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最上級の魔導士たち、前編

「ところでよお、悪魔ってどうやって倒せばいいんだ?」


 フィロイドストーンの一人、快活そうな男が首を傾げた。

 後ろに浮く三人が呆れたように男を睨んだ。


 セノカが前に出た。


「即死の致命傷を何度か与えればいい。弱点は脆仙と同じだ」


「おし分かった! ……お前ら新しいフィロイド? 何で知ってんだよ」


「気にしている場合か?」


 また男が何かを言おうとした。


 それを遮るように、復活した悪魔が攻撃を放つ。


 セノカは飛ばされてきた赤い魔力の剣を刀で払い落とした。


「とりまお前らは帰ってな。子供の出る幕じゃねえ」



 男の右手に夕焼け色の光が走った。

 魔法で生み出された鞭がその手の中に落ちた。



「態々ご来院頂いて申し訳ないが貴方がたには結界の強化と、小物の殲滅を頼めるか?」


 男は片眉を持ち上げた。


「小物?」


 そして何かの音を聞き、下を見た。


 セノカとレイ以外の全員が目を見開いた。



「おいおい嘘だろ?」



 男は苦笑した。



 幾つもの魔法陣が、山を覆うように出現している。そこから大量の神鬼が放出されていた。



 全ての神鬼は山の麓、つまり学院と町に向かっている。数は目測で二百を超えている。


 女性が青ざめた。


「ここからでは間に合いません!」


 シラーと、生真面目そうな青年が飛び出そうとした。


「焦らなくても」セノカの涼しげな声が二人を制止した。「既に異空間の中、町と学院は偽物だ。悪魔共の逃走経路は絶ってあるので、冷静に対処しろ」


「りょーかいよ。久々の大仕事だ」


「可愛い生徒二人を放っておくのも気が引けるが……まあその方が効率的か」


「悪魔退治なんて初めてです……。でも私だってフィロイドですものね」


「仕事中に引っ張り出された時はどうしてやろうかと思ったが、今回は見逃してやる」


 青年は眼鏡の奥から快活そうな男に視線を向けた。


「じゃあ酒飲みにいこーぜ。勿論俺の奢り」


 男は青年の肩に腕を回した。


「くっつくな」青年は無表情で腕を掴み上げた。


「無駄話はそれくらいにしてくれ」


 セノカは神鬼からの攻撃を防ぎながら低い声で言った。


 男は手を離した。


 フィロイド達が地上に向かって飛び降りる。

 男だけがその場に残った。


「どうした?」



「お前ら何者?」



 意味深な笑みを浮かべ、セノカとレイに問う。


 二人は振り返らなかった。



「何を名乗れば納得する?」



「……ははっ、そうかよ」


 男は乾いた笑いを残し、地上へと降下した。


 セノカとレイはそれに見向きもしなかった。


 既に地上は神鬼で溢れかえり、そこに居ない民衆を探し回っている。


 男は地上に降りようとしている仲間を呼び止める。


「悪魔相手に一人は危ねえ。二人組で殲滅すんぞ」


 三人は間髪入れずに頷いた。


 その手には各々の武器が握られ、もう片手には魔法陣が浮かんでいる。もう既に戦闘準備は万全だ。

 それを確認し、男はシラーと女性を指差した。


「シラーさんとシャロウは西を、俺とノイヴァは東を潰す。さっきあの二人が言ったように、悪魔の弱点は俺らと同じだ。上空の二体よりも強い魔力は無い。だが油断はするなよ」


「はい!」シャロウ、と呼ばれた女性が声を強めた。


「承知したよ」シラーは手に持った剣を回しながら言った。


「またお前と共同か」ノイヴァと言う名の眼鏡の青年はサーベルを構えた。「足を引っ張るなよ、オルバ」


 男は鞭を握り、笑った。


「はいよ!」


 四人は二組に分かれ、その場から姿を消した。


 同時に、地上でも戦闘音が鳴り響いた。



 シャロウの得物は巨大なウォーハンマーだった。元は非力な腕に身体強化の魔法を施し、地面にめり込む重さのそれを軽々と持ち上げる。


「ふんっ!」


 シャロウが武器を振るう。細腕からは想像もできないような腕力で槌が回転し、敵の頭を豆腐のように打ち砕いていく。


 神鬼たちは距離を置こうとするが、シャロウは身体強化によって増強された脚力で一気に間合いに入り込み、心臓か頭を削り飛ばす。



 地面に向けて振り下ろすと、地震が起こった。



 地上に足を付けていた神鬼が体勢を崩す。その隙にシャロウは片手の魔法陣から熱線を浴びせた。


紅炎砲(ファイアキャノン)


 神鬼の頭が、膝から下を残して体ごと消し飛んだ。


 シャロウは安心したように息を吐いた。背後から迫る神鬼には気づかずに。


「未だ居るぞ」


 シラーが言った。



 シャロウが振り向く前に、細い刃が全身を細切れにする。



 肉塊がぼたぼたと地面に落ち、血だまりが広がった。


 シラーは剣を振り、付着した血液を払い落とす。シャロウは少しの間停止した後、慌てて後ろに下がった。


「学生時代から、その油断癖は治らんな」


「すみません……」シャロウが頭を下げる。


 シラーは背後から奇襲を仕掛けようとした神鬼に魔法を放った。


 頭に小さな穴が空き、神鬼が仰向けに倒れる。


 続けて襲い掛かって来る神鬼を視認し、シャロウが飛び出す。巨大な得物は振り上げられている。


 地面に蜘蛛の巣状のひびを走らせ、神鬼の肩から上が粉砕した。返り血にシャロウは顔をしかめる。


 シラーはその場を離れ、更に神鬼の密度が高い地点に到達した。


 静かだが大きな魔力に、三十を軽く超える数の神鬼が反応し、即座に魔法を発動させる。数々の光線が一人の青年に殺到する。



 シラーが指先を縦に振り下ろす。



 すると虚空に黒い穴が生まれ、魔法が吸収されていく。



天与魔術(ホーリーギフト)・強欲の黒銀鏡〉



 そしてその穴から、神鬼たちが放ったはずの魔法攻撃が一斉に放出された。


 突然の出来事に対応出来た者とそうでない者が分かれ、そうでない者たちは呆気なく攻撃を全身に浴びた。



 発動型の天与魔術。大抵のものは常時型であり制御は難しいが、発動型は魔法戦闘において非常に有利にことを進められる。ただ、稀に制御困難な発動型も存在し、それによって起こった致死事件は少数ながら後を絶たない。



 攻撃を浴びた個体が復活し、次は爪と剣を武器に飛び掛かった。


 剣による突き技を天与魔術で跳ね返し、爪による斬撃を防御結界で弾く。腕を弾き飛ばされ隙が出来た敵の喉を剣で切り裂く。


「さあさあどうした神の邪鬼ども、脆き我らに劣っているぞ!」


 シラーが走り出す。

 白銀の刃を輝かせながら。



 ____そこから少し離れた場所で、シャロウは槌の柄で攻撃を抑えていた。



「シラーさん楽しそうね……私は危機だけど!」



「すぐに諦めた方が楽だぞ脆仙!」


 神鬼は嗜虐的な笑みを浮かべ、武器で押さえつけられている爪を更に押し込んだ。


 シャロウが力に耐え切れず後ずさる。


「脆仙の『おんな』とやらは弱いと聞くが、貴様の魔力は一級品だ! 諦めて死ね! 我が糧としてやろう!」


 神鬼が叫ぶ。


 シャロウの目が細められた。


「お断りよ」


 その片手に魔法陣が浮かんだ。


虚の咆哮(インパクト)


 魔法陣から衝撃波が発せられ、神鬼の体が後ろに吹き飛ぶ。しかしすぐに姿勢を直し、シャロウに飛び掛かった。


 シャロウは冷静な表情を崩さずに唱えた。


〈天与魔術・敵意障壁〉


 空中で、神鬼の動きが止まった。


「ぬっ……⁈」


 どうにか動こうと藻掻くが、目線すら動かすことが出来ない。



 敵意に反応して相手を停止させる魔術。使用者であるシャロウが敵を認識した上で、一定以上接近することが発動条件だ。



 シャロウは槌でその胴体を打った。


 神鬼が地面と平行に吹き飛ぶ。そして何棟か家の壁を破壊した。


 他の神鬼は警戒したのか、近寄ってこなくなった。


 シャロウはシラーの元へ走った。


 目的の人物は相変わらず楽しそうに笑い、剣を振って魔法を放ち続けている。


「シラーさん!」


 シャロウの呼び声に反応し、シラーは繰り出された攻撃を結界で防ぎながら振り返った。


「どうした?」


「『どうした?』じゃないですよ! さっきオルバさんから二人一組になれと言われたでしょう! なんで一人で突っ走っちゃうんですか、危なかったんですからね!」


 結界に攻撃がぶつかり何度も激しい衝撃音が鳴る。


 シラーはわざとらしく苦笑した。


「すまんすまん。元教え子を信頼してのことだ。それよりも目の前の敵を滅することを考えろ」


「誤魔化されませんよ、全く……当たらないで、当てないで下さいね」


「勿論さ」


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