準備が整っちゃったらしいので助けに向かうか。はぁ・・・
サイファー改めサファイアと言う名前で呼んでいいと決定したので、サファイアへの質問コーナーの続きを始めた。そこからはトントン拍子で話が進んでいき、サファイアの事を知れて嬉しく楽しく大好きになった。
その中で一番うれしいのは俺への喋り方について。『様』付けの上に敬語なんて余所余所しいからもっとフランクにしてほしいと頼んだけど、なかなか頷いてくれなかったので、土下座をしながら再度お願いしたら困りながらも分かって貰えた。ただ、土下座の意味を知らなかったから土下座しながら意味を教えるってシュールな場面になってしまった。
そんな風にサファイアとの話に花を咲かせている一方、リンクは俺たちや残念状態の姫さんを見て溜息を吐いている。話をする相手がいないから暇になっているのだろうか。やれやれ仕方ない、ここは俺が大人として対応しようじゃないか。とドヤ顔でリンクに話しかけようとしたらドアがノックされたので行動に移せなかった。・・・誰にも見られていなくても恥ずかしいものは恥ずかしいんだな。
姫さんが返事をしたが枕に顔を埋めながらだったので聞こえなかったらしくドアが一向に開かないまま数秒経過。サファイアが応対しようと立ち上がったが、さっきの行動で少し凹んだ俺が癒しを求めて話しかけたので椅子に座り直している。そんな俺たちを見てまた溜息を吐いたリンクがドアの向こう側にいるであろうメイドに『入っていいぞ』と返した。あ、自分の体勢がまずいと気付いた姫さんが起き上がったと同時にメイドが入ってきた。
「失礼します。勇者様を助ける準備が整いましたので、荷物を用意したお部屋へ着て頂けますか。」
「はぁ~やっとお出迎えか。おら、お前らさっさと行くぞ。このままこの部屋にいたら気が休まらねえよ。」
「俺はここでずっと話していたいんだけど、仕方ないか。はぁ・・・。」
「ちょ、タカヒロ様。そんな見るからにやる気がないようじゃあ困りますよ。それにほら、お兄様を助けてくれればサファイアさんと一緒に暮らせるんですから張り切ってください。」
「そうだった!おいリンク何ぼさっとしてるんだよ。さっさと荷物持って出かけるぞ。」
リンクをせっついてぱぱっと勇者を助けてささっと帰ろうと促す。溜息を吐きながら俺に続いて部屋から出てきた。そんな俺たちを見てなのか、部屋の中から姫さんとサファイアがくすくす笑っている声が聞こえてきた。むっサファイアの笑顔が見れる?!と振り返るが笑顔なのは姫さんだけ。なんだつまらん、と呟きながら顔を戻して連絡に来たメイドに部屋の場所に案内してくれと頼み、俺たちはヒヨコの様に付いて行った。
「なあ、確認なんだが勇者って男なんだよな。姫さんが最初に『お姉sじゃなかった。どうか、お兄様を・・・』って言ってたから気になって気になって。」
「その割にはサファイアの事しか頭になかったように思うんだが。今だって歩きながら手を握ってヘラヘラ笑ってるじゃないか。ま、あいつがどんな奴かは見ればわかるから楽しみにしとけ。」
「ふ~ん。まあどうでも良いけどね。女だろうが男だろうが。そういえば、勇者を助けるのにどれくらいかかるんだ?」
「そうだな~。城から歩きだと二日、馬車だと一日、魔法だと一瞬で迷宮に着く。で迷宮から勇者の場所に行くまで三日ってとこだな。」
は?歩きで二日かけて迷宮から三日で目的地。つまり往復で十日かかるのか。いやいやいや、何バカなこと言ってんだよ。てことはだよ?助けに出かけたら十日間もサファイアと会えないってことじゃん!!どうしよう、勇者放っといて逃げるか?でもな~約束を破った俺を見てサファイアが幻滅したら生きていられないしな~。
「長くて十日もかかるのかよ。そんな長い間サファイアに会えないのは嫌なんだけど・・・。」
「いやそこは妥協しろよ。城から遠いのは当たり前だろ?迷宮から歩いて数十分のとこに城を建てるわけないだろ。何か起きて迷宮の魔物が地上に出たら城下町がすぐに戦場と化すんだから。」
「じゃあ、魔法で行こうぜ。早く到着する方法があるならそれを使わないと損だしさ。で、その魔法はだけが使えるんだ?」
「言っといてなんだが、無理だ。移動魔法を使える奴は数人しかいなく、使い手が傍にいたとしても一緒に行く奴も魔力持ちじゃないと移動できない。俺はもちろん、おそらくタカヒロも魔力を持ってないからな。馬車に関しては動けるのが残っていればだから、歩きで行くと考えた方が良いぜ。」
おおう。前提条件すら成立していない方法を教えて期待させるだけとかひどい・・・。しかも、馬車にも乗れない可能性があるとか。てか勇者の危機だよ?王子様の危機だよ?なんで王族専用の移動手段とかないかね。
リンクとの話しから、早くても八日かかる仕事だと理解させられた。移動して目的をこなしてまた移動。休憩は挟むだろうけど、休暇を取れずに約一週間働くのか。高校生なのに、異世界に来たってのにこんな働かされるとかブラックだわ。ここブラック世界だわ。
歩きながらも悲しい現実を目の当たりにして凹んでいたが、左手に力が加えられたのでサファイアに顔を向けた。聞いてた?最低でも八日間会えないって言われたよ。と話しかけようとしたが
「タカヒロさん。勇者様を助けてあげて。やる気が出ないのはわかるけど、それが今タカヒロさんがやるべきことなんだから。」
「そうだけどさ、サファイアと手を繋ぐ以前に顔を合わせて会話をする楽しみすらないなんて・・・。」
「(どれだけ私のことが好きなんでしょうか)タカヒロさん、どうか勇者様を助けに行ってください。」
「・・・サファイアは俺と長い間離れるのは構わないの?・・・いや、ごめん。別にサファイアは気にしないよね。俺が一方的にサファイアの事を好きだって言ってるだけなんだし。」
あ~~~~やばい。当たり前の事なんだけど声に出すと現実味湧くな~。そうだよね、サファイアからは好きだとか離れたくないだとか言われていないんだから。別に付き合ってほしいとか結婚してほしいとか言ってないしさ。ただ君が好きだからって伝えただけだし。あ~はずかし・・・・。
恥ずかしさのあまり、サファイアから手を放してゴロゴロと廊下を転がり続けた。
そんな身悶え中の俺の耳に、微かだけどサファイアの声が聞こえてきたので転がるのを止めて何か言った?とサファイアに声をかけたら
「勇者様を助けて、無事に帰ってきてください。帰ってきたら、タカヒロさんが好きな服を着てあげるかr」
「まじで?!」
サファイアからの思いがけないご褒美発言に気分が最高潮に達した。喜び過ぎて踊っている俺に対して「で、でも。一般的な服にしてね。誰が見ても変だと思わず、普通に着れる服にしてね。」とサファイアが焦りながら条件を出してきた。んなの当たり前じゃん。奇抜な服を着たサファイアを見たい気はあるけど、それでサファイアからの印象が悪くなるのは嫌だし。気分がよくなったのでサファイアと手を繋ぎ直して目的の部屋に向かおうか。
そんな騒がしい俺とは対照的に、メイドとリンクは歩き続け姫さんはクスクスとこちらを見ていて笑っていた。若干恥ずかしいけど、姫さんが笑ってくれるのは良しとしよう。可愛い子の笑顔は見ていて飽きないしね。ん?サファイアが何か言った気がしたけど、聞き違いだったかな。
そんなこんなで荷物が用意されている部屋に辿り着いた。俺は一刻も早く仕事を終わらせようと我先にとドアを開け中に入る。すると、ぜーはぜーはと疲れた様子のメイド複数人と、顔を怒りで赤くしながら椅子に座っている宰相がいた。宰相の目の前の机にはランドセルぐらいの大きさのリュックが二つとお札?が置いてあった。
「待ちかねた!!荷物を持ってさっさと勇者を助けに向かえ。国王様の言いつけどおり貴様の交換条件の処理をするのに私は忙しいのだ。」
怒鳴ったと思ったら急に立ち上がり、舌打ちをして部屋から出て行ってしまった。なんだ?カルシウムが足りないんじゃないかな、と恍けてみたけど、俺に恥をかかせられたんだからイラつくのは当たり前だよね。国王に殴られてたし。
メイドが疲れているのは、俺に早く出かけて欲しいから準備を急がせたんだろう。諸々の手続きをするのは俺が出かけている時で十分のはずだから、宰相が手伝えばもっと早く終わっていたのにな。
「おいタカヒロ。宰相が俺たちに見向きもせずどっかに歩いて行ったぞ。何かしたのか?」
「いやいや、俺が入ったの見てたでしょ。あんな短時間で何かできるわけないじゃないか。」
「確かに。宰相の怒鳴り声しか聞こえなかったしな。疲れているとこ悪いんだが、タカヒロが頼んだ荷物は全てリュックに入っているのか?」
「は、はい。そのリュックは見た目は大きくありませんが、魔法で作られた特注品です。中には保存食品、体力や魔力を回復させる道具、炎魔法が込められている短剣、魔物図鑑が入っておりますが対象者を状態異常にさせる道具は見つかりませんでした。」
「こんな短時間でありがとね。まあ、これで一応準備は整ったってとこかな。で、この蛇みたいな字が書かれている札?が保険の拘束道具ってことかな。」
拘束道具は宰相に任せていたんだが何も言わずに出ていきやがって。仕方ないから迷宮に着く前に現れるであろう敵に使って効力の確認をするか。枚数は・・・6枚か。ケチっているのか高価な品だから数を揃えられなかったのかわからんな。まあ基本的に戦闘はリンクに任せるんだからいいよね。
無表情
若干赤い顔
驚き顔
焦り顔 NEW