第三話
トントントン。
誰かがまさの肩を叩いていた。
「う〜……ん……」
肩を叩かれて、まさは目を開けた。
「…………!?」
目の前には紅いボンボンの付いた帽子をかぶっており、顔は白い長い髭に包まれた老人が笑顔で見ていた。
「お目覚めかい? まさ君」
老人は優しく、ゆっくりと語りかけてきた。
よく見ると老人の服装は紅い服に袖とかには白いファーみたいなのがついていた。そう、まるで。
(サ……サンタさん?)
まさは目を疑った。
そしてここが自分の部屋でないことにも気付いた。木製のそこそこ広い部屋で暖炉があった。暖炉には火がついており、時折パチパチと音を立て色々な形に影を変えていく。
「こ、ここはどこ?」
まさは至極当たり前の質問をする。目が覚めたら全く知らない場所にいるんだから当たり前だろう。
「ここはわしの部屋じゃよ。そしてわしはサンタクロースじゃ」
手を大きく広げて説明する。
普通なら騒いだり大声を出すべきなんだろうけど、まさはサンタの目。暖かくて慈愛に満ちた目を見て素直にサンタの話を聞いた。
「さて、まさ君は珍しいお願い事をしたの〜」
そう言ってサンタは髭をさすりながらまさが書いたプレゼントを書いた紙を見た。そこには。
『サンタさん、もし本当にいるなら。僕に家族の幸せを下さい。雅之』
そう書かれていた。
「それは、僕は普通の人と違うから……」
そう切り出したまさは家での出来事を包み隠さずに言った。両親がよく喧嘩すること、いつも殴られること。その他諸々を。
サンタは真剣にまさの話を聞いてた。時には頷き、まさが言葉に詰まると優しく話を促したり。
どれくらいの時間がたっただろうか。まさは話を終えた。後半目を瞑っていたサンタは話が終わると、目を開けておもむろにまさの頭を撫でると。
「大変じゃったな」
そう一言だけ言った。
その言葉を聞いた瞬間にまさは泣いた。今まで誰にも言えずにいたのが、よほど辛かったのだろう。まさはひたすら泣いた。
サンタはそっとまさを抱きしめた。まさは抱きしめたサンタに気付き、今度はサンタに思いっきり抱きつき今まで溜めてた分を清算するかのように、より一層泣いた。
泣き終わったまさは笑っていた。わだかまりがとけたのであろう。泣き続けたために顔はぐしゃぐしゃだったけれど、作り笑いではない本当の笑顔。年相応の子供の笑顔だった。
――泣いた烏がもう笑った。そんな言葉が今のまさにはピッタリな気がした。
一頻り泣いたからだろうか。まさは眠くなってきた。
「サンタさん、何だか僕眠くなっちゃたよ」
相当眠いのだろう。まさの頭は左右に揺れていた。
「そうかい? それじゃこっちでお眠り」
そう言うとまさをベッドに促した。
素直にベッドに入るとすぐに寝息をたて始めた。
「メリークリスマス」
サンタは小声でそう言った。
すると、その声を合図にまさの姿がどんどん透けてきた。そして最後にはそして最後には毛布の丸みもなくなり、まさは完璧に消えた。
それを確認するとサンタは。
「次は親御さんじゃな……」
そう言って、またサンタも消えた。