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勿論少年も抱く

タイトルの読みは「少年も『いだ』く」です。

「ふー」


 授業が終わり、テオは姿勢を崩して息を吐いた。


 教師は既に部屋を出て行き、生徒達は授業前の騒がしさを取り戻している。


 テオは異空間から本を一冊取り出した。

 そして読んだ。


 前世では雅菊に友人を紹介されてきたため、自身で友人を作った経験は無い。

 なので休憩として読書に集中していた。


 女子達の世間話はいつまで経っても収まる気配は無い。


 男子、平民は下らない愚痴と友人の失敗談に花を咲かせ、貴族は真面目に次の準備をしている。


「……、さん」


 教室内は騒がしさを増していく。

 テオはそれから逃げるように書物に顔を近付ける。


「……、ォストさん」


 何度も見た書物だが、懲りずに読み続けるのはそれ程面白かったからだろうか。



「_____ロメリオストさん!」



「はいっ⁈」


「肩に蝶が止まってる。隙間から入って来ちゃったかな」


 男子生徒が、テオの小さな肩を指差した。


 そこには一羽の蝶が、花びらのような羽を動かして止まっていた。


 一つ後ろの席の隣にある教室の窓が開いている。


「あ、本当ですね」


 テオは肩に止まった蝶を視界の端に入れた。

 ひらひらと愛らしい羽が緩く羽ばたいている。


 テオはくすっ、と笑った。


(…………可愛い)


 男子生徒は思った。


 小柄な体格に可憐な容姿は、自分と同い年であることを疑わせる。


 そこに蝶が加わると本当に良く映える。


(にしてもこの()、人形じゃなかったんだ)


 男子生徒がまじまじと見詰めてくる中、テオは窓に移動して蝶を指の上に乗せる。


 蝶は未だ離れない。


 窓から一筋の風が吹き込んだ。


 細長い三つ編みと後ろの白いリボンが揺れ、蝶が心地良さそうに窓から外へと解き放たれる。


 男子生徒は感嘆の溜息を漏らした。


 テオが席に戻り、隣席の男子生徒の手元を見て瞼をやや大きく開いた。


「次は別の教室でしたね」


「あ、ああ、うん」


「危うく慌てて準備するところでした」


「そっか、良かった」


 男子生徒は照れ隠しに笑って見せる。

 テオはそんな彼の顔を覗いた。


「お名前を伺っても?」


 突然大きな藤色の宝石に見上げられ、男子生徒の顔が焼きだこのように赤く染まる。


 視界が桃色と赤と爽やかな黄に変色した。


 男子生徒は殆ど回らない口調で言った。


「ケッケケッケッケッケ、ケディ・イフエッ、イフェレーネッ・ラーへル! 十五歳! 彼女なし! 趣味は描画です!」


「ちょっ……落ち着いて下さい! 何で彼女⁈」


 ケディは動悸を抑えようと自分の胸を必死に掴むが、心臓は激しく脈打つばかり。

 呼吸は荒く、死にかけの人のそれに近い状態になっている。


 そこに、二つの足音が響いて来た。


「何だお前たちは。叫び声が教室中に響き渡っているぞ」


 立っていたのは、真っ直ぐな金髪の少年だった。


 自身に満ちた立ち姿、意思のある瞳、良く通る声。


 いつかセノカに見せられた顔。


「あ……!」


「おや、お前は確か、ロメリオスト伯爵の三つ子の一人だったか」


 少年はボウ・アンド・スクレープの姿勢を取った。


 ケディも少年の正体が分かったようで、赤かった顔は元に戻っている。


 少年は二人に告げた。



「私はアイレン。クラニスタ帝国の王子だ」



「こっ、これはこれは王子殿下」ケディは愛想笑いを浮かべて頭を低くする。「失礼しました、突然大声を…………」


「別に私の機嫌が損なった訳ではない。今後は気をつけよ」


「申し訳ございません……」


 ペコペコと頭を下げるケディには小物臭が漂っている。


 アイレンは気にせずに二人を交互に見た。


「お前たち、未だ派閥には入っていないようだな」


「派閥?」


「派閥とは……」


 以下略。


「そういう訳だ。と、いうことでお前たち、私の派閥に入らないか?」


「どういうことですか?」


「面白そうだと思ったのでな」


 アイレンは二人を興味深げに観察した。


 その後ろに立つ少年は通りかかる生徒全員にうるさい声で挨拶している。王子のことは気になっていないらしい。


 王子の視線を受け、テオは悩んだように固まっていた。



『入っておけ』



 頭の中にセノカの言葉が届いた。


「…………分かりました」テオは頭を下げた。「よろしくお願いします、アイレン様」


「そ、それじゃあ、僕も……」ケディも遠慮がちに手を挙げた。


 アイレンは満足そうに胸を張った。


 その後ろのうるさい男子生徒が二人の方へと歩み出る。


「こちらこそよろしく頼む!! 俺はシルファ・アズウォード!!」


「声を落とせシルファ」


「申し訳ありません!!」


 魂の底から響いてくるようなシルファの声が、三人の鼓膜を震わせた。



・・・



「そうだ」廊下を歩きながら、アイレンは三人の友人を振り返って言った。「今日の昼食は私の奢りでどうだ?」


「俺も良いのですか!!」


「だから声を落とせと」


「申し訳!!」


「もう良い」


 アイレンは耳を塞いだ。


「ありがとうございます……でも何故?」


「私はこの国の王となるのだ! それくらいの気遣いもできずに何とする」


「成程」テオは頷いた。






「ほう! セノカは虫が嫌いなのか!」


「羽音と足音が不快なので」


「繊細だな!」






「ちなみに、私のお勧めは陽猪のシチューだ」


「美味しそうですね。わたしはあんまり食べられませんから、多分別の物になってしまいそうですけど」


「この年頃だ!! しっかり食べねば成長せんぞ!!」






「あ」

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