第二幕 教団 強襲
魔術様式に合わせるために中世的な様式を配した神殿でも
今日の防衛のためには近代的な装備も配置せざるを得ないのだという。
ウェルダ教団本部…『神殿』にも、機械的なアラートが鳴り響き
霊装と機関銃で武装した教団の僧兵たちが防衛ラインを敷いていた。
しかし、例えどれだけ武装しようとも、魔術でも魔法でも化学でもそれぞれ違いがあろうとも…
使う兵器と、それを使う者の熟練度の違いはどうしても覆すことができないのだろう。
「無粋だわ、吐き気がする」
『神殿』に、露出度の高い扇情的な霊装と竹箒のみで侵入した魔術師の一薙ぎで、それはもう確定していた。
魔女アルジェナ、ペイガン学派を伝える魔術結社『魔女宗の後継者』の元巫女
彼女の保有する魔力は魔法使いにこそ劣れど
出力のみでいえば、史実上のどの魔法使いでさえ敵う者は居ない…幻影と破壊の魔女。
片や、ウェルダ教団の魔術師たちはその殆どがただの一般人。
まして、昨日今日…敵対勢力による教団支部攻撃が始まってからようやく攻勢魔術や銃器の扱いの基礎を始めたという者ばかりだった。
その結果は歴然かつ当然かつ圧倒的かつ暴力的…それ以前に、一方的だった。
タン と、アルジェナが箒を逆さにして地面を叩くと…
急に重力が下ではない、横…教団の出口に向いた。
「な、なんだよこれ!?」「うあああぁぁぁぁああっ!!?」
ウェルダ教団の魔術師たちのみがアルジェナの横を通り出口へと落ちていく…その先に待つのは、メイド服を着た二人の少女。
「さぁさ蟲たち…ご飯の時間ですよ?」
「うぅ…アルジェナさまは容赦がないですよぉ」
それぞれが思い思いのことを言い、それと同じくして二人同じようにスカートを持ち上げる。
「皆殺しにしちゃうなんて…」
ゾ ァ ア ッ !!
アルジェナに向かって『容赦がない』と文句を垂れた少女がそう言ったとき…二人のスカートから何かが溢れ出す。
それは、白と黒…奇麗に彩られるモノクロームの波…
それに向かって落ちゆく教団の魔術師たちは、それをただ奇麗だと思うその直後
それの正体に気付く。
蟲…蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲
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とぷ ん
「…んっ、ごちそうさまです」
「うぅ…っ……おいしかった」
二人のメイド、一人は満足そうにまるで美味しいものを食べたかのような口を拭うジェスチャーをする。
一人は胃もたれを起こしたようによろめいて嗚咽するが…本音が漏れていた。
「お掃除お疲れ、さすがはメイド♡」
アルジェナの言葉に、胃もたれするメイドの背中をなでつつもう一人のメイドが反す。
「お誉めに預かり、光栄でございます…でも、姉さんが胃もたれしてしまいましたので
あとは皆様にお願いいたしますよ」
メイド…おそらくは妹の言葉に、攻撃的な笑みを浮かべるのはアルジェナだけではなかった。
一人は、学ラン姿の瓶底メガネの少年
一人は、サングラスをかけた黒人の大男
一人は、一見してごく普通の東洋人の青年
一人は、魔女
「「「「おうよ。」」」」
彼らは世界の過半数の進行を支配する『正義』の使者。
あるいは、ただ復讐や我欲に燃えて他の薪を燃やす『悪』なる焔の巣窟。
十字教薔薇十字騎士団は、正門から堂々とウェルダ教団へと侵攻を開始した。
「ジュリア様っ!!こちらへ…」
襲撃の報からすぐに、ジュリアは教団からの脱出ルートを進んでいた。
「……」
「っく、一体何故此処の所在がばれたんだ…!!」
教団の存在そのものは知れても可笑しくはない、寧ろ宗教と言うものは知れられなければ意味がないのだから。
しかし、その中でもその本部であるこの地下施設の隠蔽そのものは完璧の筈だった…それなのに何故この位置が特定されたのか…
爆発が起き、ジュリア以外の今日団員達が薙ぎ払われていく。
「退路の占拠は完了、と」
そう言って、瓦礫の中から現れる栗色のツンツン頭の青年、彼が教団を経った今壊滅させんとしている組織…
薔薇十字騎士団の一員なのだという事は理解できた
「子供か…そこの教団員の娘か、悪い事をした…っ!!?」
ジュリアが振るった魔術剣を、青年は片手で受け止めた。
「娘じゃない…ジュリアは、教祖様の……娘じゃないっ!!」
叫んだジュリアは教団で必要最低限身につけた体術を駆使して、青年に斬りかかる。
それは、目の前で教団員を殺された怒りではない
一人ひとり顔なんて覚えているわけでもない、自分に逢うニンゲンなんて…ただ彼の道具としての自分を手入れに来る雑務係で
自分をジュリアという一個人として扱ってくれる人は誰も居ないから。
ジュリアが怒気を露わにしたのは、自分が『誰かの娘』であるという青年の勘違い。
「あああぁぁぁああっ!!」『止すんだジュリ!!』
剣を構えて青年に突進するジュリアの心に、突如として制止の声が響く。
「邪魔しないでメタトロン!」
と、叫ぶジュリアの蹴りが青年の脇腹に刺さり、青年は一瞬苦悶の表情を表す。
しかし、一瞬の後にはその足を掴みグルンと青年はジュリアを組み伏せた。
ジュリアは、泣きながら叫ぶ。
「ジュリアは…じゅりあはっ…ニンゲンじゃないよっ
教団の道具だもの、ずっと此処に居る…教祖様の代わりだもの……っ」
胸の内を明かして泣き伏すジュリアを見て青年は…
「メタトロン…天使を模した上位自己を持っているのか…
キミは、魔法使い…それも未覚醒かね?」
青年の問いに「……」と、ジュリアは無言で応える。
すると青年は黙り込み、一瞬考えた後にジュリアに問う。
「二回問う…今、ここで死ぬのを望むか」
そう言って青年の延ばす手にジュリアの身は縮こまるが、その手はジュリアの頭を優しく撫でた。
「それとも、この無明・下院と外の世界へ出るか…だ」
「ぇ……」
ジュリアは青年の差し伸べた手を、思わず凝視した。
青年…下院は続ける。
「来るのなら、お前が知らないものをすべて教えてやる
外の事、人間である事、外の常識、感情も…」
翡翠のような深緑の瞳は、誰かに向ける殺意だけではない…後悔、そして決心で確かに輝いて見えた。
「じゃぁ……」
ジュリアは剣を置き
「愛も、教えてくれるの?」
ジュリアの問いに、青年は頷いた。
「教祖様、薔薇十字騎士団の攻撃が予想以上に激しい以上、ここは撤退せざるを得ないのでは…」
「撤退?
ならばどこへ撤退しようとういうのだ?」
教祖の問いに、撤退を提案した教団員はしり込みする。
「都市魔術の根幹はここだ、もう少し…初めに魔術の施行位置を吟味してさえいれば、違う未来もあったのだろうが…
今となっては愚考か、ならば今ここで我らの悲願を達成しようではないか」
教祖はせり上がった台座に手を翳し、魔術を起動させる。
「教祖様、それでは…」
「神に、なられるおつもりですか?」
「現代に生きる魔術組織として、その力は魔女狩りの時代を大きく上回ると知れ
薔薇十字騎士団…いいや、神の意志よ…っ!!!!」