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世界を救うのは

「言い訳は聞き飽きました」

懇願に近い平身低頭の大の男達を前にしながらまるで動揺もせず、感じるものもないような冷たい声で『彼』はそう言い放った。

「大丈夫です。全ての人類を滅ぼすことはしませんよ。こちらで選定した一家族は私の母星に一緒に連れていきますから、完璧でないまでも種族の保存は成るでしょう」

その一言で、とある少女の運命は決定した。




拝啓、年の瀬も終わりという今、皆さんお元気にお過ごしでしょうか。

私は身体的には元気ながらも、精神的には元気と言い辛い日々を過ごしています。

原因はうちに居候している異星人のせいです。

え、言い間違いじゃないですよ?

うちに、居候している、異星人、です。

「梓、これはなんですか?どうしてゴミを飾るのですか?」

きらっきらに輝く金髪を覆い隠すように三角巾を被って、右手に持ったはたきで神棚に飾られた注連飾りとそれについた魚の骨を指差す、見た目はどこの王子様だと言いたくなる様な異星人に深いため息をこぼす。

「意味は確かあったと思うけど知らない。そういう風習ってことで納得して」

冷たくあしらわれた彼はしょんぼりとうなだれた。

その姿が容姿が整っているだけに自分がすごく悪いことをしているような気にさせられるんだけど、だ、騙されないからね!

こいつは今も現在進行形で人類を滅ぼそうとしている悪人なんだから!



人類が宇宙に進出して、変わらず高価ながら宇宙旅行がそれほど特殊でもなくなり、資源開発にどんどん宇宙船が宇宙の方々に出航していった頃、日本のとある街の片隅で小さなラブロマンスが生まれていた。

ヒロインは老舗和菓子屋の一人娘、ヒーローは中華料理店の一人息子。

2人は高校で運命的に出会い、飛んできたボールで割れた窓ガラスから彼が彼女を守るというベタな展開を経て恋に落ち、若くしてお互いにお互いしか人生の伴侶はいないと確信して結婚を決めた。

けれどお互いに継ぐべき店を持つ者同士、当然というかお互いの両親に反対された。

2人は考えた末にお互いの両親を呼び出し、彼らに1つの料理を振舞った。

それは老舗和菓子屋に生まれた彼女が作った特製のあんこを中華料理店に生まれた彼の作った特製の皮で包んだアンマン。

どこにいてもどんな店でも、受け継いでいく技術や心は変わらないと、2人が両親たちに料理で示すために作り上げた愛と心意気のアンマンだった。

それに心打たれた両家の親たちは結婚を許し、2人は晴れて結ばれ中華料理店の若夫婦になり、可愛らしい娘も授かった。

そして2人の絆をつないだ愛と心意気のアンマンは店の人気商品となり、2人のエピソードとともに町内で広く親しまれる一品になったという。

……これが私が物心つく前から耳たこになるまで聞かされてきた両親のエピソードだった。

まぁ、いい話だとは思う。思うが自分の両親のそういうド青春物語はこっぱずかしいだけだと思う。

そして私はいつも出されるアンマンがそれほど好きではなかった。

味は確かに悪くないが、そればかり食べてれば当然飽きる。こどもはケーキとかクッキーとか、ポテトチップスとかチョコレートとか、そういうものを食べたくなる生き物だ。

でも小さな頃はお小遣いもたかが知れているし、買い食いなんて親が許さなかった。

だからその日も持たされたアンマンを片手に、くさくさしながら近くの公園まで散歩に出かけた。

そこにやつはいたのだ。

小型の豆芝っぽい見た目のその犬は、なんだか弱っていた。

愛らしい見た目に騙されてふらふらと近寄った私は、私の手に持ったアンマンに興味を示した犬にそれを与えてやった。(犬に人間の食べ物を与えてはいけないなんてことをそのときの私は知らなかった)

すると元気になったように見えて、いいことをしたと思いながら私はその場を去っていった。

本当にただそれだけの話で、私はその後すっかりその出来事自体を忘れ去っていた。

けれど数年後、花の女子高生になった私の家に、国のえらい人が唐突にやってきた。

えらい人が言うに、人類は先ごろ初の地球外知的生命体と接触したのだが、その地球外知的生命体は宇宙にゴミをばらまきせっかくの美しい地球を汚染させる人類に怒っていて、人類を綺麗さっぱり滅ぼして自分たちの手で地球を美しく整えようと考えているという。

おまけに技術も文明もあちらの方が地球より発達していて、現在ではあっさりと人類滅亡させられる瀬戸際だという。

そんな中、交渉人になった向こうの人間(人間といっていいのかわからないが)が、私たち家族だけは自分の母星に連れて帰って不自由なく暮らさせると言い出した。

理由を聞けば、潜入調査に地球に下りた際、地球の人類に痛めつけられ弱っていた自分に親切にしてくれた少女の心と、与えてもらったアンマンの味がすばらしかったからだという。

それを聞いたお偉いさん方は、どうにか私たち家族にその地球外知的生命体の心を動かす説得をして、人類滅亡のシナリオを修正してほしいとお願いしてきた。

かくして日本の片隅で一組の夫婦を生み出した愛と心意気のアンマンは愛と心意気と世界を(一時的にでも)救ったアンマンとなり、中華料理店の住人は4人となった。

そして恋愛禁止、最優先は地球外知的生命体を義務付けられた私の悲劇はここから始まった。

――数年後、押しに押されてほだされてうっかり地球外知的生命体と愛を誓っちゃうことになるのは、また別のお話。

もうすぐ新年ですね!

今年はありがとうございました。来年もよろしくお願いします!

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