第一話
チャイムが鳴るとほぼ同時に子供たちは駆けて行った。
夕方の下校時間、子供達は通知表の見せあいをしながら笑顔で話をしている。
今日がクリスマスだからだろう。通知表が悪い子でさえ笑顔になっている。
そんな中に一人だけ浮かない顔してゆっくりと歩く少年がいた。
「まさ〜! 早くおいでよ!」
男の子は大きく手を降らし、みんなと同じようにランドセルをガチャガチャと鳴らしながら話かける。
「……うん」
まさと呼ばれた少年の名前は雅之。ニックネームでまさと呼ばれていた。
まさは軽く頷くと駆け足で名前を呼んだ男の子に追いついた。
しばらくは歩きながら子供らしい他愛の無い会話の後、まさは友達と別れた。
別れた後、またゆっくりと歩ていく。まるでこれから死刑台に向かう死刑囚の様に。それほどまでにまさは覇気が無い。
まさは家に帰りたくなかった。
何で帰りたくないのか? 通知表の成績が悪かった。と、いう事では無い。それは両親に問題があった。
母の貴金属への無駄使い。不景気による会社の経営難。そいう事があり、両親は子供のまさに八つ当たりしていた。
そのためにまさはいつも親に殴られていた。それが日常だった。だから帰るのが嫌だった。
まさにとって学校が一番心が安らぐ場所。家は地獄以外の何者でも無かった。
――僕は愛されていない子。
そう思い続けていた。
本当は違う。二人とも子供であるまさを愛していた。ただ、夫と妻は愛していない。そのために二人は些細な事でぶつかり、行き場の無い怒りを近くにいる子供のまさにぶつけてしまっているのだ。
しかし子供のまさには、当然こいういう事情を知らない。知っていても理解が出来ないだろう。
だからまさはゆっくりと歩いていた、家に帰っても殴られるだけだから。
周りを見渡せばどの家もクリスマスの色に染まっていた。時折親子の笑い声も聞こえる。
まさは時折立ち止まり、そんな家を眺めていた。
(羨ましいな……僕の家も……)
そんな事を考えて首を振り、ため息をつくと再びのそのそと歩き出した。
どんなにゆっくりと帰っても、いつかは家に着いてしまうもの。まさは今自宅の玄関にいた。
しばらく自分の家を見上げていたが、意を決したように玄関を開けた。
「……ただいま」
扉を開けた瞬間に両親が喧嘩しているのであろう。怒鳴り声が聞こえてきた。