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衣装決め

今回は三人の仕事衣装が決まる話なので重要性は低めです

「おめで……どうした?」


 会議室の扉を開けて中に入ると、オルバが真正面に立っていた。


 妙に青い顔をしたシラーとテオに気づいたためか笑顔が一瞬にして真顔に戻る。

 レイはその横を素通りし、テオを椅子に座らせる。シラーはふらつく足取りで適当な席に腰かけた。


「何かあったのか?」


「使者が執拗に絡んできた」


「あー……そういうこと」


 レイの嘘に納得したようだ。


 ここで魔王の訪問を告げればどのような混乱が起こるかは目に見えている。


 オルバは近くの椅子に乱暴に腰を下ろし、肩を落とした。

 何やら顔が暗い。


「貴方こそ、やけに落ち込んでいるように見えるが」


 セノカが言った。

 オルバは卓に突っ伏し、らしくない沈んだ声で答えた。


「妹がよお……久々に会えると思って招待したのに、またシカトしやがって……ああ、ちょっと前まで可愛かったのに、会う度に虫を見るような目を向けられるんだ」


「……メルヴィか」


 セノカから妹の名前が出た。

 オルバは伏していた顔を跳ねあがらせた。


「もしかして知り合い?」


「同級生」


「嘘だろマジか⁈ あいつ俺のこと何て言ってた?」


 鬱陶しいほどオルバが迫って来る。


 セノカは結界を隙間に滑り込ませ、オルバが顔から激突した。



「デリカシーが無い、鬱陶しい、恋愛事情と学業の現状を聞いて来るのがウザい、碌な生き物じゃない」



 おおよそ言われた内容をありのままに話す。

 オルバは涙目になった。


 交流が少ない故に抱かれている印象を把握していなかったらしい。それが突然罵詈雑言を浴びせられればかなり強い精神的ダメージを負うに決まっている。

 気遣いを利かせてやる気などセノカには毛頭ないのだが。


 オルバが呆然としている中、セノカは更に追加した。



「『皆自分ではなく兄のことしか見ていないのが不快』とも言っていたか?」



 自分たち三つ子には縁の無い……テオはどうか知らないが、優秀な兄弟を持つゆえの悩み、というやつだ。


 思い当たる節があるのか、オルバが驚いた様子は無い。


「……難しいもんだよなあ、兄妹って」


 零すようにオルバが呟いた。


 レイが静かに頷いていた。


「おっ。お前も分かる?」


「……俺の場合は妹のほうが優れている上に何を考えているのか、何を好いているのかすら分からん」


「そんなことはない。単純な力ならお前のほうが上、私はお前より思考が鋭いだけだ」


「良いじゃねえか、こんな気遣いできる妹でさ。俺のとこなんか、試験の点数が良かったとかで褒めたら『兄様は力の代わりに脳みそを犠牲にしてるからね』なんて言われるんだぜ?」


 流石にセノカもそこまで言わない。


 レイは気まずさに俯いた。


 それをきっかけに室内の空気が僅かに重くなってきた。


「……すまん」


「ガチの同情はやめろ」


 再び空気が和らいだ。


 緊張の残響に気分を沈ませきっていたテオとシラーの表情も和みかけている。


 既に使者の魔力が消えている、つまり使者が帰ったこともその理由だろう。シャロウとノイヴァも普段の調子に戻っていた。


 レイとオルバは兄トークで盛り上がっている。

 不愛想な妹を持つ兄同士、何やら妙な親近感を感じているのだ。

 メルヴィは本当に兄を鬱陶しく思っている妹、そしてセノカは合理主義かつ兄弟に無関心な妹。系統は違うが構われない兄は複雑である。


 特にセノカに関しては元他人のレイを兄とは殆ど思っていないので、尚更だ。


「…………」


 ノイヴァが眼鏡の奥から二人のやり取りを眺めていた。

 そして異空間の中から分厚い書物を取り出し、無表情で読み始めた。


「……ん?」


 ぐったりと頬杖を付いていたテオがノイヴァの書物に視線を止める。


「何だ」


「それ、この間売られ始めたペレスさんの自伝小説ですよね。オレも読みましたけど、一四八頁の心情描写が本当に……ああっすみません!」


「問題ない。私も三週ほど読んだ」


「……面白いですよね、それ」


「面白い」


 その時、シャロウがテオの隣に移動してきた。


 テオは身構えて避けるように体を傾ける。初対面の女性に緊張するのは前世からの性質だ。


「テオちゃん、本好きなの?」


「……『ちゃん』?」


「嫌だったかしら」


「いえ、前にオレのこと女だと思ってた人が『ちゃん』付で呼んできたので、ちょっとね」


「えっ」


「え?」


 二人の間に静寂が訪れる。


 琴弥、クリスに次ぐ三人目の勘違いが晴れ、混乱をもたらした瞬間だった。


 オルバとの会話に花を咲かせるレイ、魔法陣を弄って何かを創造しているセノカ、シャロウに凝視されて微妙な表情で固まるテオ。


 魔王は帰り、緊張も解けていく。シラーはようやく顔を綻ばせた。


「君たち、緊張が解けて盛り上がるのは分かるが、この後の用事も忘れないでくれよ」


「アンタが言うか。……次、なんかあったっけ?」


 最も緊張していたであろうテオが首を傾げる。


 使者に殺されないことは勿論だが、奇術師志望のテオは一定以上親しい人物以外の前ではそれらしく振る舞うことが習慣を通り越して癖になっているため、無理に飄々とした雰囲気を保とうとしたことも必要以上の緊張の原因だ。


 セノカとレイは無縁であるため、シラーの言葉に疑問を抱く様子は無い。


 オルバはにやりと笑った。


「そりゃあ、ある意味一番大事なことだよ。俺らにとって」そしてテオの首から下げられているフィロイドストーンのペンダントを指差した。「それ、加工してもらうんだよ」


「加工? 磨くんですか?」


「違うって! ほら、俺らのこと見て気づくこと無い?」


 オルバは立ち上がり、わざとらしく仁王立ちした。


 オルバの仕事衣装。深い緑のベストに、重々しいブーツ。フィロイドの最年長かつ学院長であるため外見重視のシラーと比べるとかなり戦闘向きに見える。


 その胸元には、紫の石のブローチが付けられている。


「それって……フィロイドストーン?」


「そ。俺はブローチ、ノイヴァはピアス、シャロウは髪飾りで、シラーさんはタイピンだろ? 仕事衣装を仕立てて貰って、こんな風に加工して装飾品にしてもらうんだよ」


「へー。流石最上級、見た目も大事にするんですね」


 テオは他のフィロイドの衣装を見渡した。

 全てそれなりに似合っている辺り、仕立て屋はかなり腕が立つらしい。


「楽しみだなあ」


 テオが満面の笑みで呟く。


 しかし、オルバの表情が微かに曇った。


「うむぅ……楽しみ、ねえ……」


「どうかしました?」


「……や、行けば分かると思う。頑張れよ」



・・・



「ふうん、今回は三人かい」


 仕立て屋を訪ねた三人は木製の机にそれぞれの石を置いた。


 それを回収しながら、若い女性の姿をした聖仙が無遠慮に三人を観察する。


 背が高く、長い耳は聖仙らしいが、聖なる仙にしてはやたらと三人の体を触ってくる。


 セノカの髪に触れたあたりでレムノスから怒りの魔力が放出される気配があった。


「アタシはルナーロだよ。知っての通り、フィロイドとか王様とかの仕立て屋をさせてもらってる」


 名乗り、またすぐにルナーロは三人の周囲をうろつき始める。


 ある瞬間、テオの前で突然立ち止まった。


「アンタは女?」


「男です」


「ゴリゴリの男物は似合わないねえ……女顔はデザインが面倒だよ」


「うっさいわ耳長ノッポ」


 ルナーロはそれを無視し、扉の奥の小部屋に引っ込む。

 少し経った後、メジャーのような何かを持って採寸を始めた。


「アンタは女かい?」


 セノカの身長を計りながらルナーロが尋ねた。


「女です」


「そうかい。美形揃いは良いけど、やっぱりデザインが難しい……」


 テオの身長を計り終え、何やら設計図を広げて呟き始める。


 三人はそれを黙って眺めていた。



「女顔はそのまま乙女チックにするか……いいや、ここは思い切って男物にしてみる? しかし顔とのバランスで考えればフリルを付けたいが、万一身長が伸びたら面倒だ……こっちは色気を重視するか? うん、身長も高いし良いかも……ああでも、雰囲気に合わない。こいつはゴリゴリの男物も駄目そう……じゃあこの少年は……長兄ならある程度豪華なほうがいいだろうか……しかし萌える服も着せたい……だが矢張り……うううん……こいつはしかし……」



 眼がキマッている。


 テオは怒りと困惑を混ぜたような表情のまま恐る恐る手を挙げた。


「オレたち、帰っていいですか?」



「駄目。もう少し観察させろ。……このデザインでは実用性に欠ける。……でも実用性を重視しすぎると見た目が……待てよ、確かあの素材もあった筈……じゃあどうにかなるか。よし、仮決定。じゃあこいつはこんな感じかなあ……ふむ……見えて来た。見えて来たぞ……! ふ、ふふふ……ぐふふふふ」



 ルナーロが低く笑い始める。


 そして興奮気味に羽ペンを取り何かをメモし始めた。

 物凄い勢いで白い紙の上に服装のアイデアが描き出されていく。




 三人は帰ることも出来ず、その後三時間待たされることになった。







「よっし!」紙を掴み、ルナーロはガッツポーズをして叫んだ。「出来た! アンタらはもう帰って良いよ」


 そのまま扉の向こうに消えて行った。


 長らく待たされた三人は即座に、風のように店を出て行った。



・・・




 その数日後、衣装が完成したため、また三人は呼び出された。


 睡眠不足なのか目を血走らせて狂いかけたルナーロが恍惚としながら衣装を持っていた。


 それぞれ別の個室に押し込まれ、衣装に着替えさせられたが、出て来た時にテオだけが顔を赤くしていた。


 衣装を身に着けた三人を見て、ルナーロは満足そうに笑った。



 レイは貴族の三つ子の長男らしく、美しく気品を意識した衣装を着ていた。白いラインの入った深い夜空の色のマントの下には青を基調とした貴族服、フィロイドストーンはジャボタイの装飾に使われている。



 セノカはどこか探偵のような恰好をしていた。胸下までの黒い洋袴に黒いブーツ、フィロイドストーンは紐タイにされており、その上には青い長外套を纏っている。



 テオは貴族服だが、色の系統はレイとはかなり違う。瞳と同色の二藍のベストにレースの付いた黒いシャツに洋袴、黒いブーツ。フィロイドストーンは藍色のリボンの装飾になった。





 最も不安そうだったテオは満更でもない様子だった。


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