食卓に現れる赤い人
初連載小説の一話となります。
よろしくお願いします。
眠気が薄れてきたので目を開けると眼前には純白のドレスを着た涙目の少女が立っていた。少女から目をはずし周りを見渡してみると、漫画で見るような城の中にいるみたいだな。床には長い絨毯、天井にはシャンデリアが複数、窓はカーテンで閉じられているが、そのカーテンには西洋風のドラゴンが描かれている。壁の左側にはメイド服を着た女性が並び、右には騎士みたいなカッコいい人が並んでいる。ドレス少女の奥には豪華な椅子が二席あり、片方の椅子にはロップイヤーラビットの様な動物が寝ていた。もう一つの椅子には豪華なドレスを着た女性が座っており、女性の傍には清潔感たっぷりのスーツを着た40歳前後の男性が立っていた。
周りを見ていたら袖が引っ張られた感覚がしたので、引っ張ったであろう少女の方に意識を戻すと。
「お願いします。お姉sじゃなかった。どうか、お兄様を。勇者を助けてください。」
・・・どうゆうことなの。
数時間前
両親、兄、姉、俺の5人でいつも通り夕食を取っていた。食事中は喋ったりテレビを見てはいけないとかはなく、テレビにツッコミを入れたり今日の出来事を話したりしていた。そんな夕飯時には珍しく呼び鈴が鳴り、首を捻りながら兄が玄関に歩いて行った。配達業者とか新聞の集金とかなんかだろうなーと思いながら食事を続けていると、兄が見知らぬ人と一緒にリビングに戻ってきた。
「・・・兄さん、その人は友達?」
「いや、初対面だがどうかしたか?」
何を言っているんだこいつは、と食卓に座っている家族は思っただろう。初対面の人をそのまま家に上げるとかどんな頭しているんだ(他の家族は後は俺に任せたという風に食事を続けている)。そんな兄さんから目を動かし初対面の人物に目を向けた。頭の先からつま先まで見た俺の感想といえば、真っ赤な人としか言えないな、うん。だって、帽子、髪、サングラス、上下スーツ、ネクタイ、靴下といった服装全てが赤いかったからだ。
「ところで兄さん、その初対面の人を何で家の中に上げてるの?身元が分からない人って怖くない?」
「確かに身元が分からない人だけど、俺は強いから問題ないだろ。」
確かに、兄さんは柔道・空手・合気道・剣道と何でも出来るから強いけどさ。この前も不良達に絡まれていた人を怪我を負わずに助けてたし。それもそっかと思い、俺も他の家族同様に食事に戻った。
「なぁにやら楽しいご家族のようで」
「そうか、ありがとう。家族を褒められるとやはりうれしいな。」
「とぉころで、いいんですか?このまま私が家に上がらせてもらっていても。」
「別にかまわない。むしろ、俺は今まで会ったことのない様な人と会話しているという事だけでウキウキだ。」
「ごちそうさまでした。・・・あんた、今時ウキウキなんて使わないでしょうに。」
「うるせぇ。確かに同年代の奴らとは使わないが、年上には結構ウケるんだよ。」
おっと、赤い人をそっちのけで兄さん達が口喧嘩を始めてしまった。兄さんと姉さんは双子なんだけど、顔を合わせると結構な確率で口喧嘩をし始める程仲が良い。あーだこーだといつも通り言い合っている二人を両親は苦笑いを浮かべながらもぐもぐと見ている。ちなみに、両親はそれぞれキャバクラとホストクラブを経営している。
兄さん達は、何回か恋人を作ったことがあるんだけど(二人とも現在交際中)、俺は付き合う以前に初恋という通過儀礼をまだ行っていないのだ。目付きが鋭いってのが問題なのかと一時期考えたけど関係ないだろうな、家族みんな目付き鋭いし。兄さん達の恋話を聞いていると、逆に目が好きと言われることが多いらしいし。俺の友達からは、自分から行動を起こさないヘタレと言われたりするけど、良いなって思う女子がいないんだから仕方ない。ないよね?
「あのぅ、私の要件をお話しても問題ないでしょうか。高広様にとって大事なお話なのですが・・・。」
「え、俺?初対面の人から大事な話って。なに、俺誰かに殺されるとか?」
え~俺は、兄さんと違って喧嘩したり恋人を奪ったり恨みを持たれるような事はしてないはずなんだけど。逆に、兄さんには敵わないから俺を殺すことで憂さ晴らしをするとか?なにそれ、怖い。と食べ終わった食器を洗い場に持っていきながらそんなことを思う。
「いえいぇ、殺傷話ではありませんよ。あ、私こういうものでして。」
赤いケースから出てきた赤い紙を貰い、赤い文字とか読み難いなと四苦八苦しながら読んでみると、『異世界案内人』と書いてあった。
異世界案内人。文字だけで推測すると、今いる世界とは異なる世界を案内する事を生業とする人のことかな。って、文字をバラバラにしただけで、まったく推測していないや。
「それで、その異世界案内人が高広にどんなご用事でしょうか。」
「まぁことに申し訳ないことなのですが。ある異世界から勝手に召喚の儀式が行われました。その召喚者の目的を達成できる者として、白羽の矢が刺さったのが高広様ということでして。このまま異世界に飛ばされたらこちらとしても監督不行き届きとなり困ってしまうので、お宅にお邪魔したということです。」
「困るというのはどういったことでしょうか。高広に迷惑がかかるとか?」
「はぃ。まず、高広様に関しては、私どもが召喚儀式に気づかずに異世界に旅立ってしまっては、何の能力もない状態なので高確率で死んでしまいます。私どもの方では、監督不行き届きと罰せられることになります。」
「では、今回はギリギリながらも、その召喚儀式に気づけたので、高広に特殊能力を与えることが出来る、ということですか。」
「はぃ、そうなります。今回はこちらの不手際で高広様を危ない目に合わせる可能性がございましたので、お詫びも兼ねて二つ力を付与させていただきます。」
俺の話なのに、赤い人と父さんが話を進めている。兄さんは二人の話を相槌を打ちながら聞いているが、母さんと姉さんは食器を洗いながら会話をしていてこっちの話を聞いていない。可愛い末っ子が異世界に行ってしまうという話をしているんだけど、どうなのそれ?
と思っていると、兄さんが目を輝かせて質問し始めた。
「なぁなぁ。その能力ってどんなの?魔法が使えたりテレポートしたりとか?」
「そぅですね、漫画やアニメなので使用されているのは可能だと思いますよ。魔法使い、召喚士、勇者、盗賊といった職業柄や、メタモルフォーゼ、浮遊、瞬間移動、透明化、未来予知といった物とかですかね。今言った物だけしか無理という訳ではありません。こんなの思いついたんだけどこれ有り?というのでも構わないので思い付いたものを教えてください。」
時間跳躍、身体を火や水に変化、無から有を生み出すといった能力は可能か?と兄さんが聞いてみるが、問題ないけど代償があることを伝えられた。それぞれ、寿命が縮む、元の体に戻れない、サイズや個数に制限があるといった代償だった。ということは、浮遊能力の場合飛べる高さや時間の制限かな。使いにくいな~。
「お、おう。まじか。確かに漫画とかでも能力無制限ってのはないな、魔力が足りないとか言ったりしてるし。なあ、高広。お前はどんな能力貰いたい?」
「・・・じゃあ、常時間接直接関係なくダメージを無しにする能力はあり?」
「そぉれを与えることは可能ですが、攻撃の無力化能力の場合の代償は高広様から与えるダメージも無しになりますね。つまり、高広様に関係する攻撃の影響を無しにするということです。殴っても動かず、蹴っても微動だにせず、たとえ弓などを飛ばしたとしても相手の服に当たって落ちてしまいます。」
「高広。お前はお兄ちゃんと違って喧嘩しないし言っちゃなんだが強くない。どちらかというと、事なかれ主義を貫く方だが、相手を攻撃できないとなると自分だけでなく大切なものを守ることも出来ないんだぞ。それで良いのか?」
「確かに、父さんの言葉も正しいと思うよ。けど、無力化を得れば自分を守ることはできるし、俺は家族以上に好きな人と出会ったことがないってのがね。漫画とかで『大切な人がいるから、守りたい人がいるから俺は強い』ってよく言ってる主人公と比較すると俺は確実に弱いってことになる。まあ、漫画の話を鵜呑みにするなって感じだけど、実際兄さんや姉さんを見てると、そのセリフが正しいことだと思えてならないんだ。」
「お前の考えがあって、それを選ぶというなら俺は何も言わない。」
「ありがとう、兄さん。じゃあ、もう一つの能力を何にするか考えよっか。」
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「さぁて、ここまで話しておいてなんですが、ご家族の方々。高広様が異世界に旅立ってしまわれてもよろしいのですか?」
「だって、さっきの話を聞く限りだと、どっかの誰かさんがこっちの事情はお構いなしで息子を連れて行くって話ですよね?ならそこに関して怒ったり、いなくなることに悲しんだりするよりも、息子が異世界で無事に幸せに暮らせるにはどうした方が良いか考える事が、親としての最後の務めかと思いましてね。」
「まあ、いきなり異世界とか能力とか言われたけど、アンタが嘘や冗談を言ってるようには見えないしな。この対応の仕方は普通ではないんだろうけど、よそはよそ、うちはうちだしな。」
父さんと兄さんの言葉に肯定するかのように母さんと姉さんが頭を縦に動かしている。一応話は聞いていたようだ。それにしても異世界ねぇ・・・。ん?異世界ってことは日本語通じないんじゃないか?だとすると、会話出来ないし、文字を書いても伝わらないとなると、死ぬしかない・・・。
「やば、能力を今から変更ってあり?異世界の言葉通じないと生きていけないんだけど。」
「そぉれなら心配いりませんよ、高広様。高広様には言葉による会話も、文字による筆談も出来るように『言語理解』を付けております。基本的に異世界から召喚される人達には最初から『言語理解』『異世界言葉』といった能力がオートで付くようになっていますので。ただ、それは私たちの様な組織を介している場合によりますけどね。」
能力二つ貰えるうえに、言葉も分かるようになっているのか。まあ、呼び出されるんだから、言葉が分からなかったとしても酷いことにはならないだろうけどさ。
「ふぅ。高広様の能力を無事決めることが出来て安心いたしました。あと数十分で召喚儀式により高広様が異世界に向かわれます。ご家族の方、何か伝えたい言葉はありますか?もしかしたら、もう高広様とは会えないかもしれませんので。」
「え、こっちに戻れないの?」
「えぇ、可能性の一つです。異世界で死ぬかもしれない、送還の方法がないかもしれない、高広様ご自身が異世界で永住したいと思うかもしれないと理由は様々ですが。」
なるほど。確かに、異世界なんて何があるかわからないしな。居るかわからないけど、魔物に殺されたり、盗賊に襲われたり、餓死するってこともあり得るし。
あれ、なんか、急に眠くなって・・・
「どぅやら、もう時間がないようですね。では、一人一人高広様に言葉をかけてください。」
「生きろ。自分を曲げずに生きろ。この言葉が父親としての最後の教えになるかもしれないとなると、良いのかって気もするがな。」
「どんな場所か分かないけど、人が住んでいるなら問題はないでしょう。でも、異世界の薬が効くかわからないんだから、怪我や病気には気を付けてね。」
「俺みたいに強くなることは出来ないっぽいが、力だけが強さじゃない。大事な人が出来たら、力で守れなくても違う方法で守ってやればいい。」
「高広は力強くないし、頭もそれ程でもないけど、要領はいいから何とかなるでしょ。一つのことに専念して周りを見落とさないようにね。」
みんなが俺に対して最後の言葉を伝えてきたので、それに対して返事を返そうとしたが、眠気には勝てなかった。意識が落ちると思う寸前、
【現地人の言葉を全て聞く必要はありまえん。あなたの人生です。自分のしたいことをし続けてください。それに文句を言う輩がいたら、排除してかまいません。それでは無事を祈っております。行ってらっしゃいませ。】
という言葉が頭に聞こえてきた。
そして、異世界に呼び出された俺が元の世界に戻ることはなかった。
読んで下さった人、ありがとうございます。
小説を書いてネットに投稿するのはこれで二回目(短編小説を投稿済み)です。
「これ、誰が喋ってるの?」とか「この設定わからない」とかあるかもしれません。
因みに、大体の内容は考えていますが、中身を考える時間と書く時間がないので、2話目の投稿がいつになることやら。
2話目も読んでくれたらうれしいです。
誤字・脱字・ひっこめ等、何かありましたらよろしくお願いします。
補足・高広は高1。兄姉は高2です。