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実戦試験、開始

「さてレイ君、これは何かな?」


 目の笑っていない笑顔でシラーは唱えるように言った。


 そこは学院長室……ではなく、そこに繋いだ異空間の中だった。


 シラーの眼前では巨大な鳥が地面に伏している。

 まだ死んでからあまり経っていないらしく、腐敗臭は無い。


「友人が狩って来たのですが、俺たちでは消費しきれないので学院で使って頂きたい」


 レイが淡々と語り、シラーは肩をすくめた。


「無茶な頼みだね……まあでも、毒とかは無さそうだし腐ってもないから良いよ」


「ありがとうございます」


 二人は異空間を出た。


 ちなみに、異空間に収納していれば大抵のものは腐らない。ハルクが鳥類を狩ってから約二ヶ月経過しているが、今まで異空間で保管していたため肉は新鮮なままだ。


 学院長室に戻るなり、レイはドアノブを握った。


「俺はこれで」


「待ち給え」シラーは早々に出て行こうとするレイの肩を掴んだ。


「何ですか」


「君、七日後の実戦試験は分かるね?」


「はい」


 シラーが意味深な笑みを浮かべた。


「もしかして、目立たないようにそこそこの成績取ろうとしてるよね?」


「だから何だと言うのです」


「駄目だよ? 私はね、魔法戦闘をするのも見るのも好きなんだ。別に全力でやれとは言わないけど楽しめるくらいにはしてくれ。最近は学院長としての仕事が忙しくて観戦が中々出来ないんだ」


「それで俺たちには何の得が?」


 レイは未だドアノブを掴んで捻ろうとしている。


 何とか扉を魔法で封鎖し、逃亡を防ぐ。


「君たちが望んだ程度の成績にするから! 目立っても記憶の改竄くらい出来るだろ?」


「ならば貴方の記憶も良い具合に改竄しますよ。俺たちがそこそこの戦闘をしても楽しめるように」


「それじゃ面白くない。…………ふむ、そうだな。クロット殿の菓子を奢ってやると言ったら」


「やります」


「早いね」




・・・




 三つ子は異空間に潜った。



 そこではレイがセノカに土下座をしていた。



「菓子に釣られるなど…………転生して精神年齢までゼロからやり直したのか貴様は。お前の享年は果たして幾つだっかな」


「非常に申し訳なく思っている」


「まあまあ姉さん、兄さんだって忙しくて一年近くちゃんとしたお菓子食べられてなかったんだから」


 押し潰されそうな圧を放つセノカにテオが遠慮がちに言った。


 しかしセノカは止まらない。


「糖分など朝の果実で事足りるだろうが。全く、面倒ごとを増やすなとあれほど…………」


「…………返す言葉も無い」


 レイは土下座したまま呟いた。


 その後ろでは、従者であるハルクが鋼鉄の無表情の下でおろおろと戸惑っている。

 ディウルカは、この人も怒らせちゃ駄目だ、と考えていた。


「私から学院長に交渉する。取り消しは無理だが、幾つか条件を付けさせてもらおう」




・・・




「我が学院は、何人もの優秀な騎士と魔導士を育て上げて来た! そして実力を試し、高めるために、四半期ごとの実戦試験を実施する! この試験は君たちの培った知力、戦闘力、判断力の全てが必要となる。心して臨むように!」


「はい!」


 学院の大広間に、少年少女の強張った声が響き渡った。


 その全員の手首に、青い装飾の付いた銀色の輪が潜らされている。


 教師の話が終わり、騒がしさが戻った。


「なんだかすごいね、残機を付与する腕輪だって」


「ニ度死んでも別の場所に転送されるんだと」


「三回死んだら終了で帰らされるのか。すごいな今の魔法技術」


「…………そうだな」


 レイはほとんど上の空だった。


 セノカは無事、学院長に条件を提示して受け入れられたらしい。後から知らされたその条件は三人が目立たないためには充分なものだった。


 しかし、報告した時のセノカの視線が記憶に深々と突き刺さっている。


 あの何も思っていないようで軽蔑と冷たい苛立ちを感じさせる眼差し。本人がそれを抱いていたかはさておき、レイはここ数日間それが夢の節々に現れた。


 それを話した時、テオは同情するように苦笑していた。


(…………後でセノカに詫びの品でも持って行こう…………いや待て、そもそもセノカは何が好きだっただろうか?)


 レイは友人の会話に適当な相槌を挟み、記憶を辿る。




 あれは確か、D-1082が十八歳になる誕生日の前日。


『誕生日の贈り物?』


『ああ、なにか欲しいものは無いか』


『……殺虫剤が切れかかっていたな。新しいものを頼む』


『他には』


『無い』




(………………)


 密かに天を仰いだ。


 黒髪に紅瞳の同僚と、同じ歳の妹が交互に浮かび上がった。


(……詰み、か)


「では間も無く開始します」


 レイの後悔と絶望など露知らず、教師の言葉が生徒の緊張を引き締めた。


〈転移〉


 壇上の女性教師が静かに唱え、魔法陣を発生させる。


 次の瞬間、広間から教師を除いた全ての人影が消え失せた。




・・・



 実戦試験とは、帝国立第一学院で六十年前から続いている伝統的な試験だ。


 学院が所有している院の裏の森林に生徒を散らせ、二日間別の生徒から身を守らせる。


 参加する生徒全員は残機を付与し痛覚を遮断する腕輪を付け、その魔法具によって一、二度死ねば参加者の少ない場所に転送され、三回目の死で試験終了となり簡素な異空間を通って寮に帰される。昔は残機の全滅後、学院の広間に帰されたらしいが、その後低順位者または高順位者が嫌がらせの数々を訴えたため順位の特定を防ぐためにこのような変更が為された。


 試験中の配信なども行なっていたが、勿論撤廃された。現在、学院長のみが試験の監視を認められている。そもそも試験会場には学院長以外の魔力を遮断し無効化する結界が張られているため干渉は不可能だ。 


 参加者には事前に依頼した武器が配られる。武器は一人につき二つまで所有可能だが、三つ以上の保有は禁じられている。


 しかし経験の少ない生徒たちの殆どが剣を選ぶ。

 今回も半数以上が当てはまった。



・・・




 湖の辺りに転移したシャノンは、自身の武器である剣を固く握りしめた。


 不運にも開けた場所に転移してしまい、慌てて木の上に避難したのだった。


 開始から約一分、既に遠くから戦闘音が聞こえて来る。


 シャノンは息を殺して葉の隙間から外を見回した。


(よく分からずに剣を選んでしまったけれど、結構軽いわね……)


 手に持った剣は音を立てないように鞘から出されている。


 これですぐに斬りかかれる。


 シャノンは枝に座りながら耳を澄ませた。


 突然、一人分の走る足音が近づいた。


 体を強張らせ、監視魔法でその人物を確認する。



 男子生徒が一人。



 自分と同じ剣を構えて湖に向かっている。あと十秒もすればシャノンの下を通り過ぎるだろう。


 改めて剣を持ち、その時を待つ。

 足音がはっきりして来た。



 ________今だ!



 シャノンは木の上から飛び降り、男子生徒の背中に剣を振った。


「おわっ⁈」


 甲高い叫びを残して、男子生徒が倒れる。


 持っていた剣とともに、その体が霧となって消えた。


 どこか遠くに転移したのだ。


 シャノンはほっと一息吐いた。




 そしてその体に大穴が空いた。




「……え……?」


 シャノンの体が霧散する。


 狙撃手は数十メートル離れた場所に居た。


 標的の姿が消えたことを確認し、狙撃手は草むらから立ち上がる。



 メルヴィだった。



「まずは一人」


 手の先に魔法陣を浮かび上がらせたまま呟く。


 そこに、もう一人の敵が現れた。


 敵は剣で勢いよくメルヴィに襲い掛かる。

 メルヴィは咄嗟に防御魔法を発動した。


 魔法陣と剣が衝突し、硬い音が響く。


「……へラー」


「魔力が駄々漏れよ」


 メルヴィの隙を突き、へラーはメルヴィの心臓を狙う。


疾風(マジックウィンド)


 メルヴィは風魔法で自身の体を吹き飛ばし、攻撃を回避した。


「器用ね、流石メルヴィ」


「貴女も充分脅威」


 加速して追って来たへラーに、メルヴィは炎を放つ。


炎波(フレア)


流水砲(ウォーターキャノン)


 炎が水を蒸発させ、水は炎を掻き消した。


白幻霧(ファントムシャドウ)


 間髪入れず、メリヴィの魔法が発動した。


 白い濃霧がへラーの視界を遮り、平衡感覚を微かに狂わす。


「嘘っ⁈」


 メルヴィは剣を構え、姿勢を崩したへラーの胸に刃を通す。


 決着だ。


「残機一つ、こんな序盤に減っちゃったわね」


 へラーが消えた。


 メルヴィは力が抜けたようにその場に座り込んだ。


 敵の影は見えない。警戒しながら、しばらくはここに留まっていても問題無いだろう。


 メルヴィは魔力を抑え、魔法で姿を消した。


(数分でこれなら、もっと激しくなりそう)



・・・



「うううう……何で個人戦なんだよお、ロメリオストさん、殿下あ、どこに居るの……」


 森の中で、ケディは膝を抱えて涙目になっていた。


 敵には遭遇していないが、かなり近くで戦う音がする。ケディは出来うる限り魔力を隠して縮こまっていた。


 その時。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「どあああああっ!!」


 風圧に吹き飛ばされ、前に何度か回転する。


 歪む視界で、先程まで座っていた場所を目視した。


「ひえっ…………」


 そこには半径二メートルほどの窪みが出来ていた。

 ケディは腰を抜かし、空を見上げる。



 遠い故に豆粒大に見える人型の影が浮かんでいた。



「はっはっはっはっは!!」


 高く、よく響く笑い声が降る。


 青い外套がはためいた。


 金髪の縦ロール。気の強い眼差し。堂々とした立ち居振る舞い。

 身長と同じ大きさの魔法陣から大量の光線を地上に放つ人物。


 それは紛れもなく。



「ふははは! 見よ! この私、ロザリエ・ミリージオ・ファル・クラニスタの美しく気高き業を!」



光皇魔弾(インペリアルバレット)〉!


 その意思を表すような黄金の魔法陣から、何本もの純金の光線が降り注いだ。


 青い空から、美しい大量の熱線が落ちる。


 その雨は地上の参加者の数十人を貫いた。


 地面には幾つもの窪みが生まれ、草木に円形の穴が空く。


 ロザリエは豪快に笑う。


 王女の魔法が五十七人を焼いた時。



 地上から、一つの影が飛び上がった。



〈身体強化〉


 それは放物線を描き、上空のロザリエに向かう。


「む…………!」


 突然の剣撃を、一歩寸前で回避する。


 平均よりもやや小柄な体格。知性を湛えた吊り目。まっすぐな金髪。


 ロザリエとその襲撃者は、よく似た顔に不適な笑みを浮かべた。


「貴様は来ると思っていたぞ!」


「見苦しくてつい」



 襲撃者______アイレン・ミリゼーレ・ファル・クラニスタは魔法陣の上に降り立った。



 ロザリエは、自身の身長を超える一振りの大剣を構える。


 アイレンは片手の上に魔力を溜める。


 二つの魔力がぶつかり合い、火花を散らした。






「では」

「参る!」




技解説その2

〈蒼霊流星〉

使用者:レイ

根源魔法(無属性の魔法)と天与魔術の組み合わせ技。凡ゆる防御を完全突破し、対象を追跡する。解除は基本的にレイの意思なしでは不可能。ただし対象物以外にダメージは無い。

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