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暗黒竜

今回出てきますが、五玉竜というのはまあまあ(聖白竜、暗黒竜と比べれば馬鹿だけど)知性のある、青、赤、緑、朱、金色の、高位だけど異世界では一般的な竜種のことです。

 ゾルヴィアが指を鳴らす。


 ぱちっ、と小気味良い音が殺風景な部屋の壁に反響し、何重にもなってレイの暗い視界の奥で点滅した。

 その時、天井から立体感のない穴が大量に現れた。


 正確に言うと、それは天井から少し下、つまり空中に浮かんでいる。トリックアートのようになった天井からハルクは目を逸らした。


 穴の中から無数の黒い光線が二人に襲いかかった。


 ハルクは翼をはためかせて縦横無尽に攻撃を躱す。人型は竜の状態よりも体重が軽く小回りも利くためそう難しいことではない。


 一方でレイは斧を下から上に振り上げ、降り注ぐ光線を切り落とした。


 しかし攻撃は止まることなく振り続ける。


 光線は生き物のように軌道を変え、二人を捉えて貫こうと迫ってくる。

 この光線は呪術の一種、つまり魔法で防ぐことは出来ない。今現在レイが使える呪術でも防御は不可能だろう。


 レイは衝突寸前で地面を蹴って避け、気配と思考で光線の軌道を読む。ゾルヴィアに攻撃を仕掛けるまでの余裕は流石に無かった。

 ハルクは光線から逃げつつも、その目は真っ直ぐにゾルヴィアを捕捉していた。

 より一層強く翼を振り、追ってくる呪術を完全に撒く。音速を超える速度によって突風が発生した。


 ハルクはある一点に向かった。


 ゾルヴィアの背後だ。


 鋭い爪を構え、獲物の背中を狙う。すばしっこい鳥獣を仕留めるために何百年も磨き上げて来た、空気すらも裂く一撃。

 しかしゾルヴィアはまるで動揺を見せずに瞳をハルクに向けた。


 振り向きざまに結界を展開し、爪を防いだ。


 硬い結界と鋭い爪が擦れ合い、歪んだ不快な高音が空間中に響き渡る。

 ハルクは結界を破ろうと、爪を更に押し込む。


 透明な壁にひびが入る。この程度の結界、昔仕留めた鳥獣の外皮に比べれば何と言うことは無い。


 ゾルヴィアは後方に体を引く。

 しかし振り返るとそこには、盲目の状態で斧を構えるレイの姿があった。


 再び結界を張ろうと手を前に出すが、レイの持つ斧には幾重もの魔法が付与されている。張ったところで無駄だ。


 そこでゾルヴィアは結界展開用の魔法陣を攻撃用に切り替えた。


影の者(インザシャドウ)


 ハルク、レイ、二人の正面から黒い手が何本も伸びた。

 ハルクは結界を蹴り、レイは刃の向きを変えて掴みかかってくる腕を切り飛ばした。


 翼を動かすのを止め、ハルクは落下している中で神々しい魔法陣の照準を上空のゾルヴィアに合わせる。


 魔力とは違った眩い力が複雑な魔法陣から溢れ出した。


誘う聖歌(クリークアンゲラ)



 この世界には、神聖魔法というものが存在する。

 使用には魔力も呪力の消費も必要としない、何故か神仙、聖白竜、聖仙しか使用出来ない特殊な魔法。魔法と分類されているのは、それが魔力も呪力を消費せず、尚且つ呪術と呼ぶにはあまりにも美しいものであるからだそうだ。その力の源は聖脈と呼ばれているが、矢張り詳細は分かっていない。


 神聖魔法は呪術に強く、聖脈を持つ者は呪力に対して強い、または完全な耐性を持っている。

 ハルクたち聖白竜は呪力を持つ暗黒竜にとって相性最悪の敵に他ならない。



 神聖な波が魔法陣から放出された。


 精神攻撃系の神聖魔法だ。身体には影響しないが、浴びた者の意識を失わせることが出来る。


 突然の下からの攻撃をゾルヴィアは冷静な表情を崩さずに避ける。

 だが、既に背後からはレイの斧の刃が迫っていた。


 呪術の効果を弱めるために視覚を絶っているにも関わらず、その斬撃には一縷の迷いも含まれていなかった。


 瞳に浮かび上がる魔法陣の奥からこちらを覗いているとしか思えない、完璧な動き。


 ゾルヴィアは首を両断しようとするそれが到達する前に自らの体を影に変え、部屋の中心に転移する。


 少しでも気を抜けば、ハルクが心臓を掻き切ろうと腕を振り上げて間合いに入ってくる。


 それを防いだ次は結界では到底受け止めきれない威力の斧に狙われる。


 二人は同時に攻撃を仕掛けてこない。故に隙は見つからず、呪力も消費されていく。


「お前は聖白竜であろう。何故命じられるままに戦っている」


 ハルクの神聖魔法を舞うように躱しながらゾルヴィアが言った。


「私の意思だ」


 呪術の反撃を神聖魔法の結界で遮り、しかし視線を敵から外さずにハルクが答えた。

 体重移動と翼の力で執拗に相手を追い回し、弱点である神聖魔法を容赦なく発動させる。


終戦光柱(シトムアトク)


 天井から光の柱が降りた。


 床に巨大なひびを走らせて空気を裂いた白が視神経に刃を突き立てた。


 ゾルヴィアは視界外から降りる柱をふわりと避け、左手に呪力を集中させる。


開戦黒柱(インシタメント)


 床から立体感の無い影の柱が生えた。

 それは間違いなくハルクを狙っている。


 魔法と呪術の融合攻撃は流石に神聖魔法でも防ぎ切ることは出来ない。


 更に密度の増した柱の間を、見えている道筋を辿るように飛び回る。白と黒の魔法が輝き、翼の音が呪力と聖脈の溜まった空気を掻き乱す。


魔の首断ちプログレッシュディーニャ


 眩い光の線が床と水平に飛んだ。

 線の残像が空中にもう一つの床を描いた。

 高度を上げてそれを回避し、ゾルヴィアは魔法と呪術を同時に放った。

 魔法はハルクを、呪術はレイを狙っている。


契約違反イネヴィタブルイヴィル

最後の影踏み(メモリア)


 十字の闇魔法の刃がゾルヴィアを中心に円を描くように現れた。

 切先がハルクの心臓を向く。

 十字は寸分も狂うことなく、敵の心臓を貫こうと引き寄せられるようにハルクに迫った。

 弾丸のような速さのそれを動体視力で躱し、ハルクは次の攻撃を準備しようとした。

 しかし十字はハルクの背後から再びその心臓を狙った。


「っ!」


 間一髪で回避し、ハルクはゾルヴィアを視認しながら魔力探知を発動させた。

 十字の動きは直線だが、ゾルヴィアが諦めるか自分の心臓を突くまで止まらない。前から飛んできたものを避けた次は背後から刺しに来る。


 一方でレイは、呪力の足跡から逃げ回っていた。


 黒い円が足跡のような間隔で迫ってくる。それに追いつかれればどうなるかは大体予想がついた。

 おそらく、圧死する。

 レイの場合は圧力で少し動きを封じられるほどだが、それでも今の状況では充分な脅威だ。


 レイは斧片手に壁を走り回り、もう片手付近に小さな転移魔法陣を出現させた。


 何かが黒手袋の中に落ち、金属音が暗闇を点滅させる。


 セノカが作り出した手榴弾擬きだ。


 風魔法で速度を増強させ、真っ直ぐにゾルヴィアに飛ばす。

 ハルクがいち早く気付き、炎魔法特化の結界を張った。


 二人の動きに勘付いたゾルヴィアも同じ結界を展開した。


 炎の範囲魔法の中にその姿が消える。


 しかし魔法の効果時間を過ぎ、炎が晴れた先には相変わらずの青年が浮いていた。


(矢張り、ハルクが気づく奇襲は通らない、か……)


 レイは天井からの光線を軽く体をずらして避ける。

 結界を消したハルクは爪を構え、聖脈を纏って突進する。

 新たな結界を張りながらそれを受け流し、ゾルヴィアは目を細めた。


「聖白竜は争いを好まぬ性分だと聞いたが……我の記憶違いなのか? 以前目にしたお前の同種は我らを見るなり辞儀をして去って行ったぞ」


「記憶に間違いはない。ただ私が変わり者であるだけのこと。……主、背後から呪力反応だ」


「助かる」


 レイは素早く身を翻し、壁から生える黒い棘を避けた。

 その勢いのまま壁に足を付き、膝を折り曲げる。

 そしてばねのように壁を蹴って飛び、真っ直ぐに斧を掲げた。頭から割るつもりだ。


 ゾルヴィアはハルクの攻撃を慣れた様子で受け流し、斧の軌道から外れる。空気が斬られ、鋭い風圧が天井を揺らした。


「確かに、卑しき脆仙を主と呼ぶのはお前の他にそう居るはずもないか」


「主は卑しくない。誰よりも強く、寛大な心を持っている」


「真面目に反論するなハルク」


 レイは何も見えない瞳を特に意味もなくハルクに向けた。


 その時、ゾルヴィアの両手にいつの間にか浮かんでいた魔法陣から炎の雨が重力を無視して二人に降り注いだ。


 神聖魔法の魔法に対する効果は特別強いわけではない。ハルクは魔法で水の壁を張り、炎を遮断する。


 レイは魔力の爆発を利用して炎を払った。

 そして爆発した魔力の一部を再び取り込み、攻撃に利用する。


〈蒼霊流星〉


 青白い閃光が蠢き、ゾルヴィアに向かって行った。

 流星は相手に当たるまで止まらない。

 一度回避してもすぐに向きを変えて自分を狙う流星の動きを、思考力と視力を駆使して読む。

 流星の性質に気づいたのか、ゾルヴィアは防御でも攻撃魔法でもなく、異空間への転移魔法の魔法陣を展開した。


 ゾルヴィアを狙っていた閃光は体表ギリギリの位置に現れた転移魔法陣の中に消えた。


「ところで聞くが」


 ゾルヴィアからの魔法攻撃を避け、戦闘を続けたままレイが言った。

 激しい動きに対して声は涼しく、まるで下校途中の友人に話しかけるようだった。


「脆仙は暗黒竜に何をしたのだ?」



「……何だと?」



「無実を主張しているわけではなく、文字通りの意味だ。単に情報を求めているだけ、何せどの歴史書にも事件の発端が乗っていないものでな」


「……貴様、年はいくつだ」


「十五」


 その答えを聞いて、ゾルヴィアは僅かに目を見開いた。

 目の前の脆仙は少なく見積もっても二十は越えているように見えたのだ。確かに童顔だが身長は十五歳の少年の平均よりも大分高い。



「……ある新月の夜、我らの仲間の大半が殺された。女子供、更には卵と孵ったばかりの赤子までもが皆、魔法と剣によって切り裂かれていたのだ。残されていたのは脆仙の魔力痕だった」



 レイは攻撃を止め、黙ってその話に耳を傾けた。

 隙を狙おうとするハルクの肩を掴み、制止する。


「真実を知るために人型の姿で脆仙共の居住区を訪れた。だが貴様らが差し出したのは何だ? 握手か? 違う、魔力と敵意をふんだんに込めた銀の刃だ。その場で二人殺され、我々は故郷に帰った。五玉竜は聖白竜を食い散らかし、脆仙を滅ぼそうと躍起になっている。以前まで殆ど関わりの無かった聖白竜は我々が訪れるなり何故か神聖魔法を放って拒絶した。________そしてある日、彼の者が告げた。脆仙を滅ぼせと。五玉竜と手を組み、あの卑劣な獣共をこの世から一掃せよと」


 そこで再び、ゾルヴィアが広範囲に渡って呪力の刃を降らせた。


 レイは特に焦った様子もなく斧で叩き落としながら走り出す。ハルクは刃の隙間を縫って神聖魔法の白い光線を放った。


 いくら魔法ではこちらが有利だとはいえ、相手は二千年以上の時を生きた、しかも迷宮内で目立った危機もなく力を溜め続けてきた暗黒竜だ。長年積み重ねられた技術は相性の悪さをまるで無意味なものに変えてしまう。


 そして厄介なのは、魔力呪力ともに異常な量が有り余っていることだった。最も攻略が難しいと言われていた最古の迷宮の主もこれほどではない。


 何者かの手が加わっているか、余程の強者が何人も挑んで来なければ有り得ない力。


 先ほど発見した魔力痕の主の仕業と見て間違いないだろう。


 しかしあの魔力痕の濃さならば歴史書に名前の載っていそうなものである。


(……)


 空間内を駆け回り、レイは斧を振りつつも思考に没頭しかけていた。

 ハルクの体力もいつまで持つか分からない。全ての攻撃を余裕で躱され、魔力と聖脈も減る一方だった。


(……ある時突然行方をくらました、膨大な魔力を持つ歴史上の人物)


 今まで読んだ歴史書の内容は、一言一句、紙の上の傷の数から位置まで鮮明に覚えている。


 心当たりがあるのだ。


 否、確実にそうだとしか考えられない人物の名が脳裏に浮かぶ。


(あの魔力量でこの竜に食われたこと、この部屋に入った辺りで途切れた魔力痕)


 これはどう考えても間違いなく_______


「主!」


 ハルクが叫んだ。


 暗い視界も手伝って、自分が思っていた以上に思考に集中してしまっていた。


 何とか脳を回転させ、自分に向かってくる攻撃を読み、気配を探る。

 咄嗟の動きの安定性は低いが、どうにか飛んでくる黒い光線を避けて斧を振り上げる。


 だが、ゾルヴィアは飛び掛かってきたハルクの腕を掴み、強引にその背を盾にする。


「卑劣な……!」


「天で見ていろ。我は必ず復讐を遂げる」


 二人の間に一つの魔法陣が現れた。


黒滅波(インテンション)


 黒い衝撃波が発生した。


「ぐ……!」


 数を浴びれば体を狂わせるそれを結界で防いだが、ハルクは後方に吹き飛ばされた。


 丁度レイが立っている方向だった。


「構うな避けろ!」


 ハルクが叫んだ。


 ほぼ躊躇いなくレイはハルクの起動から外れ、自身も結界を張る。

 体が壁に激突し、肺から空気が押し出された。


 レイは僅かに気にするそぶりを見せたが、立て続けに起こる衝撃波に耐え、魔法の発動準備を整える。


「後ろだ…………!」


 負傷で掠れた、ハルクの声が衝撃波を超えて告げた。

 背後から魔法の気配がする。



 ……否、背後どころか。

 二人を覆うように大量の魔法陣が浮かび上がった。


 更に、呪力の気配が強まった。


 ハルクの視線の先では、ゾルヴィアの外見に変化が起きていた。


 額でもう一つの黒い目が開いたのだ。


「終いだ」


彼らは黒き無垢を覗く(ヨグストラ)


 迷宮の最下層に近づいた時から感じている、呪術の視線が増えた。

 頭痛と平衡感覚の異常が激しさを増す。

 気配を感じ取って思考で位置を読んでいるだけだというのにここまでの効果、呪力耐性があと少しでも弱ければ完全に負けていた。


 ここまでの呪力と魔力。


 完全に止めを刺す気だ。


『ハルク、躱せるか』


『……難しい』


 壁にめり込んでいるハルクの体には、闇魔法の魔力が巻き付いている。


 ゾルヴィアとハルクとでは、年月と経験故に魔力の差が大きすぎる。


(……負傷覚悟で助けるしかない)


 死にはしない。しかし完全な魔法無効化を身につけていない以上、どのようなリスクがあるかは不鮮明だ。


 もしセノカだったならば、ハルクには構わず結界による防御を続けていただろう。

 自分はセノカほど非情になれない。


(仕方がない)


 それを実行すれば後でセノカから全力の拳と冷ややかな視線を喰らうことは決まっている。

 しかし今必要以上に慎重になってしまえば、戦況は悪化するだけだ。

 ハルクに転移するだけの魔力と体力は無い。



 レイは結界を解いた。



 そして斧を固く握り、特大の魔力を込めて再び振り上げた。


 以前セノカから告げられた兄弟内の規則。


 _______天与魔術の秘匿。


 どこに他種族の目が潜んでいるのか確実に読むことは出来ない故に、三人は天与魔術の情報を漏らすことを禁じられている。


 三つ子以外の前で発動型の魔術を使ってはならない。


 レイはそれに違反しようとしていた。


 突然無防備になった敵からゾルヴィアは更に距離を取り、分厚い結界を張る。

 だがレイはその構えを崩すことなく、腕に力を込めた。




〈天与________〉




 斧が振り下ろされる。



 その瞬間。



 背中を思い切り蹴られる感覚が心臓を跳ね上がらせた。


 気配がしない。


 敵の攻撃か?


 魔法式を構築し、慎重に気配を探る。


 しかし次に感じ取ったのは、ゾルヴィアの動揺だった。


「秘匿しろと言った筈だが」


 冷たい、少年のような声が聞こえた。


 同時に刃物を振る音が響き、先ほどまで二人を覆っていた魔法陣の反応が消えた。


 誰が来たのかはすぐに分かった。


「すまん。緊急事態故、任務直後に呼び出してしまった」


「天与魔術を使用しかけたことについては後で咎める。まずは……」


 その人物がそこで言葉を途切れさせた。



 何だ、と思う間もなく、身に迫る危険の気配に勘付いた。



 しかし何故か、それを避けるべきではないと直感した。



 直後、激しい苦痛が全身を駆け巡った。



「……!!」


「呪力耐性を今ここで付けてもらう」


 成程、彼女らしい判断だ。


 前世から任務で傷を負ったことはないが、訓練の関係で痛みには慣れている。


 周囲には結界の反応。安心してこの痛みに苦しむことができる。


「すまぬ主、今は私と妹君(いもうとぎみ)が食い止めておく」


 全く感じ取れない気配、女性と男性の中間のような声、刀の音。


 セノカが来ている。


 シャロウは無事に呼び出してくれたようだ。


 しばらくして、地獄のような痛みが消えた。


 常人ならば即死している呪術を浴びたために、かなり短時間で獲得できた。


 完全な呪力耐性。


 セノカはいつの間にか、既に獲得していたらしい。


 視覚遮断の魔法を解除し、目を開く。


 壁からこちらを見る大勢の目。


 宙に浮かぶセノカとハルク。二人と戦うゾルヴィア。


 セノカの攻撃の威力はレイほど強くはないが、頭脳は遥かに彼女が上だ。


「く……!」

「憎しみに駆られた奴ほど挙動が読みやすい。意味はないと思うが覚えておけ」


 知略に長けたゾルヴィアでも足元にも及ばない。


 セノカが伝念で指示を出しているのか、ハルクの動きは先ほどまでとは大分違う。読みづらく、無駄が無い。


「舐めるな!」


 ゾルヴィアは魔力を爆発させた。

 セノカとハルクはそれを刀と爪で払う。


 レイは呪術による負傷を回復魔法で治癒し、立ち上がる。


 圧倒的にこちら側が優勢。攻略まで後わずかだ。


 レイは地面を蹴った。


 そして斧を完全に振り下ろした。


 セノカが上手く気を引きつけてくれたおかげで、ゾルヴィアがそれに気づいたのは刃が届く寸前だった。


 結界を張る時間は勿論、防御の判断をする隙も与えられない。


 血が刃を濡らした。


 血飛沫が飛び散った。


「……見事」


 肩から腹にかけて走った深い傷の痛みが衝撃のように脳を揺さぶる。


 回復魔法は何故だか効果を成さない。





 血を零し、ゾルヴィアは冷たい地面の上に落ちていった。


 死への恐怖は無い。ただ、相手への感心と静かな悔しさが胸の奥にあった。


 意識が遠のく。





『________ヴィア』


 懐かしい、自分を呼ぶ声が微かに聞こえた気がした。

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