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4/8

美味しすぎました

書いてるものが進まないので息抜きに。

大友梨子21歳。ある日、道を歩いてたらマンホールの蓋が急に消えて、落ちてたどり着いた先は異世界でした。

別になんかの使命を帯びて召喚されたとかじゃなく、ただ不運で偶然にこっちに来てしまったようです。

落ちた先は街から少し離れた荷物の集積場で、私はそこを管理していた領主さんの私兵さんに保護、あるいはとっつかまりました。

幸いにもこっちの人はほとんど私の世界の人間と変わらない容姿でそこは助かりました。よく分からない姿の人だったら私はもっとパニック状態だったと思います。

言葉は残念ながら分からなかったですし、連れて行かれた先は明らかに牢屋だったんですが、そこそこ綺麗でしたからそこも助かりました。

そしてその牢屋で私はこれまでの私の世界を変える出来事を経験しました。

いえ、別に拷問や強姦とかひどいことじゃないですよ?

なんと、出されたごはんが美味しすぎたんです。

ちょっぴり桜色のお粥みたいなどろっとしたものが深皿に一皿と、シャキシャキとした黄色の葉っぱが数枚、それからこちらもほんのり桜色な水だけの質素なものでした。

初め、毒でも入っているのかもしれないというのと見慣れない食べ物にものすごく警戒してたんですが、悲しいことに人間は空腹には勝てません。さらに言えばどん底の空腹なんて知らない現代日本人の私では。

恐々とスプーンを片手に桜色のおかゆもどきをすくって一口食べたときの衝撃ったらありませんでした。

舌の上でふんわりとほのかに甘さと酸味が広がって、その後を追うようにちょっと何かの骨出汁っぽい塩味とスパイス?それとも香草?みたいな味がする。食べたことのない味だったけどとにかくそのバランスが絶妙で。

黄色っぽい葉っぱも青っぽさはなくて、野菜の甘みっていうのはこういうものなんだ!?と思うような味わいで。

水もおじやもどきと同じようにほんのりと甘みがある味わいでした。

おじやもどきなんてすっかり冷めていたというのに、気がついたら美味しくぺろりと残さずに食べきっていました。

基本、くいしんぼなんですよ私って。

あまりに美味しかったんで食器を下げにきた衛兵さんらしき人に、言葉が通じないなりに身振り手振り全身を使って美味しかったということを訴えました。

そしたら理解してくれたのか、次からおかわりしてもいいよと小さなお鍋ごと出してくれるようになりました。嬉しくて満面の笑みでお礼を言って、心行くまで味わいましたよ。ああ、至福の時でした…。

その時も幸せ気分のまま心から全身で感謝を伝えたのですけど、それが良かったのかそれからしばらくして食事のおかずが増えました。

見た目は緑色のいんげんに似た野菜に黄色のつぶつぶ…粒マスタードに似た感じのものが絡まった、おひたしっぽいもの。味は一番近いのはたぶん、キムチ。黄色のつぶつぶがピリッとして、いんげんに似た野菜はサクッとしてる。

全体的に甘めの味わいのごはんだから、その刺激がまたご飯をすすませるんだぁ。

やっぱりその時も美味しかったことと感謝を精一杯告げて。そしたらまたおかずが増えて、食事の内容もいろいろとローテンションが組まれるようになって。

そんなことを繰り返したある日、私は牢屋から出て領主さんの館に部屋をもらい、住み込みで働くことになりました。

この世界に定住するとかはまだ考えられなかったけど、人間たいていは美味しいものを前にしてどっぷりと暗い考えに陥れるものじゃないって思う。

元の世界に寂しさを感じて落ち込んだりしても、美味しい食事をすれば負けるかって気力がわく。

そうすると、たとえ牢屋だとしてもお世話になりっぱなしの現状には落ち着いていられなくなった。

少しずつコミュニケーション手段を増やして、このままお世話になるなら働きたいって主張して、もらったお仕事は領主様の息子の侍女。

なんでそんないい役割だったんだろう。もっと下っ端……希望を言えば厨房のキッチンメイドとかが良かったんだけど。あの味をぜひ元の世界に持ち帰りたかったのに。

それはともかく、この領主様の息子っていうのが初めに私のお皿を下げにきた衛兵さんだった。何しにきてたんだろう。訊いたら暇つぶしに覗きにきたらしい。私なんて見て楽しいのか。

何を考えているのかよく分からない御仁だけど、別段にムリを言ったりしないそれなりに仕えやすい人だからいいけど。私に言葉を教えてくれたり時々ささやかなお菓子をくれたりもする。

またこのお菓子が美味しくて!

お金とかだったら引くけど、ささやかなお菓子に罪はない。

後から知った話だけど、私が牢屋で出されていたのは本当に質素な、こっちの世界では貧民層が食べるような食事だったらしい。

それに感激して美味しい美味しいと喜んでいた私は、周囲から見ればものすごく食事に不自由していた子に見えたみたい。

それもあって領主様の息子……サジェ様は私にいろいろと食べさそうとする。

まぁ誤解だし誤解だと言ってはみたんだけど、私の語学力がそこまで追いつかなくて納得してもらえず、結局その好意に甘えさせてもらって、美味しいものを食べさせてもらっています。

ただし肥満防止のためにお菓子の差し入れも制限してますし仕事もバリバリしますよ!

ああでも、こんなに美味しいものばっかり食べてたらもとの世界に戻ったときが悲惨になりそう。

そんな危惧を抱きながら今日も元気にがんばっています。

領主の息子は餌付け作戦実行中という。(笑)

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