、太陽や時計がないから正確な時間が分からん。入ってから眠たくなって二回寝たからたぶんそれぐらい経っているだろう。
ま、俺は良いよ。攻撃が食らわないから気にせず寝れるし。でもリンクはすごく辛そう。倒しても倒しても敵が出てくるし、こっちが動かなくてもお構いなしに攻撃してくるからそれの対処しないといけないし。 この迷宮での俺とリンクだけのパーティって相性悪いな。普通は交代で休憩するんだろうけど、俺が敵を倒せないからリンクの休む暇がない。数日寝てないうえに寝て気分がすっきりしている俺を見て一層機嫌悪そうだ。
リンクが頑張ってくれたおかげで、ようやく目的地っぽい様なだだっ広い空間に出た。ここは先程までいた道とは違うのか、俺たちが歩みを止めても周囲から敵が湧くってことがなくなった。けれど、今までの様な敵が出ない代わりに、目の前には全長5メートルぐらいの敵と思われる存在が一体だけいた。ゴーレムでさえも2メートルぐらいの大きさだったのに、もしかしてここのボスなんだろうか。
そんなビッグモンスターと戦闘している人たちを発見。薄紫色の髪を後頭部でまとめていて左手に杖を持っている人と、杖男の前方で剣を構えながら攻撃を避けている銀色の長髪の人。剣を持っているのに避けてばっかなのは敵が情報通り物理攻撃無効だからかな。でもあの敵って・・・
「リンク~。もしかしてあのでっかい奴が物理攻撃が効かない敵で、そいつと戦っている二人が勇者とお付の人ってことでOK?」
「はぁはぁ・・・ちょ、ちょい待て。お前はともかく俺は連戦してたから疲れてるし眠いんだよ。
は~・・・ふぅ~・・・。良し、んでなんだっけ。ああ、そうそう。あのでかい奴がどんな攻撃も効かない敵だ。あれをどうにかするってのがタカヒロが呼び出された理由だよ。
んで、お前が言ったお付の人ってのはユリウスっていう仲間の一人で回復魔法と補助魔法を使える。もう一人が勇者である嬢ちゃんの兄貴のイーリアスだ。勇者の証拠として、ここからじゃ見えないが竜紋の付いた鍔が付いた剣と鞘を装備している。」
ふ~ん。なるほどなるほど。銀髪が勇者でパイナップルのヘタが杖男ね。どうでもいいや。つか、いくら疲れているからってのんびりしすぎじゃない?てっきり、勇者たちの所に着いたら慌てて勇者を助けるのかと思っていたんだけど。
「それじゃあどうするよ。とりあえず魔法攻撃は効くかもっていう可能性にかけて攻撃してみる?」
「ん~それでいくのは良いが、敵に向けて投げるだけで良いにしても慣れていない武器だから当たるか不安だな。」
「それもそうだ。じゃあ、どうせ無力化するんだから俺が攻撃を浴びているうちにやってくれ。俺がやられる心配はないんだからゆっくり正確にな。んじゃ行ってくるわ。」
リンクからの返事を待たずに敵に向かって走り出した。途中で杖男の横を通った時声をかけられた気がするが無視。そのまま走っていると、攻撃を避けるのに失敗したのか勇者が足を滑らせていた。まあ仕方ないよな。リンクが助けを求めて出かけてから10日以上かかるんだから。あれ、リンク凄い頑張ってね?一人で城に向かったならさっきみたいに寝ないで迷宮から出たんだろうし、休憩を挟まなかったら5日間寝ないで城に来たわけだ。・・・少し労わるかな。
さて、敵が目の前にいて焦っているのかうまく立ち上がることが出来ない勇者が目の前にいる。そんな勇者に攻撃をぶちかまそうと敵は腕を振り上げている。立ち上がることを諦めたのか、意味がない事は分かっているのだろうが、目を固く閉じながら剣を顔の前に出して攻撃を受けようとしている。
姫さんが願った”勇者を助けて”というのは勇者を無事に城に連れ帰ることだろうと判断し、戦っている二人?の間に入り攻撃を受けておこう。おいおい、敵に集中しているからか俺が近くまで来ていることに気付かないのは頂けないな~。そんなんじゃ多対一なんてこなせないぞ。
イーリアス視点
このままではだめだ。こんな、満足に休憩を取れない状態で敵と戦うなんて。こちらの攻撃は全て無効化されたみたいに効果がない。このままでは埒が明かないと思い一旦退却しようとしたが、逃さないとばかりに魔法を唱えて雑魚敵を生み出してきた。そいつらは非力なユリウスだけでも倒すことが出来たのが幸いし、リンクだけでも助けを呼びに行くことが出来た。
しかし、それは間違いだったのかと何回考えた事か。最初の頃はユリウスと交互に避け続けたので少なからず休憩を取ることはできたし、補助魔法のおかげで多少は疲れを減らすことが出来た。けれど、目の前に敵が居続ける状況は精神の減りが激しすぎる。こちらの攻撃は全く効かないが、奴の攻撃を避けることは容易いからここまで無事にいられた。けれど、リンクが戻ってくるまでどれくらいかかるか分からないし、リンクが戻ってきたとしても奴の撃退方法が判明できなかったらどうするか。
こいつと戦い始めてどれぐらい日数が経過したかさっぱりわからない。ユリウスも避ける体力がないのか、せめて疲れだけでもという気持ちで補助魔法をしてくれているけど、そろそろ魔力も尽きてくるころだろう。
ん?なにやら後方で話し声が聞こえるが、リンクが来たのだろうか。それともユリウスが壊れてしまったのだろうか。前者ならありがたいけど、この状況下では後ろを向くことも出来ず、疲れすぎているのか声を発することも上手くいかない。リンクが来たのだとしたら私に声をかけてくれるだろうから待ってみよう。
後方の声に少し意識を持って行かれたからか、攻撃を避けようとした足がもつれてしまい尻餅をついてしまった。マズイ。急いで立ち上がらないとやられる!と無理矢理身体を起こそうとするが、身体が思い通りに動かなかった。意図的だろうが偶発的だろうが、座ってしまったことにより、疲れがピークに達していた肉体が休憩を訴えているんだろう。
敵の攻撃が間近に迫ってきたので、せめて防御だけでもと唯一持っている剣を正面に押し出した。先程まで戦っていた敵だからって動けない状態での攻撃は怖いもので目を瞑ってしまった。
敵の攻撃によるなんらかの衝撃を待っていたんだが、待てども待てどもまったくもって感じない。代わりに、「ジャリッ」という音と共に目に入る光が暗くなったので、もしかしてリンクが代わりに攻撃を防いでくれたのかと思い突きだした剣を横にずらしながら恐る恐る目を開けると、異空間収納リュックを背負った見たことがない服装をした男が立っていた。
目の前に俺が立ったことに気付いたのか真後ろから「え、誰?」という声が聞こえてきたがそれも無視。
敵さんは攻撃をしたのに俺が何の反応も見せないからか困った雰囲気を出していた。それから何回も、表現としてはポカポカと攻撃してきたが反応がない事を再確認すると逃げるつもりなのか俺に背を向けた。けれど、逃げようとした奴の身体中央に短剣が刺さり、紙が燃える様にブワッと燃え上がり数秒後には役目を果たした短剣だけが存在し、カランと音を立てて地面に落ちた。
おお~やっぱ物理攻撃無効能力だったのか。炎魔法付与の短剣の一撃で死ぬのは弱すぎだけど簡単に倒すことが出来てよかったよかった。というかダメだよ俺だけに集中してちゃ。背を向ける前に「シャッ!」と言うリンクの掛け声と共に酸素が燃えている音が聞こえなかったのかな。まあ攻撃になんの反応も示さない敵が目の前にいたら仕方ないか。
つか、相手に物理攻撃が効かないなんて当たり前じゃん。さっきのボス(勝手に断定)見て分かる通りスピリットなんだもん。ゲームとかじゃありきたりなんだけど、こっちの世界じゃスピリット系の敵は珍しいんだろうか。まあ珍しくないと、さすがに倒す方法ぐらい知ってるか。
おっと、まだ使えるかわからないけど一応短剣は回収しておこう。俺が持っていても仕方ないのでリンクに持っててもらうか。いや護身用としてサファイアに持ってもらうかな。
さて勇者たちがここに来た理由なんてどうでも良いからさっさと勇者を連れて城に帰ろう。サファイアが。俺のサファイアが待っている!!
目的が完了したのでリンクに早く帰ろうと言うつもりで振り返ると、目の前には一応身を挺して守った勇者がいた。情報通りの竜紋が入った鍔付の剣と鞘を装備し、どんな理由でかは知らないが剣を落としているおり、左手の平には竜紋が刻まれているのが見えたからやはり勇者なのだろう。見上げる程ではないが俺よりも背が高く、すらっとしている。俺を見ているからか通常通りかは知らないけど、睨まれたら10人中5人は怯える様な目つきをしている。姫さんと同じぐらい髪が長くきれいなうえに、傍から見れば10人中10人が見惚れる様な顔を持っている。
うん。俺以外の人だったら誰でも見惚れると思うよ。でも、見惚れる理由が男女で異なるとは思うけどね。
女性が見たらその美しさに羨望と嫉妬を覚え、男性が見たらその美しさに惚れてしまうだろう。
今までの情報を整理してみると。「お兄様お兄様」と姫さんが言っていた勇者とは、「嬢ちゃんの兄貴のイーリアス」だとリンクが先程発言していた勇者とは、俺の目の前にいる顔の整った女性のことらしい・・・。
意味が分からん。
「お前こそ誰だよ。」
やっと出てきた勇者さん。
タカヒロにとってはどうでも良いキャラなので、今後はそんなに出ないかもです。