初日〜二百五十二日目
時間が『ループ』している事に気付いたのは昨日の朝方、正確に言えば昨日終えた筈の『今日』の話だ。本当はもっと『ループ』しているのだろうが、流石に寝起きドッキリ並みのサプライズな起床では記憶に残るのに時間が掛かったのだろう。
恥ずかしい話、自分はニートだ。もう二年になるが未だに実家に寄生し親から金を貰い、下の二人の妹弟に見下されている生活を送っている。
そんな俺が小説家になりたいと思ったのは高三の卒業間近の事、家族に内緒で投稿型のweb小説のサイトに登録した。それで自分の自尊心を満たすだけの小説を書き、それを見た画面の向こう側の人々の反応に酔った。最低だ。要するにこれはオナニーと何ら変わりない、そんな行いだった。そんな行為にのめり込み、学業や私生活を蔑ろにした結果、アルバイトをした事もない立派な低能ニートが出来上がり。
まぁ、兎に角、そんな俺は今日と言う日を乗り越えねばならなくなった。時間はあるんだ。ゆっくりやろう。
ループ二日目、開始だ。
さて、先ずは……。
「ねぇ、死んで?」
高三になる愛しの妹が振り下ろしてくる角材を避けよう。
……すぐさま三日目に突入した。
道のりは長い。
ループ三日目。腕で防ごうとしたが両腕をバキバキに折られ、撲殺。妹の事は結婚したい程愛してるが、ヤンデレになるような事は一切していない。神に誓おう。
ループ四日目、仰向けの状態で寝たふりをする。妹が自分の布団の横に立っているのが分かる。しかも、もう少しでスカートの中身が……。
ループ七日目、妹を何とか撃退した。三日間のシュミレーションで到達した打開策。寝たふりをして、彼女の名前を寝言のように呟き、何故か脳裏に浮かんだ「ごめん」を一言。それで妹は振り上げた角材を下ろし、部屋から出て行った。
いやーほんとーになぞだなー。
その後は家から出る事もなく、何事もない一日が過ぎた。
ループ八日目。どうやら神様は俺が嫌いらしい。ループが終わったと思い、油断し切っていた俺を待っていたのは目の前に迫る角材と横目に見る制服姿の妹。俺に殺されて喜ぶ趣味は……、妹にならいいかも。
ループ十日目。変な趣味に目覚めかけた八日目、九日目を乗り越え、七日目の朝の行動を行い妹撲殺ENDを回避。父、妹弟、母の順に家族を送り出し、テレビから流れる新婚の女子アナが伝えて来る情報に耳を傾けながらハムチーズトースト二枚、牛乳三杯を腹に収め、取り敢えず今までのループについて纏める為にネタ帳に十日目までの行動を書き出す。ついでにニュースの内容と放送日時を書き記す。その後、打開策を見つけられず寝落ち。
気付いたらループ十一日目に突入し、不意打ち気味に角材を食らう。
ループ二十日目、どうやら全ては妹にあるようだ。十一日目から今日の二十日目まで妹の行動を監視、もとい監察した結果、同級生達からいじめを受けてるようだった。
即座に教室に乗り込みいじめをした奴らを俺に使われる筈だった角材で殴り殺した。俺は駆けつけた警官に射殺された。
ループ三十二日目。新事実を発見した。ネタ帳にしていたノートの中身は変わらない。つまり、このネタ帳に書かれた事はループし続けても無くならない。この時、俺は確かに光明を感じた。
ループ六十日目、心身共にかなり参っている。妹に対しての謝罪を五十日以上もやり続けていれば自殺したくなる。
試しに自殺した。
ループ六十一日目。自殺してもループするとは……。
ループ百日目。妹に対して、謝罪した。俺の過去の罪について。警察に行こうと思う。流石にこれでループするなら、俺にはもう打開策は見つけられない。ネタ帳もいつの間にか日記の様相を呈しているのは、なんとも滑稽だった。
ループ百二日目。だれか、おしえてくれ……。おれがなにをした!!??
ループ百八日目。いもうとをころした。
ループ百四十日め。かぞくぜんいんをころした。
ループ二ひゃくにちめ。もうなにもかんじない。まっかになった。ぜんぶ。ぜんぶ。ぜんぶ。ぜんぶぜんぶぜんぶ。ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ。ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ……。
ループ二百五十二日目。打開策を見失って百日以上の時が過ぎた。途中で諦め妹に殺され続けた期間もある為、正確な日数は覚えていない。それに精神を立て直す為にも必要な時間もあった。
この世界は七月二十三日から一向に進まない。二百回以上は繰り返しているであろう今日。俺は妹から百回以上繰り返してる方法で角材を奪い、物理的に黙らせて他の家族の口も封じた。最初の頃は愛している妹弟、愛してもいない父母さえ殺す事に躊躇いを覚えていた筈なのに、今では小学校六年生の弟の頭を平気でかち割れる外道になってしまった。
恐らく家族の死体に囲まれて日記を書く様は異様そのものだろう。だが俺は抜け出さなくてはならない。この下らない現実から。
そこで何の脈絡もないが、何日かぶりにテレビを見る事にした。前にも書いた通りの朝のニュースを見る。我が目を疑うとはこの事かと思った。なんとループ十日目の時のニュースとは違う物が流れていたのだ!
そのニュースの衝撃の題目に愕然とする。
「奇怪!続出するループ患者!!」
そこで俺は確信した! 俺がループしていたんじゃなくて、世界そのものがループしていたとは!!
俺は次のループへ向かう為に住んでいるマンションの屋上へと続く階段を素足で駆け上がり、そこから死の向こう側にある今日へと飛び込む……、前にノートにこの時のニュースを書き込む事にした。
これで次のループで有利に交渉が進む筈だ。
すいません。別の連載してるのに更に連載物を増やして、すいません。
こっちもあっちも書き切れるように頑張りますので、どうぞよしなに。