学友とのひと時
「やあセノカ!」
ロザリエは図書館帰りのセノカの席の後ろからその背中に飛び付いた。
木の幹を彷彿とさせる妙に強い体幹のおかげでセノカの体勢が崩れることは無い。しかしロザエは木に掴まる猿のようになってしまった。
「おはようございます」
「おはよう!」
「随分と上機嫌ですね」
ロザリエの表情がぱっと明るくなった。
「中等部では実戦試験など無かったからな、今回が初だったのだ! 中々楽しい試験だったぞ! そして今回の順位は六七一人中十七位! 最初にしては上位だろう! 流石は私である!」
ロザリエは誇らしげに胸を叩いて見せた。
その背後から、走って来た彼女に置いて行かれたのであろういつもの三人が歩いて来た。
大人びた雰囲気のヘラー。
表情の乏しいメルヴィ。
低姿勢なシャノン。
無事記憶は改竄されているらしい。
「勉強帰りだったのにごめんなさいね」
「ただの調べものだ」
ヘラーが頭を下げる前にセノカは淡々と告げた。
調べもの。例の消えた生徒たちについてだ。来たのは図書館の方向からだが、実際は生徒の情報を盗み見て来た。
矢張り彼らの情報はどこにも乗っておらず、彼らの寮部屋も空室となっている。元々存在しなかったかのように。そしてロザリエは先刻、「六七一人中」と言っていたが、三日前まで院内の生徒は六七五人だった。
レイにも聞いたが、何も分からないとのことだった。
今朝、テオに声をかけたが、彼もロザリエたちと同じように消えた生徒のことを忘れていた。元々消えた生徒と大した関りは無かったので不思議ではないが、学院の生徒数は六七一人だと言っていた。
誰が、何のために、あの四人を消したのか。
別にそれが自分たちの任務の妨げになるわけではない。
しかし予想外のことは無い方が良いに違いない。
レイに聞いたところ、どうやら以前にも想定外の殺害があったそうだ。クウェインとシルファの件で、シルファは正体不明の何者か____おそらくは生徒____によって殺されたのだ。
…………思い当たる人物が一名。
ある人物の後ろ姿が一瞬、脳の隅に映る。
しかしそれはあり得ないことが既に証明されている。
故に真相が全く掴めないのだが。
「セノカさん?」
「……ああ。すまない、考え事をしていた」
セノカは振り返り、寮に向かってその場を離れようとする。
その肩をロザリエが掴んだ。
「待て! 今日は休暇であろう! 調べものが済んだならば我々の用事に付き合え!」
「用事?」
「生徒は休暇だが、学院内の店は開店しておる! 今我々は店を巡ろうとしているのだ! 貴様もついて来るが良い!」
ロザリエはセノカの前に立ち、道を塞いだ。
ヘラーもにこにこと笑いながら右に移動し、退路を塞いできた。
メルヴィは左に立ち、シャノンは背後で状況の理解に苦しんでいる。
得意の「あ、ちょっと急用が」は通じないだろう。
セノカは肩を落とした。
(十五年振りか……)
・・・
「見よ! 期間限定と書いてあるぞ!」
ロザリエは喫茶店の看板を指差して叫んだ。
「もうお昼の時間ですし、入りましょうか!」
「賛成」
「私も」
「セノカは?」
「……お好きに」
背後を歩くメルヴィに退路を潰されたセノカは虚無の表情で言った。
あれから二十数分。数々の店を回り、五人は休暇を満喫していた。強制的に連れて来られたセノカは彼女らの会話に相槌を打ちつつ頭の中で今後の作戦を完成に向かわせていた。
セノカを除く四人は「期間限定! 季節のフルーツタルト!」の文字を見て目を輝かせている。
セノカの脳内は自動的にカロリー計算を済ませ、店内のシェフを監視し始めた。
万が一、毒物を盛られる可能性を考慮してのことだ。自分の身の安全は勿論だが、同伴者に皇女がいるのだからそれ以上の注意が求められる。カロリーはついでである。
ロザリエに手を引かれ、セノカと四人は店に入った。
店内は流石学院と言うべきか、外の飲食店と同等程度には清潔で空気も柔らかい。客は殆どが女子生徒で、またその殆どが甘ったるそうな菓子を食べている。
セノカは事前に店内を覗いて目を付けていた隅の空席を示した。椅子は二人分、壁に接しているソファに三人座れる。
誰が誰の隣になるか、という学生らしい会議の末、次のような配置になった。
椅子にはメルヴィとヘラーが、向かいのソファには壁の隅からシャノン、セノカ、ロザリエの順で腰かけた。
シャノンは率先して隅の席を取った。ロザリエは座り心地を考慮して他の者からソファを勧められ、万が一の時に備えて出口に近い位置を選んだ。ヘラーは一応お付きであるためロザリエの正面に、メルヴィはヘラーと特に仲が良いためその隣に座り、セノカは余った席に着いた。
セノカは取りあえず一番安いサンドイッチに決めた。
他の四人は期間限定か他の甘味か五分ほど悩み、結局全員が期間限定のタルトを頼んだ。
皇女が視界に入ったために注文の確認に来た店員の動きが途中からぎこちなくなった。普段から連れられているのか、ヘラーは慣れた様子で全員の希望した品を読み上げていた。
緊張しながら店員は厨房の中に消えて行った。
「この店に来るのも五か月振りだな!」
待ち時間、ロザリエが言った。
「その時に食べたケーキが美味しくて……今回はタルトにするけど次は絶対に食べるんだから!」
ヘラーはメニューに載っているチョコレートケーキを睨んだ。選ぶまでに最も時間がかかり、最も悶絶していたのはヘラーだ。
「ヘラー、あの後十分くらいケーキの感想を語ってた」
「熱量が凄かったですよね……」
「言わないでよお」
頬を染めて取り乱すヘラーを尻目に、メルヴィは水を少し飲んだ。
「セノカはこういうお店、来たこと無いの?」
会話を誤魔化すために、ヘラーは大げさに身を乗り出した。
テーブルの上の水が揺れる。
「無い」
「あら珍しい。忙しかったの?」
「菓子は好まん」
セノカの視線は厨房の奥に注がれていた。
皇女の食事に毒が混ぜられていないかを確認するためである。
「の割には熱心に厨房を見詰めちゃって」
「作る過程には興味があるからな」
セノカは全く揺らがない声で答える。料理自体に無関心でも作るのが好きな奴は一定数居るはずだ。
「それもそれで珍しいわね。貴族の生まれの人って滅多に料理しないから」
「レイはよく菓子を手作りしているぞ。生誕祭の度に渡してくる」
「えっ、レイって……」
「兄だ」
とは言ってみたが、元同僚なので兄妹としての実感が薄い。そのため任務用の偽装経歴くらいの認識で捉えている。
「良いわねー。私もお兄様が欲しかったわ」
「そんなに良いものでもない」
言ったのはメルヴィだった。彼女もフィロイドストーンの兄を持っている。
先日他のフィロイドに会ったが、誰が兄なのかは魔力と見た目で大体分かった。
「比較されるし、デリカシーが無くて苛々する。帰る度にこっちの恋愛事情と友人関係と学習状況をしつこく聞いて来る。せめてお姉さまが良かった。兄なんて碌な生き物じゃない」
関係の無いレイに余計なダメージが入った。
「哀れレイさん」
「強く生きろ」
ロザリエとヘラーはここには居ない、外見も分からないレイに同情の目を向けた。
(一度死んだがな)
不謹慎なことを考え、セノカは少量の水を飲んだ。
と、その時。
「……居たのか」
「あ、偶然」
「げっ……姉上」
聞きなじみのある声と共に、店の扉が開く音がした。
五人が一斉にその方向を見る。
七人組が入店してきている。その中に三人、特に目立つ人物が居た。
襟足が長く伸びた、青髪の混じった金髪に長身。瞳の色は浅瀬の碧。セノカよりも更に長身で、顔は不愛想に見えて雰囲気は穏やかだ。
もう一人は、襟足の右の一房だけが伸びた、金髪の混じった青髪を一本の細い三つ編みにした美少女。伸ばされていない髪はハーフアップにされ、白いリボンが飾られている。瞳は薄い紫水晶だった。今いる中では一番小柄だろう。こちらに向けて元気に手を振っている。
そして、金髪で背が低い美少年。ロザリエと顔がよく似ている。
レイとテオとアイレン、そしてその友人集団。
つい先ほど隣とそのまた隣のテーブルが空いた。七人は座ることが出来る。
レイ、ティニー、ラゼメア、アトロは手前に。
テオ、アイレン、ケディは奥のテーブルを選んだ。
「何がいい?」
ティニーが他の三人に尋ねた。
「私はこのチョコケーキ」ラゼメアはメニューを指差した。
「俺、このガトーショコラで」アトロは勢いよく手を挙げた。
「レイは?」
「……期間限定のフルーツタルト。あとチョコレートケーキ」
それを聞いて三人はレイを二度見した。
レイは目を逸らして肩を縮めた。
「甘党?」
「……ああ」
左目を隠す前髪の所為で表情は分からない。そもそも表情はないかもしれない。
長身で無表情な青年が大の甘党。
(何だろう、何かこみあげて来る)
アトロは虚無を見た。
その一方で、アイレン陣営。
「それでは私は、フルーツタルトを頂こうかな」
「僕、苺のケーキ」
「それじゃあわたしは……うん……紅茶」
「待たんかい」
アイレンとケディは同時に言った。
「お前……折角この私が喫茶店へ連れて来たというのに、紅茶一杯しか頼まぬとは何の心算だ?」
「そうだよ! 楽しみにしてたじゃないか。アイレン様だってこう仰ってるんだし」
ケディはテオに宥めるように言った。
少し前まではアイレンに対して地面に着きそうなほど低姿勢だったのが、今は親し気に接している。環境順応能力は高いらしい。
テオは気まずそうに微笑んだ。
「ここの紅茶美味しそうですし、タルトとかケーキはお腹に入らないので……」
「十五歳なんだからもっと食べなさい。私も可愛い部下が栄養失調で倒れてしまっては困る」
「や、遠慮とかではなく……」
気を遣ってくるケディと、疑うアイレンに困り果て、テオはセノカに顔で助けを求めた。
小食も大変である。
「アイレン様、ただの小食ですのでお気になさらぬよう」
「……兄弟であるお前が言うならそうなのだろう」
アイレンはそれ以上窘めなくなった。ケディはまだ心配そうにちらちらとテオの細腕に目を向けている。
何故かテオは前世から食が酷く細い。カップ麺一杯が限界なのだそうだ。
しかし流石に何も食べないままでは死ぬので、前世での食事は基本的に栄養バランス食品で摂っていた。当然この異世界にそんなものは無いため、今はセノカが作った代用品を使用している。
そんな有様だが、何日も食事を抜いていると腹は減るらしい。
テオはセノカに笑顔で感謝を伝えた。
だが、何やらロザリエ陣営の様子がおかしい。
セノカとテオを交互に見ては目を細め、囁き合っている。
「何か?」
「いいや……」
全員が慌ててセノカと目を合わせないように後ろを向いた。
______ロメリオスト家の三つ子は有名だ。双子でも珍しいのに、三つ子など天然記念物と同じような扱いを受けている。故に、これも有名な話だ。
ロメリオストの三つ子は、男二人に女一人。
今までロザリエたち四人はセノカが長女だと思っていた。
そこに、髪色と瞳の色を見るにセノカの兄弟らしき二人が来てしまった。
レイは女顔だが、長身と低い声と何となくの雰囲気ですぐに男であると分かる。
問題はテオだ。
何度目を擦っても美少女にしか見えない儚げな顔立ちに、化粧をしていなければ到底手に入れることは叶わないであろう大きな瞳。艶のある髪と髪型。同年代の少女にしても小柄な体格。
事前情報さえ無ければ、セノカが女であると分かる者も多かっただろう。
これは性別は出回っているのに、名前は不思議と知られていないために起きた勘違い。
四人はこのように思っていた。
(セノカは男だったか……)
訓練と作戦立案の会議のために寮を空けることが多いことも原因だった。
ちなみに名前が出回っていないのは、元殺し屋としての警戒心故に国中にかけた魔法のためである。
他に原因を挙げるとすれば、一七〇センチは超えていそうな長身と長い脚に反して、女性なら付いているであろう一対の「アレ」が、絶壁だったから、だろうか。
・・・
「美味しかったな!」
「ええ! あの時のケーキと並ぶくらい良かったです」
「もう一度行きたい」
「ですね」
四人は僅かに片言になったやり取りを交わしていた。
その後ろでセノカは今回払った金額の計算を終え、財布の中身を確認していた。
店を出てから約五分。衝撃の事実(勘違い)が発覚し、四人はセノカと距離を置いていた。
男子とつるむのに抵抗があるわけではない。単純な動揺が理由である。
「次は図書室でも巡るか!」
「良いですね」
ロザリエとヘラーは視界に入った東の巨大な建造物を指し示した。
学院の図書館。蔵書は百万を超えていて、恋愛小説から参考書まで様々だ。
司書が厳しいため騒がしい男子生徒諸君は好まないが、蔵書が豊富なだけあって女子生徒はよく立ち寄っている。テオの好きな場所でもある。
セノカは図書館の中に片目の視覚を転移させる。喫茶店と同じ、刺客が潜んでいる可能性を考慮したためだ。
監視する限りではそれらしい人物は居ない。司書が男子生徒に鉄槌を下しているのみである。
その時、後ろに回り込んでいたロザリエがセノカの背を押した。
「行くぞセノカ! 勘違いをしてしまって申し訳ない! それだけ貴様が麗しいのだ!」
さらっと口説き文句にも思われそうな台詞を吐き、ロザリエは更に腕に力を込めた。表情から察するに無意識からなのか。
まだ動きの堅い三人を連れて、五人は図書館へと向かった。
・・・
図書館は広く、視界の殆どが本棚に囲まれていた。
教会を思わせる装飾に下に並ぶ書物の数々は神秘的でもあり、天井にまで及ぶ本棚は非現実的にも見える。
書物以外の全てが真っ白に輝き、照明は日光だけで事足りる。夜でも月明かりが明るく照らしてくれるに違いない。
司書の鋭い視線を浴びながら、皇女とその友人たちは本を漁っていた。
ロザリエは新作の冒険譚を、ヘラーとシャノンは恋愛小説を、メルヴィとセノカは神話の書物を探していた。
幸運にも梯子を使わなくても良い場所に置かれていた。
「神話好きなの?」
メルヴィはセノカの耳近くに顔を寄せて囁いた。兄の影響か、セノカを男だと思っていてもそういった意識は無いようだ。
「まあな」
セノカは手に取った書物を捲りながら言った。
実際のところ、書物を読んで何かを感じたことは今まで一度も無い。読む目的と言えばより高い言語能力と知識の習得くらいだ。
神話に手を伸ばしたのは、これからの任務に必要な情報を収集するためである。種族の事情は神話を読んでいれば大体分かる上に、大まかな力関係も読み取れる。どの魔王から攻略していくかの重要な判断材料になり得る。
真剣に考えているが、神話を取る姿は他から見ればただのロマンチストだろう。
「君も神話を好むようには見えないが」
魔法で音を消し、セノカは自分の声が相手にのみ届くように調節した。
メルヴィは司書がこちらに注意を向けていないことを視認し、もう一度セノカの耳元に顔を寄せた。
「やたらキラキラした青春小説よりもこっちのほうが好き」
「ほう、それは初めて聞いたぞ!」
ロザリエが一応小声で近寄って来た。
メルヴィは慌てて司書を振り返る。
普段の調子だが小声なので、睨まれてはいなかった。
メルヴィもかなり小声で話していた筈なのだが、どうやらロザリエは聴覚に優れるらしい。セノカは昔の自分を思い出した。
「ロザリエ様は違うのですか?」
「私は迫力と情熱に満ちた物語が好きなのだ!」
「成程」
まさにロザリエ、である。
逆にアイレンは自伝や怪奇小説を好んでいそうだ。
ロザリエの腕には、既に数冊の書物が抱かれている。
「新作ですよね」
「その通り! かの有名なエドマー殿の著作である!」
メルヴィが司書を気にする中、ロザリエはまた小声で叫んで持っている書物を見せようと押し出した。
表紙には冒険譚で有名な作家の名前が載っていた。
ロザリエは誇らしげに胸を張り、司書の元へと歩いて行った。
「これらを頼む!」
「はいよ。お静かにね」
皇女相手に物怖じしない態度。相当のベテランだ。
続いてヘラーとシャノンがロザリエの後ろに並んだ。二人とも恋愛小説を抱えている。
司書は示された書物の一冊一冊に魔道具の判子を翳す。表紙の上に浮かんだ魔法陣は溶けるように消えた。
簡単な契約魔法と付与魔法の一種である。
契約魔法は根源魔法の一つであり、使用者と相手、双方の同意の上に成立する。召喚魔法も契約魔法に含まれる。
今回使用された契約魔法は、「書物を傷つけないことを約束する代わりに一定期間の貸し出しを認める」内容、付与魔法は「期間を過ぎた場合は強制的に書物が図書館に返される」内容だ。
契約魔法を極めれば、他者の生命すら管理することが可能になる。司書は長年この職に就いているようなので、人を支配下に置く程度の契約魔法は使えるだろう。
(負けることはないだろうが、戦うのは御免だ)
契約魔法の強さは魔法の精度と魔力の大きさと強い相関関係がある。フィロイドとまでは及ばずとも、その下のビルミナティアくらいには届く実力に違いない。
国内最高峰の学院だけあって、職員も手練れが多い。
「私たちも借りに行こう」
メルヴィが歩き出した。
セノカもその後に続いた。
・・・
「次はどこに行く?」
図書館を出て借りた書物をわきに抱え、五人はベンチに腰かけていた。
もう夕暮れだ。学び舎の背後から、鮮やかな朱色の光が瞳を刺してくる。
喫茶店で茶菓子を頼んで、少しの買い物をして、図書館で本を借りて、ベンチで雑談を交わす。
十五歳の少女が過ごす普通の一日が過ぎていく。
ヘラーが寂しく笑った。
「もうこんな時間です。寮に戻りましょう」
「それもそうか」
最も楽しそうに院内を回っていたロザリエは思いのほか素直に頷いた。
シャノンは借りた本の表紙を眺めて俯いた。メルヴィは紅色に住まっていく空を見上げていた。
セノカは書物に目を通している。
ロザリエがベンチから勢いをつけ、ヘラーと同時に立ち上がった。
「帰るぞ貴様ら!」
その言葉に応え、シャノンとメルヴィがゆっくりとベンチを離れる。
セノカは四人とは全く別の方角を向いた。
「私は少し、急用を思い出したので」
「この時間からの用事ともなれば帰りは遅くなるだろう! 気を付けよ!」
「ありがとうございます」
ロザリエに軽く頭を下げ、セノカはいつも通りの早足で目的地に歩き始めた。
どこか生徒の居ない場所で異空間に転移しなくてはならない。これから鍛錬と会議だ。レイには先刻報せを出したので、もう到着している頃だ。
学友と過ごす日々が尊いとか、そんな感性は生憎持ち合わせていない。
友人たちの足音が遠ざかる。
今日の出来事が、全て過去に変わる。
夕日がゆっくりと沈み、空は二藍に染まっていく_____。




