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高校生ホームズの推理メモ  作者: るどるふ
第二章「白紙の入部届」
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三、入部希望者の見つけ方

 放課後、有里紗と六郎は彩に連れられてミス研の部室に集まっていた。白紙の入部届が置かれていた部室の、いわば現場検証といったところだ。


 入部届は部室の扉の隙間から入れられたらしい。扉を閉めると確かに蝶番の上下に、細い隙間ができる。言われれば気づく程度の隙間だが、たしかに紙片くらいなら通るだろう。その隙間を、有里紗は入念に調べていた。


 蝶番は扉の上方と下方に二箇所取り付けられていたが、小学生並みの有里紗の身長では上の蝶番にすら頭が届いていない。苦労しながら、主にぴょんぴょんとコミカルに飛び跳ねながら、調査している。有里紗が跳ねるたびに、二つに結んだ後ろ髪も跳ねる。なかなかにほのぼのとした光景だ。


 六郎が入部届を書かされてから二日。有里紗は機嫌の悪い状態が続いていた。しかし──。


「蝶番に怪しい痕跡はないみたいだよ、六郎くん」


 事件の手がかりを探す探偵のような口調で、有里紗が言う。いつも通りの有里紗だ、と六郎は思った。


 そもそも密室殺人ではないのだ。蝶番に怪しい痕跡がある方が驚く。


「入部届はどこに落ちていたんですか?」


 六郎は第一発見者の彩に尋ねる。


「ここよ。ここに裏返しになって落ちていたの」


 彩は扉から一メートル離れた辺りの床を指差す。


「部室の鍵は?」

「私と真志が、それぞれ持ってるわ」


 鍵を所持していたのは、部員の二人。吉田真志は今ここにいないが──。


「そういえば吉田くんは?」


 有里紗が尋ねる。


「真志はテスト期間は完全に勉強モードになるの。何を言っても部室には顔を出さないわ」


 それが一般的な高校生の行動だろう。むしろ今ここに集まっている人間の方がマイノリティだ、と六郎は思う。


 そういえば有里紗はテスト勉強はいいのだろうか、と六郎はそんなことが気にかかった。


「昨日は私と芦屋くんがこの部室を出るまで、おかしなことは無かったわ」


 ピク、と有里紗が反応する。彩はその反応を面白がっているようだ。


「そして、お昼休み。私が部室に来たときには、ここにその紙があった。時間から考えて、昨日私たちが帰ったあとに入部届を持ってきたとは考えにくいわね」

「そんな遅くまで、二人で何をしてたんですか?」


 有里紗が陰を落とした声で尋ねる。その声には、若干の怒りが混ざっているような気さえした。


「何って……何かしらねぇ、芦屋くん?」


 彩が含みをもたせた言い方で六郎を見る。有里紗がキッと六郎を睨む。


「何もしていない。神に誓って」


 六郎は即座に答えた。頼むから変な疑いをもたせるのはやめてほしい。ここ数日、こうして彩にからかわれる日々が続いている。部員がきちんと集まれば、それからも解放されるのだろうか。


 そんな掛け合いをしながら、六郎は頭の中で情報を整理する。ひとつの違和感が、どうしても頭を離れない。


「有里紗、入部届ってどこで手に入るんだ?」


 唐突に六郎から話を振られ、有里紗は不機嫌から脱した。


「えっと……職員室の前に置いてあるよ。一年生には四月にホームルームで配られるけど、それ以降は職員室前からとってきて、各自部活の部長に提出するはずだけど」

「それなら、何枚か取ってきてるわ」


 彩が十数枚の入部届を取り出す。わら半紙が束になって、上の部分で糊付けされている。欲しい人間はそこから一枚外して持っていくのだろう。


「いざ入部希望者が部室に来たときに、届を持ってなかったら困るから。予め何枚か拝借しておいたわ」


 部室を見に来ただけの生徒に、無理矢理書かせるためなのでは、とも思えた。


「やっぱり、ただのいたずらなんじゃ……」


 有里紗の言葉には答えず、六郎は白紙の入部届を手にとって眺める。何も書かれていない。これを取って、何も書かずに部室棟に来て室内に放り込む。そんないたずらをわざわざするだろうか。


「わたしたちにテスト勉強をさせないため……とか」

「それならテスト週間に入る前にやるさ。基本的にはこの一週間は部室に来る用事は無いはずだから」


 有里紗は「そっかぁ……」と返し、再び頭を抱えた。


 六郎はなんとなく、手にした入部届をひらひらと、目の前で振ってみる。何が出てくるわけでもない。ないが、そこに何かが見えた。


「有里紗、鉛筆持ってるか?」

「鉛筆? 持ってるよ」


 有里紗から鉛筆をもらうと、六郎は入部届を机の上において、鉛筆の腹でそれを黒く塗りつぶしていく。


「六郎くん、何を……あっ」


 そこには、クラスや学年、名前がしっかりと浮き出ていた。希望する部活動の欄にも『ミステリー研究会』としっかり書かれている。


「これは……どういうこと?」


 彩が除き込んでくる。顔が近い上に体も密着している。わざとなのかどうか、六郎には図れなかった。


「おそらくこの届を書いた人は、職員室前の届から一枚切り離すときに、誤って二枚切り離してしまったんでしょう。そして、上の紙に記入した」

「そして、二枚目だけを部室に入れた、ということかしら」

「そんなこと、するかなぁ……」


 彩も有里紗も半信半疑だが、こうして名前が浮かび上がってきた以上、その生徒本人に話を聞くしかなさそうだ。


 一年三組 楠木ゆり


 今日はほとんどの生徒が下校している。本人をあたるのは、明日にした方がよさそうだ。そう結論づけ、六郎たちは部室を後にした。

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