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編入試験

 モリアがロメリオストの夫人として越して来てから半年が経つ。


 当時、丁度休暇中だったクリスとミーレは三人との初対面の二十一日後、名残惜しそうに屋敷を去って学院の寮へ戻って行った。


 たまに手紙のやり取りをする中で、セノカとレイは二人の愚痴を交えた学院の情報を入手し、自然な返事に遠回しに情報の追加を要求する。無論、クリスとミーレは自分の手紙が事務的な目的で利用されているなど夢にも思わず呑気に手紙の返事を待つ。


 しかし最近は、内部試験及び編入試験と同時期に実施される試験の影響で手紙が途絶えている。二人の学力は高いほうではない。


 テオの様子も相変わらずだった。例の人格は一向に表に出ず、その生死すらはっきりしていない。


 だがやれることはやった。

 あとは万全の状態で試験に臨むだけだ。




・・・



「兄さん」


「何だ」


 学院の門の前で、青ざめたテオがレイの袖を引っ張った。


「学校ってさ、こんなに人が多いんだね」


 遠い目をするテオの前に広がっていたのは、うぞうぞと蠢く頭の波だった。


 前世なら黒一色のその波はこの世界特有なのかやけに色とりどりに染まって、いつかN-924に連れて来られたゲームセンター、そのちらりと視界の端に映った子供用のボールプールのような眺めになっている。


 セノカとレイは何度も人混み___数秒後にはその全てが赤く染まる集団___を見て来たため平気だが、テオは慣れていない。学校など行っていないし、何より外出の機会も少なかった。


 人口密度にふらつくテオをレイが支える。


「はい、では受験番号1000から1500まではこちらにー」


 間の抜けた試験監督の声が拡声魔法陣を通して広い訓練場中に響く。


 三人の受験番号は1471、1472、1473。今さっき呼びかけた、中年の男性教師の列だ。


 人混みは押されるほどではないが騒がしく、試験監督の声も半分近く掻き消されている。


「はいはい、喋ってないでちゃんと並ぶんですよー」


 仕事疲れからだろう、試験監督の目の下には薄い隈が浮かんでいる。よく居る平凡な大人をそのまま絵に描いたような容貌だ。


 セノカ達には気配を薄め、認識をある程度阻害する魔法がかかっている。三つ子という立場がそのままでは目立つからである。


 この列は既に大半が揃っていた。


 受付の教師に前世で言うところの受験票を渡し、名簿に印を入れられたら列に並ぶ。


「ご健闘を祈っております」


 仕事用の文言を聞き流し、三人は受付を後にした。

 しばらくすると、また拡声魔法陣から別の教師が言った。


「はーい、全員揃ったようなので第一次試験に移ります」





 第一次試験は筆記試験だった。


 三人の教室は別れ、不安げなテオを無視してそれぞれの場所に向かう。


 試験会場は広く、目測でも百人は入れそうだ。席ごとに指定があり、机上の番号を確認して椅子に座る。


 余裕を見せても目立つので、とりあえずセノカは参考書を取り出した。適当に視線を移動させながら試験監督による開始の合図を待つ。


 周囲の受験生は落ち着かない様子で参考書を噛み付くように読んでいる。中には友人の不安を語り合う者も居たが、数分後やって来た試験監督に気付き席に着いた。


「第一次試験は筆記試験となっております。くれぐれも油断せず、不正の無いように」


 扉から別の教師が現れ、書類を配っていく。


「試験は七十分となります。では、頑張って下さい」


 他の教師と同じ、堅く棒読みな文言を述べた後、その正面に拡声魔法陣が出現した。

 受験生が緊張を高める。


「開始!」





 大して苦戦することもなく、休憩時間含め計四時間の試験が終了した。


 しかし周囲は矢張り落胆するなり寝るなりして落ち込んだ空気を放っている。確かに一般的な教育では数問解けるか否か、くらいの難易度だった。


 中にはカンニングを試みる者も現れたが、流石はこの学院の教師、素早く発見して名簿に何かを書き込んでいた。そして三人が見つけた限りの不正行為者は、試験監督に呼び出されて二時間以上経っても帰って来ない。おそらく追い出されたことだろう。


 筆記試験のおよそ十分後、別の試験監督が教室に入って来た。


「第二次試験に移ります、屋内訓練場に集合するように」


 受験生達はそれを聞くなりすぐに教室を出た。


 三人は最後の一人になるタイミングを見計らい、指定された場所へと向かった。


 第二次試験は魔法試験。威力と制御、そして単純な魔力量を採点する。


 順番に並び、用意されている的に魔法をぶつける。的は三人も昔訓練に使っていた、不可視だが魔力探知で簡単に発見可能なものだった。


 少年少女達は魔力を絞り出し、魔法を放つ。二段構えの的の一段目のみを全て破壊すれば安定した点数を稼げる。二段目まで魔法が届いた場合は制御力が足りないと判断され、逆に一段目を破壊出来なければ威力不足で減点されてしまう。的一つは特殊な物質で構成されていて並の威力で破壊出来るものではない。


流水砲(ウォーターキャノン)!」


炎球(フレイム)!」


 強めの水鉄砲並みの威力で魔法陣から魔力の水が噴射され、その次の生徒が作り出した魔法陣からはサッカーボール程度の火球が打ち出される。


 水は的を僅かに凹ませ、火球は表面を焦がして消えた。


 単純な威力の不足と、二段目を破壊しないことへの緊張故の結果だ。


 しかし中には、他の生徒と同様緊張を滲ませながらも力と制御を両立した者も居る。


聖砲(ホーリーキャノン)!!」


 少年が叫ぶと同時に、魔法陣から白い光線が放たれた。それはまっすぐに的を焼き、二段目の一歩手前で止まった。大分直前ではあるが、安定した評価は得られるだろう。


 的は破壊されて数秒経てば復元される。元々そういった魔法を組み込まれているらしかった。


「よろしい。…………次!」


 神経質そうな女性教師は、最後尾に並んでいたセノカに目を向けた。受験生は魔法を放ち終わったら退室することになっているため、今訓練場にはセノカと教師二人だけが残されている。


「よろしくお願いします」


「受験番号1472、ロメリオストですね。そこに立って魔法を放って下さい」


「分かりました」


 指示された通りに、セノカは印の上に立った。


 そして手を前に掲げ、水縹色の魔法陣を発生させた。魔力がそこに集中し、やがてそこに一つの火が灯る。


炎球(フレイム)


 水縹の魔法陣から、銃弾のような速度で赤い炎の球が飛び出した。それらは寸分の狂いも無く、直線を描いて的を狙う。


 球は的の中心を打ち抜き、そこを源として的全体を焼き尽くして消えた。二段目には傷どころか焦げ付きすら見当たらない。


「ふむ、よろしい。次の試験会場に向かって下さい」


「はい、有難うございました」


 結局のところ、この手の試験は好感度も重要になってくる。礼儀は大切だ。


 普通礼の後、セノカは次の会場、剣術訓練場へ歩き出した。





 レイは列の最後尾でテオの身を案じていた。


 テオには今までかなり厳しい訓練を課してきたが、体術試験は騎士との一騎打ち、騎士側からの攻撃は無いが、木剣を振り回す試験内容故にあの虚弱な少年の怪我の心配は拭えない。杞憂であることは分かっているが、自分の予想が外れて貧血で倒れたりはしないかと激しくではないが心配していた。


 今現在、訓練場ではテオが騎士と戦っている。監視魔法で覗いている限り苦戦はしていなさそうだ。どちらかと言うと騎士が押されている。テオの動きは事前にセノカから教わった通り、一分も違わない。


 制限時間を迎え、試験監督が終了の合図を出した。


 監視魔法を解き、あとは想像上で訓練しておけば良い。


 会場にとぼとぼと歩いて行く受験生達は、皆疲れ切った顔で戻って来る。それを見た他の生徒は盛大な溜息を吐く。

 鉛のような空間で座って待つこと二十七分。


「次、1471、ロメリオスト!」


「はい」


 レイは控え室の出口で木剣を受け取った。


 部屋は直接会場と繋がっていた。

 床は衝撃を吸収する魔製の土で覆われ、先ほどまで少年少女達が剣を振るっていたにしては汚れも凹凸も見当たらない。


 正面では騎士が木剣を構えている。


「試験時間は五分です。それでは______開始!」


 レイは常人の数倍の速度で駆けた。


 事前に決められた通りに動き、騎士を傷つけないように木剣を振る。自分の攻撃に対する騎士の動きも予想していた通り、相手側は押される様子を見せている。


 騎士でも何とか反応出来る速さで攻撃を打ち出して騎士にそれを回避させ、相手の反撃を待たずに次の技を入れる。


 同じ点数を狙っていてもテオとは動きが違う。怪しまれる心配は無い。


 騎士は驚きつつも攻撃を防御する。それを狙われていることなど分かる筈もない。


 偶に攻撃を当てて高得点を稼ぐ。当てる回数は四回、それ以外は避けさせる。


 レイは身体能力が高い分、手加減が他の二人と比べて難しい。二人で考え出し、セノカが一日で習得したこの動きと力の加減をレイは三日かけて身につけた。


「終了!」


 騎士が膝を付き、レイがその首筋近くで木剣を静止させた状態で最後の試験は終わった。


 教師の表情には驚愕が表れていた。


 木剣を教師に返し、レイは騎士に向けて礼の姿勢を作った。


「有難うございました!」



・・・



 全ての試験が終了し、集合前には青白かった空は薄い朱色を含んでいる。


 受験生は最初の屋外訓練場に集められている。


 三人が集合した時、テオは疲労困憊といった様子で木のように突っ立っていた。


 他の生徒も同じ顔をしているが、テオは彼らと違って表情が明るかった。


「はい、只今を以て試験を終了とさせていただきます。結果は明日発表となりますので、くれぐれも見逃すことの無いように。…………では、解散」


 気怠げな男性教師が言うと同時に、受験生達が騒ぎ始めた。



 三人は人混みを潜り抜け、門前で停められた自分達の馬車に乗り込んだ。

登場人物プロフィールその11

ミーレ・モリーリオ・ロメリオスト

種族 脆仙

年齢 15歳(三つ子とは1歳差)

身長 156cm

体重 47kg

好きな物・・・恋愛物語、果物全般、歴史

嫌いな物・・・算術の教師、爬虫類

好きな言葉・・・運命

恋愛的な好み・・・知的でキリッとした男性

特技・・・刺繍

最近あった良いこと・・・綺麗な鳥を見かけた

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