思いつき
思いつきで書きたくなっちゃってすみませんm(_ _)m
それは何となくだった。
平民よりちょっと下の生活をしている孤児の俺。
正確な年齢はわからないが、十は越えたと思う。
日々を生きるのに精一杯の生活の中、新たな王が即位したという話を聞いた。
酒場の外で、飲み客の食残し狙いでうろついていたら、酔っぱらい達がそんな話をしていたのだ。
『前の王は民にとても厳しく貴族に甘い王だったが、今度の王は違うらしい』
『父親である前の王様を倒して、新しい王へとなった若き王だってな』
『女が放っておかない見た目だが、人嫌いなのか女嫌いなのかそういう相手はまだいないらしい』
そんな感じのことを明るい表情で話していて、そんないい王様が国のてっぺんになるなら、少しは俺達のような奴らの生活も変わるかもしれない。
そんな微かな希望を抱いた俺は、ひと目でいいからその新しい王様を見てみたくなってしまった。
即位式は城でやるが、そこまで行くのにこの王都の大通りをパレードをしながら進むって話だから、上手くすればチラッとでも顔を拝めるだろう。
そう考えたのは甘かった。
民を苦しめる前王を倒し、希望を与えてくれた若き王。しかも、かなりの美丈夫という噂付き。
そりゃあ、みんな見たがるから大通りはどこもかしこも人だらけだ。
痩せっぽっちな俺なんて、あの中へ飛び込んだらあっという間に押し潰される未来しか見えない。
ここは地の利とこの小柄な体格を生かし、大通りに出ている木製の露店の屋根の上にこっそりと乗っかって王様の顔を拝ませてもらおう。
そう考えて──実行した。
歓声の中、騎士を引き連れた豪奢な馬車が大通りを進んでくる。
その豪奢な馬車の窓から、噂の王様の顔が見える。
確かに噂通りの若い美丈夫なのだが、何故だか俺は強烈な既視感を覚えた。
孤児である俺と王様に接点なんてある筈もないのに。
集まった国民へと笑顔を向けている王様がこちらの方へと顔を向け……目が合った気がしたのは気のせいだろうか。
「てめぇ! 何そんな所に乗ってやがる!」
とか夢見がちなことを考えてたせいで反応が遅れてしまった俺は、露店の店主に見つかってしまい、足を掴まれて引きずり降ろされそうになる。
「うわぁっ!」
踏ん張ることも出来ず、体勢を崩してしまった俺は悲鳴のような声を上げながら地面へと叩きつけられ──覚えているのはそこまでだった。
●
──夢を見た。
その夢の中で俺は痩せっぽっちな孤児ではなく、三十に近い歳の一人の逞しい騎士だった。
落ち目の騎士の俺が守っていたのは城ではなく、美しい離宮。
そこの主は、可愛らしく賢く優しい、少し前に十の歳を迎えたばかりの少年だった。
しかも彼はただの少年ではない。
王と正妃の初めての子であり、普通なら王位継承権一位となり、王太子となるはずの少年だ。
本来なら城で大勢の人間に傅かれて、チヤホヤされながら育つであろう少年は、最低限の使用人と俺を含めたほんの少しの騎士と離宮で過ごしていた。
巷では『王子は病気』となっているが、病ではない。
健康体そのもので、毎日俺達騎士の訓練に混ざって剣を振ったりされている。
性格に難がある?
全然無い。
俺のような平騎士にも『守ってくれてありがとう』と感謝の言葉をくれる、そんな少年だ。
もちろん他の使用人を見下したりする事なく感謝を告げ、仕事を誉めてくれる、仕える主として素晴らしいと思っている。
では、何故そんな少年がこんな寂しい離宮に住まわれているかと言うと、端的に言えば父親である王に『恐れられている』からだ。
少年の父親である今の王は、まぁ心の中なんでぶっちゃけさせてもらえば、権力に取り憑かれ腐りきっている。
金が足りない? 税を増やして平民から貢がせろ。
笑顔でそう言い放つ王だった。
それに対して微妙な反応を見せてしまった俺は、こうして離宮警備に飛ばされたが、今は良かったと思う。
そのうち、あの王を背後からサクッと刺しちまいそうだったからな。
どっかの馬鹿貴族が平民の娘を手籠めにしたのを揉み消したとかいうクソみたいな話を聞いてからは特に。
しかも、その娘には愛する婚約者がいて、手籠めにされた娘は心を病んで自ら命を絶ち、両親は…………娘の事を抗議してその貴族に殺された。
それを全部、王が『無かった事』にした。
そこへ今の俺の主である、その時は城で王子をしていた少年が登場だ。
『そんな横暴は許されません』
真っ向から王へと意見した。
平民だから貴族より命が軽いのは当然だと笑う王に、必死で食い下がったそうだ。
その素晴らしい人柄に心酔して『次代は安泰だ』と嘯く輩がひっそりと現れ始める。
そして────自らの玉座が奪われると馬鹿な不安を抱いた王によって、少年は離宮へ閉じ込められる事になってしまった。
それでも腐る事なく少年は日々王になるための勉強を続け、体を鍛え続ける。
いつか王になるために。
何故そんな事まで知っているか?
実は真夜中に巡回していた時、理不尽に奪われた民の命を想い、涙を流している姿を見てしまったからだ。
一度涙を見られたからか、それ以来少年は俺へ少しの弱音を吐いてくれたり、色々な話をした。
ひとりっ子だった俺は、弟が出来たようで嬉しかった。
王子相手に不敬かもしれないが、毎日とても楽しくて、幸せだった。
少年も少しは楽しんでくれていたと思う。
俺へ向けて笑ってくれた、年相応な可愛らしい笑顔が今も忘れられない。
過去形になっているのは、全てが過去の事だと思い出したから。
夢だとわかる夢の中で、今とは全然違う姿の俺は、王子である少年を逃がそうと並んで走っていた。
あの美しかった離宮には火が放たれ、同僚の騎士達が血塗れで事切れている。
ただでさえ数の少なかった使用人達の姿は見えないが、建物の中で同じように事切れているであろう。
全員が同じ目的のために、命を散らせたのだ。
年老いたメイドが剣を持った侵入者に死に物狂いでしがみついて血路を開き、片手が少し不自由だったシェフが小麦粉を撒き散らし、油まで撒いて時間を稼ぐ。
堅苦しさから王に疎まれて離宮の執事とされた男が、使えもしない剣を振り回しながら突撃していく。
その隣にはナタと斧を構えた無骨な庭師が並んで、獣のような声を上げて突撃していく。
誰も彼も、自らの命などどうでも良かった。
俺の同僚達も俺へ少年を託し、多勢に無勢の戦場へ向かっていき──。
皆を救いに戻ろうと足掻く少年を半ば抱えるようにして、何とか辿り着いたのは庭の片隅だ。
ここは王族用の離宮。
緊急用の脱出路はいくつも用意されている。
王の怪しい動きを察知した俺を含めた使用人達は、いざという時の行動を決めていた。
その時が来たら、自らの命をなげうってでも少年を逃がそう。
そう全員笑顔で誓った。
もちろん少年が無事に逃げ出した後の事も考えてあり、王の息がかかっていない数少ないマトモな貴族への繋ぎはつけてあるので逃げた後の心配もない。
あとは俺の服を握って離そうとしない少年を脱出させるだけ。
「ここからお逃げください。外には仲間が待機しております」
「あ、あなたは? あなただけでも僕と一緒に……」
年相応の幼い表情を見せ、泣きそうな顔をして必死に俺の服を掴む手をそっと外させ、脱出路の扉を開けて少年を押し込む。
きちんと明かりは持たせた。
この脱出路は一本道。一人でも行けるだろう。
扉の向こうで、少年の泣き叫ぶ声が聞こえてきて胸が痛む。
「……必ず後で行く。あなたが立派な王になった姿を見たいからな」
気付いた時には、そんな決して叶わないであろう約束を口にしてしまっていた。
最後の挨拶も交わせなかった『仲間』達の分の気持ちも込めて。
『約束だ!』
そんな声が応えた気もしたが、近づいて来る敵の気配を感じて確認も出来なかった。
そして、俺は死ぬ気で剣を振るい続けたが──結局約束は守れず、扉を塞ぐように息絶えた……と思う。
そんな長い長い夢を見た。
「……っはぁ」
無意識に詰まっていた息を吐き出し、俺はゆっくりと目を開ける。
視界に入ってきたのはもちろん燃え盛る離宮の庭園ではなかった。
俺は露店の屋根から落ちて気を失ったんだろうし。
だが、露店の屋根から落ちて気を失ったはずなのに、外でもない。
俺が寝かされていたのは明らかに高そうなベッドの上だ。
体を起こして見渡した室内も高級そうな家具ばかり。
どう考えても薄汚れた孤児の俺が通されるような部屋じゃない。
…………しかし、この部屋、何となく見覚えがある。
もちろん今世ではない。先ほど夢で見ていた……たぶん前世であろう人生の中で。
「…………城だな。しかも、王の寝室だ」
騎士として何度か入った事があったので、内装に何となく見覚えがある。
趣味の悪い美術品とかがなくなっていて雰囲気はかなり変わっているが、変わっていない家具もあるので間違いないと思う。
あの夢が俺の妄想とかじゃなく本当に前世だとしたら、ここは王の寝室で間違いないが、だとしたら余計わからない。
何故ただの孤児である俺がここに寝かされていたのか。
実はとある貴族のご落胤で……とかはあり得ない。
朧げだが両親の記憶はあり、捨てられた記憶もあるのだ。
万が一俺がご落胤だったとしても、王の寝室のベッドで寝かされる意味がわからない。
答えの出ない問いにベッドの上でうんうんと唸って悩んでいたら、いつの間にかベッドの側に人影があって思わず後退りしてしまう。
それぐらい近い距離に、気絶する直前に見た相手が立っている。
そして無言で俺を見下ろしている。
先ほど既視感を覚えたのは、幼い頃の面影があったのだと現実逃避をしながら王となったかつての『少年』を見上げる。
まろやかな頬は失われてしまったが、俺を見下ろす瞳には昔と変わらない光が宿っていて状況も忘れてホッとしてしまった。
なんて思うのは一方的な俺の思い込みだ。
向こうからしたら俺はその辺にいる孤児の一人でしかない。
「……助けてくれて、ありがと」
しばし無言で見つめ合う時間が続き、しびれを切らした俺は礼儀を知らない孤児が精一杯頑張った感じで礼の言葉を伝えてみる。
返って来たのは泣き笑いのような表情だ。
その表情の意味がわからないままボーッと見上げていると、伸びてきた腕に囚われてギュッと抱きしめられる。
「へ? な、なにすんだよ!?」
「…………約束守ってくれたんだ」
まさか少年趣味があるのかと一瞬身構えてしまったが、耳元で囁かれたのは無邪気な喜色に溢れていて毒気が抜かれてしまう。
「私が王になる姿を見たいと言ってくれただろう?」
「そ、れは……」
死ぬ間際に『俺』がこの元少年と交わした、叶えられるはずもなかった約束だ。
でも、今の俺はかつての『俺』じゃない。
「何を言ってるのか……」
「目が合った瞬間にわかった。あなただと……」
なにそれこわい。
据わった目で嘯く元少年に、思わずそんな言葉が脳裏を過っていく。
だが、目の前にいる元少年は、俺を離す気配はない。
この元少年の諦めの悪さと粘り強さはよく知っている。
実の父である王に疎まれて離宮へ詰め込まれて腐らず、王になる努力をひたすらに続けていた姿は忘れられない。
ここで何とか誤魔化しても、確信している元少年は諦める事なく俺を追い続けて来そうだ。
俺はため息を吐いて腹を決める事にする。
前世の記憶が蘇った今、どうせ俺が選ぶ道は決まっているからな。
「──俺はまたあなたの騎士になりたい」
こうして、孤児から騎士を目指すという思いつきで、俺の新たな日々は動き出すのだった。
騎士になるまでかなりかかると思うが、それまでこの目の前で不服そうな顔をしている元少年が我慢してくれるかどうかは──。
数年後の俺達が証明してくれるだろう。
いつもありがとうございますm(_ _)m
大根の息抜きで、ちょいシリアス書きたくなって書きました。
勢いで書いたので、サラッと読んでいただけますと幸いです。
元少年、たぶん腹黒わんこ化してます←
そして、主人公はやたらとスルー力高く、包容力強めとなっております。
BLにはなりません、たぶん。




