指揮
反感を買うことを覚悟しながら、俺はギルドチャットにメッセージを流した。
《皆さん。右側の足に集中してください。一度ダウンした足は耐性がついて、二度目のダウンまでが長引きます》
従ってくれるプレイヤーがいるかと心配だったが、そのメッセージの直後にキャラクター達はグランド・タートルの右側へと集中した。
サイトで得た情報そのままの攻略法を伝えた後、プレイヤーを名指しする。
《特に《ノット》さん。《たまねこ》さん。《gospel》さんの三人は攻撃力の高い武器を持っているので、彼らが優先的に攻撃できる様にしてください。余った戦士の人は弓矢を使って膝辺りを狙ってください。小型銃を持った銃士の人と、魔導士の人も同様です。大型銃を持っている銃士の人は見晴らしのいい高台に登って遠距離から攻撃してください》
メッセージを流した直後から一人も欠ける事無く俺の指示通りに動き出した。
《一本目ダウン!》
自分も攻撃に加わりながら次の指示を考えていると、そんなメッセージが流れてくる。
見ればグランド・タートルが足は屈し、その巨体を傾いでいく。
《もう一本の足へ攻撃を集中してください。ダウンが始まるとグランド・タートルは右側へ大きく転がる事になるので、足を攻撃している戦士の人はグランド・タートルの体の下へ入るようにしてください。中距離からの人はグランド・タートルの前後方向へ逃げt》
書き込んでいる最中に俺が攻撃していた方の足がダウンモーションに移った。
思ったよりも早い。
最初に左前足がダウンするまでの間にダメージが蓄積していたのだ。
書き途中のメッセージを流して回避行動に移る。
巨体が大きく傾き、甲羅が地面へ打ち付けられた。
何が映っているのか分からなくなるほど画面が揺れ、大きな衝撃波エフェクトが巻き起こる。
事前に予測していた俺はジャンプで避けたが、これを皆に伝えなかった事は悔やまれた。
衝撃波ダメージを受けて瀕死状態に陥ったキャラクターがそこかしこに発生する。
またグランド・タートルの横転は意外なほど速い速度で行われ、避けきれなかった中距離群の何人かが犠牲になった。
《中距離で生き残った人たちはグランド・タートルの腹を攻撃してください。回復術のある人は瀕死状態の人の回復をお願いします》
その指示に従ってくれたものの、回復術を持っていないキャラクターが多く、また持っていても術に用いる素材のグレードが低いせいで回復が遅々として進まない。
そしてもう一つ問題があった。
ダウンしたグランド・タートルの腹が真上を向かず斜めになっているのである。
(そうか。遠距離からは回り込まないと腹が甲羅に隠れる形になってしまうんだ)
一応、グランド・タートルに対して射撃は続いているが、腹には全く当たっていない。
腹と甲羅のわずかな境目に向けて弾丸が集中しているのは見て取れたが、とても効果的な攻撃とは言えない。
回り込もうにも腹が向いているのは絶壁である。
戦士達の回復も遅い。
キャラクターは瀕死状態になるとヨタヨタとした這いずるような動きしか出来なくなる。
運が良ければ物陰に隠れて戦闘をやり過ごせる程度の行動しか出来ない。
瀕死状態の戦士達は実質的に戦力にはならなかった。
このままでは腹の装甲を破壊する前にグランド・タートルはダウン状態から回復してしまう。
既に一度左側の足をダウンさせているから、今度は長引くことになってしまう。
それは戦闘に掛かるコストを大きく引き上げる事になってしまう。
「どうしよう……」
『ほら、頑張って。みんな指示を待ってるから』
「あっ……」
先輩の言葉でギルドチャットが静かになっている理由に気がついた。
皆、戦闘に集中しているのだと思っていたが、これは俺の指示を待っていたのだ。
静寂だと思っていたものが急に皆の期待が込められた責任の重い物に感じられる様になる。
これを無駄にしたくはなかった。
「……そうだ。先輩! 岩山に炸裂弾を撃ち込んでください!」
『あいよ』
数秒と待たずに一発の銃弾が岩山へと撃ち込まれる。
思った通り、岩山の一部が崩れて移動可能なオブジェクトである大岩が生成された。
移動可能オブジェクトは、その速度と体積に応じて攻撃力を持つ。
自由落下でもそれは変わらなかった。
それを喜ぶ暇もあればこそ、すぐに指示を出す。
《グランド・タートルの上にいる戦士は全員、下へ待避。大岩が落ちてきます。急いで》
キャラクター達が蜘蛛の子を散らすようにグランド・タートルの腹の上から逃げ出す。
入れ違いに大岩が落ちてきた。
中空に衝撃波エフェクトが走る。大岩が崩れて体積の小さな岩へと姿を変える。
炸裂弾で発生させた岩の所為か普通より脆く、より体積の小さな岩へと連鎖的に分かれていった。
処理負荷が掛かる。
少しのラグの後に、グランド・タートルの腹が破壊された。
「やった!」
即座に用意しておいたメッセージを送信する。
《腹が破壊されました。全員、攻撃してください》
一端下りたキャラクター達が再び登り始める。
グランド・タートルの弱点は腹全体らしく、登ってすぐ、腹のふちの辺りで突き立てた剣に出血エフェクトがついた。
まるで瀕死の生き物に蟻が群がる様に、キャラクター達は次々に登っては剣を突き立てていく。
グランド・タートルはダウン状態から回復しつつあった。
だがそれよりも体力が無くなる方が早かった。
じたばたと暴れて起き上がろうとしていたグランド・タートルは、雄叫びを上げながら仰向けのまま力尽きた。
ギルドチャットにメッセージが流れ込む。
《よっしゃ!》《勝ったkった》《おつかれー》《乙っしt》……。
「やった……」
『ほら、さっさとアイテム剥ぎ取りなさい』
ポリゴンが散っていくグランド・タートルの死体を見ながら呆然としていた所に先輩の声がかかる。
見れば我先にと集まったキャラクター達がアイテムを剥ぎ取りに掛かっていた。
いくらか遅れたせいで剥ぎ取る為の隙間がない。
ようやくキャラクター達の間に場所を見つけて一刀入れると、なんともしょぼいアイテムしか採れなかった。
「うーん。こんなもんか」
『レベル低いしね。私も節約したのに赤字だわ』
このギルドは早々に抜けた方がいいかもしれないと思っていたところにスパローからメッセージが届いた。
《凄い活躍だったな。ところで折り入って相談したいことがあるんだけど……》
そして俺は《戦術・戦略アドバイザー》なる役職につく事になってしまった。




