迷宮任務
迷宮内でシャロウ、レイ、テオの三人は魔物を倒しながら前へ前へと進んでいた。
巨大な斧とウォーハンマーが振り回された影響か、少しの振動で砂利が落ちる。
全く関係ないといった表情で武器を振り回す二人を横目に短剣で魔物を突き刺すテオは時々天井を不安げに見ていた。
〈虚の咆哮〉
魔物の動きを封じるためにシャロウが魔法を発動させた。
衝撃が走り、丈夫な床に浅くひびが入る。
魔物の動きが鈍った隙にレイは床を蹴って大群に飛び掛かり、魔物を両断して斧を床にめり込ませる。斧に付与された魔法が斬撃を更に強化し、五階層下までの魔物を半数ほど斬り殺した。
「お二人、ちょっと」
遠慮がちにテオが二人を振り返った。
レイとシャロウは攻撃を止めずに耳を傾ける。
「何だ」「どうかした?」
「……そのう、揺れが怖いから他の技とか……」
「迷宮には自動修復の魔法がかかっているから崩れない。それに俺にとってはこの方法が最も効率的だ」
「ごめんねえ、私もそんな感じの考え方で今まで……」
シャロウは申し訳なさそうに頭を下げた。
しかしテオは苦い顔のままだった。
魔物を倒しながら伝念を発動させ、レイの脳内に弱々しく言った。
『死因が死因だから控えてほしいんだけど……』
『死因? …………ああ』
以前テオに尋ねられたとき、セノカは『お前は地震で死んだ』と伝えたのだった。
正直それに近いものではあった。思い返してみればあのとき以来、妙に地震への反応が鋭くなっていたような。
死んだ瞬間の記憶は無いが、自分が死んだ原因に繋がる物に恐怖が生まれてしまったのだろう。
……実際に死んだ「あっち」は全く平気そうだが。
だからといってその人物と兄弟としてやっていけるかと問われると微妙なところである。妹がセノカである時点で精神的な苦労が絶えないというのに、あの人物が追加されると兄としての重圧と疎外感が凄いことになる。
何と言うか、兄弟というよりも同居中の友人、のような関係になってしまいそうだ。
前世とほぼ変わらない。
『それはすまん』
とりあえず謝る。
どちらにしろ早めに終わらせたいので止める気は無い。
『止める気無いでしょ。……もー分かったよ。本当に崩れないんだね?』
『崩れない』
『じゃあ頑張って我慢する』
テオは伝念を切った。
突然落ち着いたテオにシャロウは首を傾げたが、魔物との戦闘に集中してすぐに意識の外に追い出した。
レイも破壊を再開し、テオはそれに若干怯えた様子を見せつつも短剣を振るう。
階層を下り、魔物を殲滅する。
矢張り下るごとに数は増えていく。
段々と激しくなっていく破壊に眉根を寄せつつも、テオは二人に劣らないペースで押し寄せる魔物を切り伏せる。
〈滅轟〉
〈惑星の怒号〉
〈呪詛・乱れ八重桜〉
衝撃波が駆け巡り、桜色の光線が空中を舞った。
魔物が花びらに変わって散る。床のシミと同化する。
巨人が暴れた跡のようにひびの入った空間に美しい花が舞い散り、混沌とした景色を作り出している。
「この調子で行くぞ」
「はあい。置いてかないでね」
「二人とも、初任務とは思えないくらい連携が取れてるわね」
「それはまあオレたち三つ子ですし」
更に言えば、三つ子になる前から約十三年を共にしている。
三人は尚も足を止めず、魔物の大群と罠の嵐に突っ込んでいった。
タイルを踏むと穴が空き、天井から針が降り注ぎ、壁が三人を押しつぶそうとする。罠が機能する前にはその場所から離れているため、それらが意味を成すことは無い。
階層だけでなく迷宮全体に強い衝撃が走り、光が壁とタイルを突き破って広範囲に広がる。
凄まじい速度で迷宮を下りながら、三人は魔物に容赦なく技を放った。
〈串刺しの刑〉
梔子色の魔法陣が床に現れる。それと同時に巨大な黒い棘が飛び出し、魔物の心臓か頭を貫いた。
それは床を突き破り、下の階の魔物を数十体葬った。
テオはレイの横を疾走し、血の伝う黒い柱を素早く躱す。短剣が翡翠色に光り始めた。
「ここはオレが」
二人よりも僅かに前に出て、テオは短剣を改めて構えた。
腰を落とし、脚に力を込める。
〈望郷風車〉
冷涼な風が淡い翠を乗せて駆けた。
そして風に切られるように、魔物の体が真っ二つに割れた。
「___舐めるなよ、脆仙の小童が……!」
血に染まる大群の奥から一際大きな個体が姿を現す。凶暴な牙が覗く口からは毒々しい緑の涎が垂れ、タイルに粘り気のある染みを残す。
赤く輝く眼球が小柄な少年を捉える。
魔物は雷鳴すらも怯えて震える咆哮を轟かせた。
走る勢いのまま、テオはもう一度技を発動させた。
〈告げ・災華弟切〉
突然、魔物の心臓部から大量の血液が吹き出した。
その背後には山吹色を帯びる長めの短剣を握ったテオが立っている。
魔物の傷口から、黄金の花弁のような幻影が散った。
次の瞬間、魔物の体が金の華の塊となって床に美しく降り注いだ。
テオが扱う短剣技の中で最強の威力を誇る突き技。攻撃範囲は狭いが、例え相手が鋼の鎧を何重にも纏った鉄壁の騎士であろうとも貫き散らせる。
花吹雪に風で穴を開け、レイとシャロウがテオに追い着いた。
「今の奴がここら辺の階層の主かな?」
「助かる」
先程よりも速度を緩めて迷宮内を下る。
主が倒されたためか、ある程度の知性を持つ魔物は手を出してこない。迷宮の魔物は基本的に改装を下るごとに強さも知力も高くなっていく。最下層付近にもなれば流暢な言葉を話す個体も存在する。
実際、一二一階層を超えた辺りから良く知る言語が聞こえるようになった。
「多分最下層近いんじゃない?」
「近い。あと五三だ」
「それは『近い』の範囲に含まれるの……?」
「今のペースだと大体七分で到達ですね」
魔物が怯えて出て来なくなったお陰で大分速く進めている。
今回の目的は任務の遂行であって攻略ではない。壁の隅で縮こまる個体は知性を持っているが故に命拾いしていた。
そう賢くない者は花びらかただの物となって床に転がっている。
テオが割り切って本格的に魔物を倒し始めてからは、花が増える一方、ひびの数は大幅に減っていた。
レイとテオはセノカに何度も連れ出された経験から迷宮内の環境には慣れている。
シャロウはそこで、自分が思っていたよりも不要な補助役であることに気が付いた。
巨大なウォーハンマーも今やただの飾りに過ぎない。二人の前に出ようにも、一度瞬きをすれば狙っていた個体は既に死体だ。
最上級の魔導士、それも二人の先輩である自分が空気。
(ちょっと気まずくなってきた……)
シャロウは二人の後を走りながら肩を落とした。
「……俺は三人で良かったと思う」
不意に、レイが言った。
「え?」
「作業が効率的だ」
「____あ、え、うん。ごめんね、私ったら暇があると気まずくなっちゃう性格で……気を遣ってもらわなくても大丈夫だよ! こんなに将来有望な子たちが後輩なんて、お姉さん誇らしいぞ! ……っと」
シャロウは背後から奇襲を仕掛けて来た魔物を殴り潰した。
前を二人が走るなら、自分は背後からの脅威を退けなければ。
確かにこの役割分担なら早めに最下層まで進めそうだ。シャロウ自身も任務で幾度となく迷宮に潜っているので知識はそれなりにある。
前方のレイとテオを目視しながら背後に魔力探知を集中させる。
階層が下がるごとに奇襲の頻度も多くなってきた。先刻までの暇が嘘のように忙しく、魔力の消費を考慮しつつも絶えず視界外を警戒する。
と、その時突然レイが立ち止まった。
「おっと……どうかした?」
レイと並走していたテオが踵に力を込めて急ブレーキをかけた。タイルに黒い線が走る。
シャロウは間一髪、前二人にぶつかることなく足を止めた。
藍緑の瞳が周囲を見回し、澄んだ魔力の僅かな漏れが完全に消え去る。
「来る」
テオとシャロウにのみ聞こえる声量でレイが呟いた。
「来るって、何が…………」
兄と同じように魔力を鎮め、テオは短剣技の準備を完了させた。金属が仄かに薄桃色の光を放つ。
シャロウは妙な違和感に表情を強張らせた。
気味の悪い魔力が満ちている。大勢に見られているかのような感覚だ。
小さな呻き声がどこからか聞こえてくる。天井から砂利が落ちる。
気配が強まる。
_____そして。
壁と床が消滅した。
中に潜んでいたそれが露になった。
闇。
全く立体感の無い黒壁が広がっている。
そこには影すらなく、壁と床の境目は見えない。
何の前触れもなく壁に大量の目が現れ、三人を見た。
微かに禍々しく不快感を煽る魔力が放出され、三人に押し寄せた。
「う……っ」
シャロウは突如発生した吐き気を魔法で抑えた。
それでもなお、魔力を通じて伝わる不快感は消えない。
頭を揺さぶられるような感覚がする。視界が揺れ、耳鳴りが鼓膜を突き、足の力が抜ける。
「意識を保て。完全に支配されれば終わりだ」
冷たい声が脳を冷ますと同時に、不快感が消えた。
しかし異変は終わっていなかった。
前が見えない。二人の魔力も感じ取れない。
「精神干渉系の呪術攻撃だ。魔力探知の結果からして恐らく最下層の魔物が張った罠だろう」
呪術。
魔法以外の攻撃手段の一つだ。呪力を消費することで使用可能だが、呪力を持つ脆仙は全体の五千分の一にも満たない。耐性を持つ者は更に少なく、五十年間で十数人しか報告が無いらしい。
歴代屈指のフィロイドの中でも、呪術での耐性を持つのはオルバのみだ。彼が十七歳の若さで他種族領への使者に選ばれた理由の一つである。
呪術を主な攻撃手段とするのは吸血邪仙と妖鬼。各種族の中でも厄介な二種族とされている。
脆仙領の魔物の中にも呪術を持つ個体は少なからず存在する。大抵は耐性が無くても殺傷力はそこまで高くない程度であり、任務では何度もそのような魔物と戦った。
だが今回のこれは常軌を逸している。レイの助けが無ければ完全に持っていかれていた。
フィロイドである自分がこの有様であるというのに、初任務でこのような危険な場所に彼らを遣わすだろうか。
「……未確認の魔物だ。過去に数人が入り込んだ痕跡はあるが、どれも一方通行。大多数は上階の___先刻テオが倒した個体に殺されるか、数十階層で逃げ帰っている。魔力の隠し方も上手い。階層内に入るまで気づかなかった」
暗い視界でふらつきつつも、シャロウは納得していた。
今まで幾つもの迷宮が攻略されているが、どれもこれも難易度に大きな差は無い。この迷宮の危険度もフィロイドならば無傷で突破可能な程度だと知らされていた。
迷宮は古ければ古いほど難易度が上がる。最古の迷宮は既に攻略されているので、それ以上の物は無い筈なのだ。
「一つ、大分古いが異常に濃い魔力の残る足跡があった。それも一方通行だったこと、未だこの迷宮が残っていることを考えると、迷宮の主はさらに強い力を待つか、最悪の場合足跡の主の能力を取り込んでいるかもしれん。ある呪術で天与魔術以外の能力を奪えることは知っているな?」
「うん。ところで、異常にって……どれくらい?」
「魔力痕は時間が経つと薄まって消える。しかしそれは約千三百年前の物だった。そこから計算すれば、持ち主の魔力はテオとおよそ同等だ」
テオと同等ということは、その魔力量はオルバとまでは届かなくてもシラーよりも多いことになる。
レイとテオの実力が本当に新人のそれならば、最下層の魔物との闘いでの生存率は殆どないに等しい。
「この呪術は相互の存在認識によって発動する。視覚は勿論だが魔力探知も使用するな」
つまり、完全な暗闇の中で戦う必要がある。
視界が遮られた状態でも魔力探知さえあればどうにかなるが、どちらも使用不可能となると戦える気がしない。
「ここから先は俺が行く。テオとシャロウは戻って、出来ればセノカを呼んで来てくれ」
「そんなこと……!」
「今全員で逃げれば再びここへ来た時に対策される。それと、呼ぶのはセノカだけでいい。テオは扉の前で見張りを頼む」
「分かった」
レイの足音が遠ざかる。
自分に出来ることは無い。この状態ではレイを止めることも不可能だ。
素直にテオと共に援軍を呼ぶしかない。
躊躇したが、踵を返して振り返る。
もう一つ、足音が響いた。軽さからしてテオのものだろう。
暗闇の向こうに溶けていくレイの気配に不安を感じたが、シャロウはテオの後に続いた。
・・・
最下層に近づくにつれ、壁の目の呪力が強まっていく。
暗闇の中気配を感じるだけでも気分が悪くなるが、流石にそこまでは制御できない。緩やかに呪術の効果が身体を蝕む。
平衡感覚が僅かにずれ、軽い頭痛が走った。
前世で拷問の訓練を受けていたためか、それとも転生後の訓練の賜物か余裕で耐えられる。しかし精神を支配下に置かれる可能性は十分にある。
ある程度の耐性は得ているもののまだ完全ではない。普段の鍛錬を繰り返せば五日後には完全な耐性が手に入るだろうが、今回は運が悪かった。
正面から遣いの魔物が飛び掛かる。
思考力で凡その動きを読み、広範囲を破壊するように巨大な斧を振るう。
これがセノカであったなら、殆ど視覚を通しているのと近い動きが出来たのだろう。自分にはあそこまでの頭脳は無い。
______否、「奴」ならば更に…………
ある人物の姿を思い浮かべる。
レイはそこで無駄な思考を止め、斧を大きく振りながら走った。
壁に大量の亀裂が入る。二人が居ないため遠慮せずに攻撃を放つ。
このような対策方法を見抜いていたからなのか、向かってくる魔物は皆鳴き声も足音も無い。最下層の魔物の知力の高さが伺える。
階段を下った回数から考えるに次の階が最下層だ。
迷宮の主の顔は拝めないが、以前攻め込んできた神鬼軍よりも苦戦することは間違いない。
暗闇を思考で進み、最後の階段を下った。
設置されている罠に注意を払いつつ、遣いの魔物の波を断ち切る。
〈霧断つ風神〉
視覚遮断魔法の奥で、強い衝撃と魔物の気配の消失を感じた。
____そして、常人ならば押しつぶされて死んでいるかもしれない程の強い威圧感と殺気。
それが更に奧から放たれた。
(……間違いない。最下層だ)
レイは重い金属の扉に手を置いた。
そこに少し力を加える。大の大人が数人必要な筈の、強い結界の付与された扉が簡単に動く。
結界は硬いが、何の反動も無くレイは階層内に侵入する。特定の魔力にのみ反応する特殊な結界術。魔法式を組み込むには少なく見積もっても八十人と三十時間は必要な代物だった。
『……主』
脳内に直接、声が響いた。
ハルクだ。
『何だ』
『警戒せよ。その扉の奥に良くない気配を感じる』
普段から無表情で硬い従者だが、今回は普段とは違った緊迫感がある。
迷宮の主は基本的に竜、つまりハルクに近しい種族の者たちだ。
およそ二千年前、種族間を隔てる神の結界が弱まってすぐの頃、原因不明だが竜が脆仙に危害を加え始めた。当時は魔法技術が未だ大して発展しておらず、人々は大苦戦したらしい。
しばらくして竜の大群を鎮めることは出来たが、殺しきることは出来なかった。
人々が選んだ手段は「封印」だった。
魔法で地中深くに届く迷宮を作り、その最下層に竜を押し込めて封じた。そうして各地には迷宮が残った。
だが当時の魔法技術で可能だったのは、『塞ぐこと』のみだった。
強い結界を張るだけ。竜の動きと魔力を完全に封じることは不可能だったのだ。
それ故に封印後も時間が経つごとに竜の力と知力は強化され、今や一流の冒険者でも討伐が困難になっている。
迷宮の攻略が勧められているのはそれが原因でもある。
ハルクたち聖白竜が封印されていないのは、種族の特徴が理由だった。聖白竜も狩りはするが他の竜より気性は穏やかであり、必要以上の侵略と狩猟は好まない。
誤って討伐されてしまった個体も多いが、聖白竜は他の竜と敵対していたため脆仙側に付いた。恨まれなかったのは「聖なる純白の竜」としての器の広さ故だ。……ハルクはかなりの異端児だが。
『手助けするか? 私に呪術は効かない』
『人型の状態で頼む』
『承知』
視覚と魔力探知は使えないが、短い返事の直後に新しい気配が出現した。
扉の向こうから感じるそれとは対照的な、澄み切った気配。
「では行くぞ」
レイは扉を完全に開いた。
禍々しい魔力と呪力を遮るものが無くなり、更に強い不快感に襲われた。
_____風圧に外套が揺さぶられた。
「____懐かしい気配だ。何と……不快な」
地の底から響くような低い声。
呪術の力が強さを増した。
「……成程、嫌な気配がすると思えば、暗黒竜とは驚いた」
ハルクは魔力を解放した。
白い角が伸び、枝分かれした。翼が全身を余裕で隠すほどに巨大化し、爪が鋭く光った。
澄んだ魔力と禍々しい魔力が衝突し、魔力の渦が生まれ、散った。
「聖白竜……この目で見るのは二千年ぶりだ。そこの脆仙はお前の従者か?」
「違う。このお方は私の主人だ」
ハルクは瞳に魔法陣を浮かばせて視覚を遮ったレイを手で示した。見えない筈が目線は一応暗黒竜に向けられている。
黒い翼に黒い鱗、そして黒い角と爪。レイには見えていないその姿は、竜状態のハルクとよく似ている。
「竜が脆仙の従者だと? 貴様、何を考えている? 竜が脆仙に受けた仕打ちを忘れたとは言うまいな」
「残念ながら、その頃私は未だ生まれていない。封印は貴様らの自業自得だ」
ハルクは八七一歳、事件が起きたのは約二千年前。卵すら出来上がっていない。
だがその魔力量は二千歳の個体の平均値を優に超えている。目の前の暗黒竜が勘違いするのも頷けた。
暗黒竜の全身から呪力が大量に漏れ出した。
そこに宿るのは、怒り、恨み、憎しみ、嫌悪。ありとあらゆる負の感情。
濃い呪力が更に気分を害した。
「自業自得、だと……?」
結界を張り、呪力耐性が不完全なレイを守るハルクを赤い眼が睨みつける。
気味の悪い、血走った目の浮かび上がった黒い壁から影が揺らめき、レイとハルクへの悍ましい敵意を露にする。
斧を再び構え、思考力を働かせて暗黒竜の動きを予測するレイ。
深緑の瞳で敵を見据え、片手に魔法陣を作り出すハルク。
暗黒竜は翼をはためかせて飛び上がった。
黒い呪力の光が巨大な全身を包む。
光は収縮し、直径二メートルほどの球を形作る。
しばらくして光が、帯が解けるように消えた。
そこに暗黒竜の姿は無かった。
長い黒髪をなびかせた青年。
黒い角が生え、黒い爪が空気を裂き、黒い翼が強風を起こす。
細身から呪力が放たれた。
青年は憎悪を宿した赤い瞳で敵を見下ろした。
「我は決して忘れぬ。あの虐殺を。あの者どもの卑しい顔を。あの憎しみを。同胞の最期を。この牢獄を破り、仇を討つのだ。彼の者は言った。……脆仙を絶やすまで、我らの平穏は訪れぬと」
「憎き脆仙の子よ、幼き聖白竜よ、心に刻むがいい。_____暗黒竜、ゾルヴィアの名を」




