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『峠の魔物とプレスマンの芯』

作者: 成城速記部
掲載日:2026/05/08

 あるところに、こちらの村からあちらの村まで、峠を越えて荷を運び、手間賃をもらって暮らしている男がいました。歳のせいでしょうか、少し無理をしたら、腰を言わしてしまい、荷を運べなくなってしまいました。運ぶのは馬なのですが、馬に荷をくくりつけられなくなったのです。馬のほうが明らかに大変なのに、だらしないものです。しかし、腰を言わしてしまったときの痛みは、筆舌に尽くしがたいので、仕方がないことです。

 かわりに、息子が荷を運ぶことになりました。仕事自体は単純なので、息子は父親のかわりを勤められると思っていましたが、父親から意外なことを聞かされました。あの峠には、魔物がいて、積み荷をよこせと迫られることがある。毎回ではないのだが、きょうは、峠に、よくない雲がかかっている。こういう日は危ない。もし、積み荷をよこせという声が聞こえたら、何か一つ、後ろに投げてやれ。何でもいい。本当に積み荷の中から一つ投げてやってもいいし、全然違うものでもいい。ただし、気に入らないと、投げ返してくるから、硬いものとかとがったものではないほうがいい。爆発するものは絶対によくない。きょうの積み荷はプレスマンだから、もっと柔らかいものを投げてやれ。

 そんな話だったので、息子は、プレスマンの芯をふところに入れていきました。いざとなったら投げられるように。峠に差しかかると、馬が急に歩かなくなりました。空気が薄いのかもしれません。馬が頼りですから、息子は、峠で馬を休ませました。ちょうど昼時だったので、息子は、握り飯を食べることにしました。半分ほど食べたとき、頭の中で声がしました。何かをよこせということを言っているようです。息子は、父親の話を、半分冗談のように思って聞いていたので、本当だということがわかって怖くなりました。息子は、半分食べた握り飯を後ろに投げて、馬をせき立てて、峠の向こうへ下りました。

 帰りも、同じ道を通りましたが、魔物の声は聞こえませんでした。家に帰って、ふところに入れておいたプレスマンの芯を出してみると、全部折れていました。



教訓:仮にプレスマンの芯を投げていたら、気に入られなくて投げ返されて折れてしまったということかもしれないし、そもそもプレスマンの芯を投げた時点で、折れてしまったということなのかもしれない。

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