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高校生ホームズの推理メモ  作者: るどるふ
第一章「学園六不思議考案事件」
8/20

学園六不思議考案事件 承

 夜──。


 朱陽高校六不思議考案者の日記帳──と思われているもの。ミス研部長の彩に許可を貰い借りてきた。六郎は机の上のそれと睨み合いをしている。


 横にはルーズリーフとボールペン。六不思議に関する情報が書かれている。有里紗とミス研部長の彩から聞いた、いや聞かされたものだ。


 六郎はルーズリーフを手に取る。朱陽高校六不思議──普通より一つ少ないその都市伝説集をまとめると、次のようになる。


 一、百葉箱の生首

 気温や湿度を計算するために、校庭の隅に置かれている屋根と足がついた白い箱。夜、この箱の前を通ると、すすり泣く声が聞こえてくる。辺りを見回しても人の影はない。ただ、夜の闇の中で、この箱だけが月明かりを浴びて白く光っている。近づいてみると木製の白い足だけが、赤く染まっている。普段は施錠されている扉が半開きになっている。おそるおそる扉に手をかけ、手前に引く。箱の中には温度計も何もなく、ただ中央に女生徒の生首が置かれている。血の涙を流し、すすり泣く生首だけが。


 二、理科室の人体模型

 理科室の黒板横に置かれた人体模型がもし壊れてしまったら……。理科準備室には人体模型の代用品として、頭部、胸部、腹部、四肢に分かれた『部品』が保存されている。ホルマリン漬けで。


 三、オクラホマ・ミキサー

 体育祭の最後を飾るフォークダンス。オクラホマミキサーが流れる中、相手を交代しながら踊り続ける。そろそろ終盤に差し掛かるころ、交代した相手の手がひどく湿っている。嫌だな……と思いながらも踊り続けると肩のあたりから自分の体操服が赤く染まっていく。相手をよく見るとそれは血まみれで踊り続ける死体であった。


 四、教頭室の秘宝

 主が不在であることが多い教頭室。その部屋の書棚の奥にはダイヤル式の隠し金庫が眠っている。ある清掃係がこの金庫を見つけ、なんとか開けようと試行錯誤しているところを教頭に見つかる。教頭はその清掃係を殺し、死体を金庫へしまう。死体を詰めるたび、教頭は金庫のダイヤルをひとつ、回す。


 五、入学式の首吊死体

 新入生が一斉に揃う入学式。新しい制服に身を包み、整然と並んでいる。その真ん中の生徒の首筋に一滴、赤い雫が落ちて来る。驚いた生徒が上を見上げると、体育館の梁の部分、その中央にゆらゆらと、首吊り死体がぶらさがっていた。


 六、大学ノートの怪

 校舎の廊下に、一冊の大学ノートが落ちていた。ひとりの生徒がこのノートを拾う。パラパラとページをめくると、そこにはこれから起こる学校での連続殺人の計画表が書かれていた。その生徒はたちの悪いいたずらかと思いノートを捨てるが、数日後ノートに書かれていた通りの殺人が起こる。ひとり、またひとりと生徒が殺されていく。更に数日後、警察に捕まったのはノートを拾った生徒本人だった。


 六郎は持っていたルーズリーフを机に置く。よくこんなことを考えるものだ、と六郎は思う。オカルトに興味のない六郎には、都市伝説など信じることも、ましてやそれを考案することも、多大な労力を使う無為な作業にしか感じられなかった。


 しかし──と六郎は机の上に置かれたもう一つの、赤い日記帳に目をやる。都市伝説はオカルトだ。だが日記となると、人の思いが入ってくる。ただの遊びで考えたのならいいのだが──。


 六郎は日記帳を開く。そこに書いてある、綺麗な文字を読み返す。


『九月二十日 今日、あの人から頼み事をされた。内容は、うちの学校の都市伝説を作ること。新聞部の文化祭の出し物として発表したいらしい。なんで私に、とも思ったけど、これは最後のチャンスかもしれない。高校生活最後の年、その最後の最後を、あの人のそばで過せない私に、神様がくれたチャンスなのかも』


 高校生活の最後の年。つまりは三年生か。最後の最後というのは卒業のことだろう。それを、一緒に過ごせない、ということは──


「もうこの世にいないかもしれないの」


 夕方、彩が言っていたことを思い出す。高校三年生、その途中で亡くなってしまったのだろうか。六郎は日記帳の先を開く。


『九月二十一日 お別れが近づいている。あの人に会ったのは入学してすぐだった。それからずっと、おんなじ想いで、おんなじ距離で。それでいいと思ってたけど、いざ会えなくなると思うと、やっぱり嫌だな。できれば伝えたい、と思う』


 最後が近づいている──その時にどんな思いで近くにいたのか、それは六郎には分からない。しかし──前に有里紗が言っていたことを思い出す。


「この人はたくさん考えてくれて書いているんだろうし」


 手紙も、日記も同じだ。書き手の意志が、読み手に伝わる。当事者でなくとも、その気持ちは、痛いほどに。


 オカルトには興味がない。しかし──と六郎は思う。


 この日記を読んでしまっては、考えざるを得ない。結論が出なくても、この日記を無視して、七つ目の不思議を考えることは出来ない。


 この日記を読んだ彩もそう思ったのだろう。今では有里紗も六郎も、同じ思いだ。


 日記の続きを開く。この先のページからは、六不思議が作られていく過程が書かれていた。


『九月二十二日 あの人に頼まれた都市伝説。これで、想いを伝えよう。気づいてくれるといいな。』


 このページから、日記の下半分が六不思議の考案のために使われている。上は日記、下がメモ書きという風に。


 気になるのは最初の部分。百葉箱という文字の下に技術室と書かれている。百葉箱は一つ目の不思議に入っているが、技術室は六つのうちのどれにも無い。没になったものだろうか。


 そのあとは理科室、オクラホマミキサー、教頭、入学式、大学ノートと、まさしく六不思議の順番で名詞が登場する。


 これは──。六郎は、自分の考えを別のノートに留める。前回の手紙の時と違い、今回は日記の持ち主の過去を掘り下げなくてはならない。考えることがたくさんある。六郎は、気になる点をすべてノートに書き出していた。


 この六不思議が普通と違う点はその数だけではない。なぜかそれぞれの話には通し番号が付いているのだ。


 普通、学校の都市伝説は順不同であることのほうが多いだろう。この番号は、大きなヒントになるかもしれない──と六郎は思う。


 ノートに書き出した気になる点が増えていく。ついでに、明日有里紗に確認したいことも書き添えておいた。


 時計を見る。すでに深夜三時を回っていた。そろそろ寝なければならない。ベッドは机の後ろ、六郎の後方にある。


 ゆっくりと振り返る。ぶる……と寒気がする。


 ──怖がっている? まさかな……。


 この夜、六郎は夢の中で生首と首吊り死体に遭遇し、何度もその眠りを中断させられることとなった。

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