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最上級たちの会議

 セノカ達三人は、ある建物の廊下を歩いていた。


 学院とは別の、より豪華で巨大な建物であり、学院よりも城の近くに設置されている。門は兵士によって厳重に警備されている。


 三人以外の生徒は学院内で授業を受けていた。


 しかし、何も三人が学業を怠っているわけではない。


 学院長であるシラーは今回の欠席を認めた。と言うよりも、呼び出したのはシラー本人だった。


 そして現在、シラーは三人の前で案内するように歩いている。


 セノカとレイが全く表情を変化させずただ正面を見据えている中、テオは豪華な装飾を見回して感心する素振りを見せていた。


 シラーは唯一少年らしい反応をするテオに秘かに表情を緩ませていた。


 差し込む日光が壁に反射して輝き、窓は青空と、その下の亜麻色の街を描き出している。


 廊下は四人分の足音以外無音であり、爽やかな昼を体現していた。


 シラーは廊下の先の両開きの扉を開いた。


 中には他の三人が集まっていた。


 シラーに無言で促され、三つ子は適当な席に着く。



 普段軽薄そうな笑みを浮かべているシラーは珍しく無表情、むしろ不機嫌にも見える。



 三つ子の着席を確認し、シラーは最奥の椅子に腰かけた。


 既に集まっていた他の者は、眉をひそめてセノカとテオを交互に見遣った。テオはあからさまに嫌な顔をした。


 シラーは深く息を吸った。


「今日フィロイドに集まってもらったのは他でもない」


 それなりに広い会議室に、甘い響きを持つ声が反響する。



 しかし、オルバは三つ子との会話が待ち遠しいあまりシラーの声など耳に入っておらず、ノイヴァはそんなオルバを睨みつけているため注意は完全にそちらに向いている。元教え子であるシャロウだけがシラーに視線を向けて話を聞こうとしていた。



 シラーは心が折れかけるのを自覚した。


「続けてくれ」


 セノカが言った。



「ああ……三日後、君たち三つ子には全国民に向けて挨拶を行ってもらう。祭典には我らの王は勿論、隣国の王も出席する。問題は、___全種族の使者が参加することだ」



「はえ?」


 テオは素っ頓狂な声と共にシラーの顔を凝視した。


「そりゃ、もしお前らが交渉役になった時に顔が分からなかったら色々面倒だろ」


 オルバは面倒くさそうに頬杖を付いた。


 シャロウが青い顔で胃をさすった。


 フィロイドが追加される度に祭典が開かれているなら、勿論ここに居る三つ子以外の全員が経験していることになる。



 隣国である聖仙(エルフ)領とは結界も無く盛んに交流しているので大した問題は無いが、他種族は表立っていなくても敵同士と呼んで差し支えないだろう。それが挨拶に来るのだから、特に小心者のシャロウの心労は底知れない。


 学院の編入試験首席の特別試験、三つ子と同じ十五歳でフィロイドになったオルバが全く怯えていないのは、彼の心臓に大量の毛が生えているためである。


 ノイヴァは飛び級で学院を卒業してフィロイド試験に合格した当時十七歳だったためか、シャロウほどではないが僅かに顔を顰めていた。



 逆にテオの顔はシャロウよりも真っ青に染まっている。ただでさえ青白いので、最早死人と大差ない。


 セノカとレイは矢張り動揺など無く徹底した無表情だった。殺し屋としての鋼鉄の心臓故でもあるが、そもそもその心算であり予想も出来ていたためである。



 だが今回は前回よりも深刻な問題となっていた。



 テオは知らないが、他のフィロイドは先日神鬼からの襲撃を受けている。彼らが敵対していることが確定したのだ。



 それを今この場で言えば、テオは砂と化して吹き飛んでいたことだろう。


「ですが、神鬼の参加のみを断れば正式な戦争の口実を与えかねません」


 ノイヴァは手元の書類を睨んで言った。


 シラーは頭を抱えた。


「セノカ君の指示で上への報せはしていない。だが、黙って認めるには危険性が大きすぎる」


 混乱を防ぐための指示が、事を更に複雑にしていた。


 しかしセノカの指示には確かな利点がある。


 殆どの国民にとっては理想的なこの帝国でも例外なく、上の者は皆急ぎがちだ。そんな者たちに襲撃の事実を知らせた時には、焦りで国の政治が回らなくなる。敵対を早めるかもしれない。


 レイとセノカ以外のフィロイドが苦悩して俯いた。



 そこでセノカが手を挙げた。



「ならば異空間での開催はどうだろう」


「私も考えたが、簡単に見抜かれてしまう。君の異空間の質は確かに高いが、相手は前回の敵よりも格上だぞ?」


 シラーは俯いたまま答えた。


 セノカは考える間も特に見せず、更に返した。


「実際に彼らを見た貴方がたに質問だ。その使者と貴方がたとではどちらが強い?」


 淡々とした、回答が分かっているような問いだった。


 フィロイド達は小さく首を傾げた。


「フィロイドの中で最も強いのはオルバだが……どうだった?」


「俺の方が強い。前回も本気で警戒していたようだし、間違いは無いと思うぜ」


「そうか」


 セノカは、矢張り、といった様子で頷いた。


 二人を覗いた全員の頭上に疑問符が浮かんだ。




「では、今この瞬間、貴方がたが異空間内に居ることには気づいているのか?」




 セノカは軽い声色で問うた。


 フィロイド達が目を見開いた。


「ここが異空間? 何言ってんだ、俺達がここに入ったのはお前らより前だぞ?」


 オルバは片眉を持ち上げた。


 他のフィロイドもオルバと同意見らしく、セノカに疑問の視線を向けている。


「ならば、全員椅子の横に立て」


 素直にフィロイド達は立ち上がった。


 何故なのかは分かっていないようだった。



 ____その時。



 突然、セノカは指を鳴らした。


 と同時に、空間が光を発した。


「何……⁈」


 シラーが驚愕の声を上げた。



 光が止む。



 空間の全貌が露になる。


 そこは今まで会議を開いていたのと同じ部屋だった。


 それぞれの横には、まだ引かれていない椅子が置かれている。


「我々なら欺けると思うが、意見を聞かせてほしい」


 セノカは異空間と同じ位置の席に着きながら言った。


 レイも同様、涼しい顔で椅子に腰を下ろした。


 テオを含めた他のフィロイドは壁や天井を呆然と見回していた。


「いや、確かにすげえけど今のこの場所が異空間じゃないかは分からな……あ」


 オルバは何かに気づいたようだった。


 ノイヴァもはっとしてセノカを見た。



「オルバですら判別出来ない程の異空間、か。……どうです、シラーさん?」



「ふむ」


 シラーは席に座り、手を組んで目を伏せた。



 考え始めてしばらくした後、シラーは諦めたように苦笑した。


「民衆を危険に晒すよりかは得策か。良いだろう、だが構築は君らに頼むぞ」


「了解した」


「と、言うことで解決だ。手間をかけさせたな」


 他の者がまた席に着く前に、シラーは立ち上がって言った。


 セノカ、レイ、シラー以外の表情にはまだ不安が残るが、先刻よりも緩んでいる。


 ノイヴァはそこが異空間であることを未だ疑っているらしく、警戒しながらゆっくりと扉を開けていた。


「頭堅えなあ。あいつらもフィロイドだぜ? 信用してやれよ」


「まだ十五歳の子供の魔法だ」


「俺だって昇格当時は十五歳だったけど」


「……それもそうか」


 ノイヴァは扉の向こうを観察するのを止めて部屋を出た。


 その後に続いてオルバも扉をくぐろうとするが、その直前に三つ子に振り返った。


 そして皮肉っぽい笑みを向けた。



「フィロイド最強の称号、渡すことになっちまいそうだ」



 それだけ言って、オルバは走ってノイヴァに追いついた。


 最後に部屋に残された三つ子も立ち上がり、退出の準備を始める。




 その時、オルバたちには聞こえないようにセノカが呟いた。




「……オルバには悪いが、渡してもらおう」


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