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第7話 君の海になりたい。


 あれから、ずっとモヤモヤは消えなかった。

 自室の部屋で、ベッドに寝転びながら考える。


 蒼への気持ち、これはなんだろう。

 離れたくない。このまま、関係が終わるなんて嫌だ。

 けど……好きって言われて……。俺は、胸が締め付けられた。

 ずっと、その言葉を待っていたような気がした。

 でも、すぐには受け入れられなかった。それが、あいつにとってどれだけ悲しかったか。


 ……あいつのことを思うと、ドキドキする。

 あの綺麗な顔を思い出すと、心が高鳴る。

 これは……もしかして。でも、俺は……今まで……。


「兄ちゃん、ご飯できたって」

「ああ、ごめん」

「何? 考え事?」

「うん……今日、告白されて……」

「は!? やば! え、その話……あとで詳しく聞いてもいい?」

「ああ……うん。聞いてほしいかも」


 弟に恋愛相談か……でも、実際こいつしかまともに相談できそうな人居ないし、一人で悩んでも……しょうがないし。


 俺たちはご飯を食べ終わった後、皿を洗い、俺の部屋に集合した。

 こいつに蒼に告白されたというのは勇気が要る。知ってる仲だし、何より男だ。


「で、告白されたって……蒼くんに?」

「え……な、な、ななんで?」

「この前の蒼くん見てたら分かるよ。兄ちゃんのこと好きなんだろうなーって。兄ちゃんのこと見ては、はにかんで、時々恥ずかしそうにして……気づいてなかったの?」

「ええ……そうだったんだ……」

「ずっとダダ漏れだったと思うよ。兄ちゃんが鈍感すぎるだけで。あー、蒼くん可哀想」


 ずっと、俺のこと……。確かに、あいつも言ってた。


「ほら、兄ちゃんも満更でもないんだ」

「は?」

「ニヤニヤしてるよ。それも自分じゃ分かってないんだろうけど。もう付き合っちゃえばいいじゃん」

「い、い、いや……男だよ?」

「……兄ちゃん、好きなんでしょ? それこそこないだ分かりやすかったよ?」

「え?」

「兄ちゃんも蒼くんのことばっかり見て、見惚れてたじゃん」


 は?そうなのか?……俺って、あいつのこと……好き……なのか?

 その瞬間、あいつに頭を撫でられた時のことを思い出した。

 ドクドクと脈打つ心臓。赤く熱くなっていく顔。


「俺、あいつのこと……」

「はい。それは、蒼くんに言ってあげて。じゃあ、電話でもしてみなよ。僕は勉強するから。じゃあね」

「あ……うん」


 また一人になった。

 そうだ。俺も、ずっと前からあいつのこと……。

 スマホを握り締め、勇気を出して電話をかける。

 ……ダメだ。やっぱり、繋がらない。


 あいつ、思い詰めてないかな。

 心配だ……。でも、どこに……。


「ぜーんぶ包み込んでくれる気がすんだ。俺のやらかしたこととか、弱さとか、病気とか」


 もしかして……海に?

 でも、家にいるかも。まず、家に行ってみよう。

 それから、海に……。


 俺は居ても立っても居られなくなった。

 階段を駆け下り、玄関のドアを開けようとする。


「あんた! こんな時間にどこいくの!」

「あ、あ、あ蒼と……連絡取れなくて……心配だから探しにいく」

「……分かったわ。気をつけて行ってらっしゃい。帰りは迎えにいくから、連絡しなさい」

「え? いいの?」

「蒼ちゃん、何か事情があるんでしょう? あんたが支えてあげなさい」

「……わ、分かった。行ってきます」


 俺はチャリで蒼の家まで爆走した。

 自転車にスピード違反があったら、確実に捕まっていたと思う。

 蒼のアパート。ポストの名前を確認する。

 確か……3階だったはず。これだ、305!


 俺は階段を駆け上ると、息を切らせて305号室のドアの前に着く。

 緊張する。あの例のお父さんが出てきたら……。でも……。

 

 息を整え、チャイムを鳴らす。


「はい? ……蒼の友達?」

「こ、こ、こんばんは。蒼くん、いますか?」

「ごめんね。蒼、まだ帰ってきてないんだ」


 正直、拍子抜けした。どんなに怖いお父さんが出てくるかと思ったら、普通の人みたいだった。


「あいつ見つけたら、帰ってくるように言ってくれるか? 面倒かけてすまないね」

「い、いえ。探してみます」


 でも、この人は……蒼を殴るんだ。なんでだろう。もっと嫌な人だったらよかったのに。

 だから、きっと……蒼もずっと辛かったんだ。期待させるのが一番、残酷だ……。

 でも、そんなこと言ったら……俺のしていることも同じだったのかもしれない。


 俺は駅までチャリを飛ばした。

 駐輪場の値段なんて見ずに、適当に近くのところに止めた。

 そのまま改札を通り抜け、ちょうど止まっていた電車に飛び乗る。


 車窓かっら見える景色は、真っ暗だった。

 昼間に見たきらきらした街並みとは違った。

 暗くて、不安に駆られる。

 蒼も、この暗闇に一人でいるんだろうか。

 そんな蒼の姿を想像すると、胸が痛くなる。


 早く着け。あと一時間。

 暗闇に反射する自分の顔と、にらめっこしていた。

 早く会いたい。早く、誤解を解きたい。


 そうこうしていると、海辺の駅に着いていた。

 考え事をしていたら、意外と早く着いた。


 すぐに降りると真っ暗な街並み。

 街灯はほぼない。住宅地とはいえ、暗すぎるくらいだ。


 俺は記憶を頼りに、海へと向かった。

 

 浜辺が見えてくると、足が勝手に走り出す。

 早く会いたい。居てくれ……頼む。


 そこには……体育座りで泣きわめく蒼が居た。

 俺が近づく音にも気付かず、わんわんと泣いている。


「あ、あ、あ蒼……」

「……海?」


 蒼は焦って涙を袖で拭う。

 赤くなった目は、その事実をそのまま映し出す。


「良かった……こ、ここに居たんだ」

「どうして……どうして分かったんだよ」

「海が全部包み込んでくれるって言ってたろ?」

「そっか……」


 俺は黙って蒼の隣に座る。

 蒼は、不思議そうに俺のことを見つめる。


「気持ち悪くないの……」

「な、な、なにが?」

「俺がお前のこと好きって……」

「それが気持ち悪かったら、俺も気持ち悪くなるから」

「え……?」


 正直に口が動かない。

 気持ちを伝えたいのに、勇気がでない。


「てか、海綺麗〜」

「は……はぁ? そんな見えねぇよ」

「黙れ。心の目で見ろ」

「……ばか」

「お前もなー。一人で突っ走んな」


 空気は晴れて行った。

 俺が、こいつのことを包む海になりたいと思った。

 けど、そんな言葉は要らなかった。

 言えなかった。


 軽口を叩くだけが、俺の精一杯だった。


「一緒に帰ろ。まだ電車あるし」

「……いいの?」

「は、は、花火大会……行くんだろ? 勝手に居なくなんな」


 俺は蒼の手首を掴んだ。

 座り込む蒼を立たせ、引っ張って浜辺から連れ出す。


 蒼がどんな顔をしているのか見れなかった。

 けど、きっと……泣いてはいないと思った。

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