食堂の恋愛騒動
皆さんこんにちは、ラゼメアです。
私は十五歳、今ちょうどそういう時期に突入しています。
突然ですが、最近「良いなー」と思っている人が居ます。
はい、恥ずかしいけど、多分恋愛です。
相手はティニーのルームメイトで派閥の仲間である、レイさんです。
良いなって思い始めた理由は……その……これも恥ずかしいんですけど、正直一目惚れに近いんですよね。
出会った時、落としてしまった栞を拾ってくれたのが彼で、実はその栞はお母様が作ってくれた宝物のようなもので……。
だから結構感謝してるんです。
あと彼、凄く格好いいんですよ! 見た目もそうですけど、その……何でもそつなくこなして、強くて、親切で、これは惚れます。はい。
何だか妙に目で追っちゃって、気づいたのは数日前くらいだと思います。
最近は欠席が多くてあまり会えていませんけどね。体が弱いとのことです。
だからぼんやりと空中を眺めてはレイさんのことを考える毎日……。授業中にぼーっとしてはティニーに起こされることが多くて。
けど今日はレイさんが居る! これはチャンス!
憧れのシャロウ・レミュグアさんなら絶対に諦めず、自分から行く筈!
今は食堂! レイさんと同じものを頼んでみます!
「やけに気合入ってるね。どうしたの?」
この声は、派閥の良心、アトロ!
よく他人を見ているからバレる可能性は高いです。用心しなくては……。
……っていうか、最近私を見る目が温かいので、もうバレてるのかも……気のせいですよね。気のせいであれ。
「何でもないよ!」
「ふうん……」
あ、駄目だわ。
これ絶対バレてる。
顔が沸騰しそう。
「お前何頼む?」
「……俺は……」
はっ! まずい! レイさんが注文しかけている!
耳を澄まし、目を見開いて確認せねば!
さあ、何だ!
「……グルート定食大盛りと焼き魚、あとは陽猪のスープ煮込み大盛りを頼む」
……。
「そんな薄い腹に入るの?」
「入る」
……。
グルート(この世界の肉料理、丼もの)定食、焼き魚一つ(デカい)、陽猪のスープ煮込み(具が大きい)。
無理だろ。
私の胃を殺す気か。
もうどれかに絞るしかない……けど、グルート定食って小盛りでも大分多いんですよね。焼き魚だけじゃ寂しいけど、他を追加するには大きすぎる……じゃあ……。
「ラゼメアは?」
「……陽猪のスープ煮込みとパン」
「はあい」
「僕はポルイダ定食!」
「はいよ、ありがとねえ」
食堂の職員さんの声が遠いです。
知ってましたけど、そういえばレイさん大食漢なんでした。忘れてた。
前に彼の兄弟にもあったことがあるんですが、あの人たちは小食そうだったのに。
「こっちの席で待とうぜ」
「りょーかーい」
ティニーが指し示す席に着いたのですが、これもまたチャンス!
レイさんの隣を取る!
ティニーが座る前に、最近鍛えた脚力で床を蹴り、滑り込む! ちょっと不自然な動きですが、まあいいでしょう!
もう椅子は目の前! 行ける!
「うおっ」
よし、取れた。
ティニーが結構動揺してます。ごめんね。
「あー! ごめんなさい! 今日は庭を見ながら食べたい気分で!」
「そ……そうなの? 凄い勢いだったけど……」
「食べたい気分で!」
勢いでごり推せば行ける!
これは思い込みとかではありません。もう十年くらいティニーの幼馴染やってるので、扱い方は心得ているのです。
ティニーは勢いに弱いので、こうすれば何とかなります。
「隣は俺なのだが……幼馴染でなくていいのか?」
きゃああああああああ! 話しかけられた!
気遣いありがとおおおおお! そういうとこ! そういうとこですよ貴方!
「だだだだだだだ大丈夫です!」
「大丈夫では無さそう」
「本当にここで良いです! レイさんに移動してもらう必要もありません!」
こうですね!
これで良いですよね、シャロウさん!
ちょっとレイさんが押されてる気がしなくもないですが、問題なし!
早いとこ雑談に持ち込まなければ、気まずいままになってしまいます。
「そそそそいえば知ってますか蟲って内臓とか脳とか色々無いらしいですよ!」
「いきなりどうした、あと食事前に蟲の話はしないでくれ」
「ごめんなさい!」
やってもうた。
私の悪い癖、緊張すると思考が全く働かなくなって喚き散らしてしまう。
もう黙ろう。それが良い。落ち着くまで食べることに集中しよう。
……いや、まだ注文したばかりだから食べるもの無いんですが。
「どうしたんだよ、最近お前おかしいぞ? 授業中はぼーっとしてるし、妙に早口だし」
やば。
「勉強疲れじゃない? だってラゼメア、勉強は苦手でしょ」
ほっ。
流石良心。
「そういうこと言うな! ラゼメアは頑張ってる! ……それにお前だってこの間の筆記試験の順位、確か百なんとか位だろ?」
「うっ! ……ティニーはどうだったのさ」
「十六位。この中で一番高い自信あるぜ」
「そんなことないでしょうに。多分レイ君はもっと高いんじゃない?」
「どうなんだよ」
あ、それは私も気になる。
あの授業態度とかからすると一桁行ってそう。……でも欠席が多いんですよね。
「……(一位……とは明かせない……なら)十八位」
「ほら見ろ俺が一番」
「はいはい」
出た。ティニーのイキり癖。
ちなみに私は一三二位でした。アトロとどっこいどっこいです。
でもあの出席頻度で十位代なのも凄いと思います。私なんか未だ欠席したことないですもの。
というかこの学院自体、結構頭が良くないと入れませんしね。
そう、だから私は馬鹿なわけではないんです。一般的な基準で言うと。この学院では……はは。
「……ねえ。ラゼメアの注文、もう来るよ」
「え?」
びっくりした。
アトロが指し示すところに目を向けると、そこは私の目の前。さっき注文したときに渡された、魔法陣の描かれた小さな紙です。
もう魔法陣が光り始めているので、そろそろ送られてくる頃ですね。ちゃんとお盆が乗るスペースを開けておかないといけないので、腕とかどかさなきゃ。
魔法陣の光が眩しくない程度に限界まで強まって、紙が消滅しました。
その代わりに私が頼んだ食事が転移してきます。
前までは呼ばれて取りに行く方式だったらしいですけど、混んでいて大変なので転移式になった、とのことです。
……実際に見てみると、これでも結構多いわね。
食べきれるかしら。
いいや、食べて見せる!
……でもレイさんのが来るまで待っていよう。
「食べないの?」
「ほ、ほら、皆で一斉に食べ始めない?」
「ちょっと子供っぽいが……良いんじゃね?」
よし、うまく誤魔化せた。
これからこの空気が続くのか……気が滅入る。
しかし恋愛のため! 多少のことは我慢せねば!
「あ、俺の来る」
「僕のも」
二人の昼食も届いてきました。
……っていうか、毎度の如く思うんですけど……。
「それ、水無しで食べられるの?」
「? うん」
頭上に疑問符を浮かべるアトロの間の前に並ぶ料理。
香辛料の赤、茶、黄、朱。
色彩は乏しいのに、物凄い迫力。鋭い匂いが鼻を突いて、思わず顔を顰めたくなる。
皿の上に小さな地獄が広がっているような光景。
辛すぎてあまりにも不人気で、食堂から消えかかっていたメニューだった筈が、アトロの登場によって一命を取り止めてしまった。
そう、アトロは類まれなる辛党なのです。
飲食店とかに香辛料が置いてあると、「嘘だろ」ってくらい大量にかけるくらいで。もうあれは料理じゃないです。赤い「何か」です。
真っ赤な塊をそれはもう美味しそうに食べる姿はカオスでしかありません。
あれはカオス。まじカオス。
辛味って痛みだって聞いたので、拷問を受けてもケロッとしていそう。
あ、ほら! レイさんだって引いてる! 甘党であるがために、その対極に位置する物の最終形態を見て言葉を失っている! あのレイさんが!
無表情なんですけど、もう目がこの世で最も悍ましい物を見ているようです。
辛味のインフェルノ。レッドマター。
飢え死にしそうになっても、これを食べたら死期が早まりそう。
おかしいですよこの人。何で舌が原型を留めてるんですか。
ああ……あんなにキラキラした瞳で混沌物質を待ち遠しそうに眺めている。
おめでとうアトロ、常識人卒業だよ。貴方。
「……俺も」
あら、意外と早い。
レイさんの魔法陣も光っている。
アトロのやつを見たばっかりなので、もう一度真面な人の真面な料理を視界に入れたい。
光が強まって、やがて限界点に達する。
____直後、出現したのは、脆仙どころか大拳仙ですら平らげられるか怪しい量の食事。
テーブルの三分の一以上を占領する巨大な皿。
この人も大概だわ。
「……それじゃ、イタダキマス」
スプーンを取って、猪肉の一部を掬う。
……レイさんはどんなペースで、あんな大量の食事を……
「ごちそうさま」
……………………ホワッツ?
わあ! 何て真っ白な皿! 更地! 陶器の良さが強調されている!
……待て待て待て待て。
え? ナニガオコッタ?
私が目を逸らしてた時間って、長く見ても十秒くらいでしたよね?
もう料理が残ってないんですけど。
ナニガオコッタ?
滅茶苦茶嬉しそうな眼をしていますが。まさかあの一瞬で完食……?
噓でしょ。記録魔法発動しておけば良かった。
……もしや天与魔術?
スピード完食?
何じゃそら。天与魔術の本来の役割に何も関わってない。
……というか、今の私が一番欲しいですよその魔術。この量を普通に食べられる気がしない。
けど多めに頼んで残す女なんて論外!
耐えろラゼメア!
私ならいける!
・・・
はい、まあ、ね。
何事も無理のし過ぎは良くないって言いますよね。
偶には妥協することとかも大事ですね。
ええ、ははは……。
……結果を言いますと。
次の授業、お手洗いで潰れました。
・・・
あああああ……。
空回りばっか。
気まずい。
残すのだけは阻止出来ましたけど、もっとまずいことになってしまいました。
恥ずかしいわ。もういっそ死にたい。
隣を歩くレイさん(ガンダッシュで獲得した席)も全然目を合わせてくれない……まあそれは片目隠れているので当たり前ですけど、喋ってくれません。や、元々そんなに喋らないですけどね。
全く何考えてるのか分からん! 知恵の神に縋りたい。
好きな人の心分からない 恥は限界値いっそ死にたい 私の精神は豆粒大。
チェケラッチョ。
駄目ですわ。もう頭が馬鹿。
虚無。阿呆。
もう私の恋愛人生絶ぼ______
_____あ、まずい。
滑った。
何でこんな所に紙が。
しかも両手で荷物を抱えていたから、咄嗟に手も付けないじゃないですか。
でも尻もちつくくらいだから別に大したことは無いですかね。痛みに耐えればあとは……いや待て。
女子として、絶対防がなければならない問題を忘れてた。
このままだとスカートの中丸見えだわ!
でも今荷物から両手を離して床に着く判断をしても遅いですよ!
もう駄目だああああああ!
「……(既視感……)失礼」
うおっと。
……ん? 床の感覚が無い?
代わりに腰のあたりに温かい感覚が……
……………………………………。
「大丈夫か?」
………………………………………………。
ぎゃああああああああああああああ!
レイさんの! 腕が! 腰に! 私を! 助けてくれた!
「あ、あり、あり、ありが、アリギャザマシアス!」
「何語?」
ごああああああああ。
嬉しい恥ずかしい好き。
撤回します!
これは諦められない!
・・・
「何をしている、恋愛神」
「何って、可愛らしい下界のコの恋を応援しているのよ」
彼岸の星空、恋愛神の空間に見回りに来た知恵の神は生成した下界の映像を寝そべって鑑賞している彼を見下ろした。
桃色を基調としたドーム状の空間。床にあたる部分には花が咲き誇り、ドームの天井からはハートマークや心臓、短刀、その他公開できない物が吊り下げられている。
恋愛神は紅いクッションに乗って笑いながら映像を見詰めていた。
桃色を帯びた肩まで伸びた髪に、紅色の瞳。服装は胸元が開いていて全体的に露出が多い。
恋愛神が司るのは純愛や幸せな恋愛だけではない。狂気じみた恋から悲劇的な恋愛まで、全ての恋の行方を管理する。彼自身、全ての恋の形を楽しむことの出来る大の恋愛好きだ。
「このコでしょ? 最高神様が仰っていた魂って」
「知っているなら恋愛に関わらせないでもらいたい」
知恵の神は映像の前に立った。
しかし、恋愛神は既に離れた場所に転移して映像を複製していた。
「良いじゃない。彼だって、ただ任務に明け暮れるだけの生活じゃあまりにも可哀想だわ」
「まずそいつは無せ」
「ああ! 駄目よそんなアプローチのやり方じゃ! ねえ、貴方知恵の神でしょう? 彼が彼女に振り向く方法とか知らないの?」
「教えてやる義理も必要も無い。あとその脆仙は無」
「くううっ、じれったいわね! そこはもっと大胆にいかなきゃ! 違うわ! ほら勇気を出して! 取り乱さないで! あらら……もう、恋愛初心者なんだから……あっ、そこよ! 頑張りなさい!」
「……」
恋愛神は知恵の神の言葉に反応すらしない。
映像に映る二人の距離感は全く縮まらず、恋愛神の声も大きくなっていく。
知恵の神は恋愛神が映像に熱中している中、空間を出て行った。
神に性別はありませんが、恋愛神は所謂オネエみたいな感じです。偶に生殖行動とかを鑑賞しながら「あら~」とか言っています。その直後に話しかけると大抵ド下ネタトークになります




