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授け物

 三つ子は六歳を迎えた。


 それがどういうことかと言うとつまり、天与魔術に目覚めたのだ。


 目覚めた瞬間、今まで自覚の無かった能力を元から知っていたように使えるようになっていた。


 三つ子の中で一人、テオだけが渋い顔をしていた。


「……ねえ」珍しく不機嫌な声が響く。「何でオレの天与魔術、こんなのばっかりなのかなあ」


「こんなの、とは?」レイが魔導書に目を通したまま言った。


「何か怖いヤツばっかなの! しかも妙に扱いが難しいヤツ!」


 テオは掌の上に、白銀の、蜘蛛の糸束を生成した。糸は絡み合い、蠢いて浮遊している。


「これをどうやって活かせっていうんだよお…………」


 糸をふわふわと浮かせながらテオは項垂れた。糸は細く、光の反射が無ければそこにあることすら分からない。


 その魔術の名称は、『操糸』とのことだ。糸を生成して操ることが可能らしいが、本人はその使い道を理解していない。


「相手を拘束して逃げ場を稼ぐ」


「それだ!」テオはびしっと指を差した。


 先日、三つ子は異空間内で各々の魔術の試し打ちをしていた。セノカとレイは問題なく使いこなせていたが、テオは自分で作り出した糸を無理矢理動かそうとして絡まり、レイに助け出されていた。他の能力も同じような手ごたえで、テオはその日一日拗ねていた。


 セノカが弟を見ると、生成した糸を綾取りにしている。魔法は兎も角、テオ……永の手先は器用だ。手品が得意だと自称し、偶に公園で子供に披露していた。ちなみにこの世界で手品をしたところで受けないので、代わりに観賞用の魔法で領地の子供たちを楽しませている。


 テオが微妙な顔で「はしご」を作っている間、セノカは薬学の書物を読みふけっている。机の上には大量のフラスコが置かれ、色と透明度が少しずつ違う薬品が入っていた。


 レイはひたすらに鉄の塊を破壊しつづけている。


 レムノスとディウルカは「戦闘訓練」と伝えて異空間に潜った。ハルクも便乗したが、あの二体のことだ、大方ただの喧嘩だろう。下手をすればどちらかがうっかり死んでいたかも知れない。ハルクが付いていったのは正解だった。


 セノカがまた新たな薬品を作り出した。その掌の上、空中から。


「姉さんたちは器用だねえ…………薬学なんて、オレだったら頭がパンクしそうだ」


「手品だと思えば簡単なのでは?」


「うーん……」テオは「東京タワー」を作って呻った。「操糸と、あと一つはそれでどうにかなるかな……でも、他は使いどころが無いような気がするし使いたくもないなあ、物騒で怖いし」


「詳細は分からんが、まあ使いこなせるよう努めろ」


 レイが持っていた鉄球がまた崩れ、魔法陣の中に捨てられた。


 テオの頭の周りを、糸の玉が惑星のように浮いて回っている。


 セノカが生み出した薬品は出来次第異空間に保管されている。机上は綺麗に保たれていた。


「明日からは、天与魔術の強化と獲得能力の取得だ。体術と魔法の鍛錬も欠かさぬように」


 薬学の書物を視線でなぞるセノカが突然言った。

 テオの周りの糸玉が解けて消えた。テオが分かりやすく不満の表情を浮かべていた。


 セノカは淡々と続ける。


「三日後、父上の目を盗んで、そこの森林に行く。魔物狩りだ」


 窓の外、屋敷から数百メートルは離れた場所に、深い緑色の輝く森林があった。


 そこは侵入が禁止されている魔物の巣窟で、奥には迷宮(ダンジョン)への入り口があるとも言われている。そこに足を踏み入れて、無傷で帰って来た者は居ない。夜になると、森からは獣の遠吠えが聞こえて来る。


 要するにかなりの危険区域だ。


「…………はい……?」


 テオの顔色が、不満から驚愕と、恐怖に変わった。




・・・



 三日後。

 木々の海の中に、三人分の子供の影があった。


 一人は白にも見える金髪に青髪を混じらせた、深い藍緑色の宝石の瞳の少年。少年と同じ髪色の、薄い藤色の瞳で周囲を見回す少女。二人の後ろで震える、青髪に白金髪を混じらせた、少女と同じ目の色の、女児にも見える少年。


 三人とも剣と、異空間内にそれぞれ武器を持っている。金髪の少女___セノカは弓を、藍緑の瞳の少年___レイは斧を、藤色の瞳の少年___テオは槍を。


 今まで三十近い魔獣を仕留め、ここまで歩いて来た。森には、犯罪者の少年を捕らえたときと同じ結界を張っている。屋敷には偽物の三つ子を置いてきた。木製の人形に幻影魔法をかけただけだが、盗聴、監視と遠隔操作魔法によって怪しまれないように振る舞うことが出来る。


 誰にも気づかれることは無い。邪魔が入ることも、叱られることも、そして生きた状態で救助されることも、可能性はほぼゼロだ。


 草が揺れた。


 テオがびくりとして振り向き、敵の有無を確認する。ただの風だった。

 安堵の溜息を吐いたとき。


 鳴き声とともに、葉狼が飛び出してきた。


風刃(ウィンディブレード)」セノカが唱えると同時に、風の刃が葉狼の体を真っ二つに切り裂いた。


 血が地面に落ちた。


 テオは腰を抜かした。


「やっぱり無理だよ、どうしてぶっつけ本番……しかも姉さんたち、馬鹿みたいに冷静だし」


 テオは魔法でどうにか立ち上がった。精神魔法を発動させ、自分で強制的に動揺を鎮める。


 それをセノカが打ち消した。


「魔法に全てを頼るな」


「はい…………」


「次の魔物はお前が倒せ」


 テオは泣きそうな顔になった。


 レイは二人の周囲を魔力探知で探っている。

 何かが引っ掛かった。しかし二人には言わない。


 先程探知した何か……木豹が現れた。二人、もしくはテオから見れば突然に。


 テオは一瞬、涙を浮かべたが、表情を固めて震える両手を前に出す。


「…………崩影(デストロイシャドウ)!」


 黒い魔法陣から、黒い影が光線のように放たれた。


 影は木豹の胴体に命中する。そこから体が黒く変色し、砂状に崩れ落ちた。


 その死体……生物だった黒い砂山の後ろから、群れが迫って来た。牙の隙間から涎を垂らし、久々の人肉をぎらついた眼で睨んでいる。


 セノカが剣を振るおうとした。その前に、テオが歩み出て来た。


 _____操糸。


 豹の体に糸が絡み付いた。両足が抑えられ、豹の体が地面に倒れる。


 _____生灯(ファイア)


 木に近い性質の体が燃え上がった。炎の中で、豹が絶叫する。炎はすぐに広がり、全身を包み込む。

 豹の群れは灰になった。


「良かった……出来た…………」


 テオは肩で息をした。


 レイがその頭に手を置いた。


「頭撫でないでよ」


「すまない」


 二人は少しの間見つめ合った。

 テオの表情が緩まった。


「前もこんな会話したよね」


「ああ」


「立ち止まるな」セノカが二人を睨んだ。魔物がまた押し寄せて来ている。


 三人は魔法陣を構えた。


「一度出来ると軽いものだよ」


「つい先ほどまで怯えていた子供がよく言う」


「うるさいなあ! 一応享年十九なんだからね!」


「余計に駄目だろう」


 テオの表情は、少しの怯えと、勇ましさを滲ませた笑顔だった。まるで新人の兵士のような。


 全員が一歩前に進み出た。


 群れの奥には、人工的にも見える断崖と、四メートルはある観音開きの扉が取り付けられている。


迷宮(ダンジョン)が近い。早めに行くぞ」


 水縹色の魔法陣から冷気が漏れる。


 梔子色の魔法陣から火花が散る。


 黒い魔法陣から黒い影が放たれる。


 二人はセノカの言葉に、静かに頷いた。



・・・



 断崖に設置された扉は開け放たれている。


 扉の前には大量の異物が捨てられていた。異物、というのは、それを死体と表現するには原型を留めている物が数体しか残っていないからだ。


 黒い砂が撒かれ、幾つか山が出来ている。近くには灰が散り、岩のように崩れ落ちている物もある。原型が残る物としては、頭と胴体を切り離されていた。出血は無く、断面は薄く凍り付いている。


 暗い穴の中では三つ子が武器片手に奥へと進んでいる。


迷宮(ダンジョン)ってどれくらい長いの?」


「一つで一二〇から一七〇階層、一階層分の広さは階層による。この迷宮(ダンジョン)の二一階層以降は未攻略だから、完全攻略すれば訓練には丁度良いだろう」


 話しつつも、三人の視線は常に左右上下を見張っている。


 テオは慣れたのか、獣を倒してから妙に落ち着いている。


 二十階層、最近発生した魔物が偶に襲って来るが難なく撃退できていた。壁には松明が掛けられていて、大して明るくは無いが問題なく周囲を視認可能だ。


 一方で階層内の(トラップ)は衰えていない。


「そこの床、踏むと爆発するぞ」レイは床の石板の一つを指さした。テオが示された場所を避けて歩く。


 上方から小型の蝙蝠が飛んできた。素早くセノカが氷結魔法を発動させる。


「……あ」テオが正面に視線を固定した。「兄さん、姉さん、次への下り階段だ」


 そこに目を向けると、壁の続きが無く代わりに天井が向こうに傾いている。


 二一、未攻略の階層。そこに巣食う魔物の数は、この迷宮(ダンジョン)が現れて八七〇年余り一度も外部からの影響を受けていない。ここから先は未知の領域。生きて出られる保証は無い。


 セノカは冷静な表情と無感情を揺るがせず、その先に足を踏み入れた。レイも同様に。テオは少し怖じ気づいていたが、二人の後を追って階段を下った。階段に照明は無く、上階と下階からの光に頼るほかない。


 下りきったとき、大勢の魔物が一斉に三つ子を睨んだ。そして一斉に飛び掛かった。


 即座にレイが魔法を発動、魔物たちが灰と化す。

 壁臭かった通路に煙の臭いが充満し、テオが袖で鼻を覆った。


「毒耐性に消臭効果は無いと言っただろう」


「すまん」


 話しながらも、セノカの片手からは大量の氷が放出され、魔物に突き刺さり体内から凍らせ裂いている。


「態々ミトリダート法にする必要あった? 六回くらい吐いたんだけど」


 まだ袖を顔からどけず、テオが魔物を糸で拘束する。


 毒耐性の獲得能力(スキル)を習得するまでに、三人は平均五回吐き、二回寝込み、四回呼吸困難を起こしている。無論、最重症はテオだった。


「一番手っ取り早い」


 通路を埋め尽くすほどだった魔物の数が、今や数匹に減っていた。


 代わりに大量の氷と死体が床の上に影を落としている。鳴き声だらけの階層は三人の静かな足音だけとなった。


 役目を終えた氷が霧散し、空気を冷やして虚空に消える。


 そこから二〇階あまり、変わらず暗い通路で魔物を狩る。魔物の死体は異空間の中に捨てられ、分解され、三人の新たな魔力に変換されて所有者の元に還る。


 階層を下る度に、獲得能力(スキル)の数も増えていく。


 二一階層では倒すのに六秒かかった敵は二秒そこらで死ぬ。攻略に要する時間も、四十秒から二十秒以下にまで減っている。


 しばらくすると上階から流れ降りて来た冷気が通路の気温を氷点下にまで下げ、低温への耐性を持たない魔物は手を下さす前に勝手にくたばるようになった。三人は訓練の過程で炎魔法と氷魔法を浴びているため高低温の影響をとうに受けなくなっていた。


 そしてまた訓練の過程で、三人は互いに殴り合った。喧嘩ではなく、本当に「殴り合った」。回避も抵抗もせず、ひたすらに互いを殴った。結果、望んでいた〈物理耐性〉を会得した。


 更に魔法でも同じことをした。高低温耐性を獲得することはついでであり、目的は〈魔法耐性〉をつけること。そのために何度も魔法を受け合った。一年半かかって習得した。

 流石にテオの精神状態がまずいことになったので、そこで初めて精神安定の魔法を使ったのだった。


 故に敵から付けられた傷は無く、この迷宮(ダンジョン)の一五二階層中一一二階層を攻略していた。斬撃を受けても基本的に再生し、炎で焼かれそうになっても火傷一つ負わない。服は普通に破けて燃えるためその度に魔法で補強、修復する。


 補強を重ねた白い部屋着は鋼の鎧に等しい強度を持つようになっていた。


 深く潜るごとに魔物の数は増え、その強さも増すが未だに苦戦した個所は無い。


 攻略開始から三時間、辿り着いた一一三階層目は水で満たされていた。


「うわあ、何これ」


 階段の中間あたりから澄んだ色の水が鏡面を作り出している。見下ろすと底に向かうほど色が濃くなっている。階層一つが本当に水で満たされているようだ。


「進むには潜ることになるが、準備は良いな?」


 水中に足を踏み入れ、セノカが小さく振り返った。


 服装は防水魔法を施していて、長時間水に浸っていても濡れることは無い。加えて獲得能力(スキル)によって水中、地上、空中問わず自由に動くことが可能。その獲得方法としては、限界まで水に浸かることを繰り返す、上空に長時間留まる、などなど。またテオの精神状態が、以下略。


 二人も一五三階層に向かって踏み出した。


 階段を下るごとに、足首が、膝が、腰が、肩が沈み、やがて全身が水中に沈んだ。


 テオは試しに息を吸う。そこにある筈の無い空気が肺に吸い込まれる。


「あー……」声も問題なく響く。


「無駄に声を出すな」セノカが水中でも良くわかる眼光でテオを睨む。


 水中は矢張り地上と比べて暗く、次の階層への階段の入り口も見えにくい。


 水中に住む魔物はそれらしく、鱗と鰭を揺らしてのろのろと泳いでいる。たまに人ほどの体長の個体が混じり、小物を睨んでその後を追いかけている。


 一匹、小さな魚影が現れる。


「見てよ、小っちゃい魚が泳いでくる」


 幼児にしては細い指を差し、正面から向って来る小魚を見て頬を緩ませた。


 魚は真っすぐに泳いでくる。距離が縮まるごとに、遠いために小さな体は大きくなっていく。


「あはは、意外と………………うん?」


 段々と大きくなる。小指ほどの大きさに見えた魚は、三人の手に近い大きさになる。


 やがて片腕くらいに見えるまで近づく。そして_______


「こ、れは…………」



 目測十メートルを超えそうな口を開けた。



「避けろ!」


 回避と同時に、三人が居た場所を大口が飲み込んだ。


 壁が強靭な牙によって欠け、静かな水中に泡と水圧を生み出す。


 巨大魚は水圧など無いかのように体の向きを変え、近くに浮いていたテオを狙う。小柄な少年の前に赤い口腔が広がった。


「テオ!」


 レイが叫び、水を貫くように弟の元へ向かう。


 当のテオは引きつった笑顔で目の前の巨大生物を見上げた。


 ________喰われる!


 しかし次の瞬間、その表情が強張った。片手の槍が乾いた音を鳴らした。


 槍の刃に風の魔力が巻き取られた。


「…………ゴルァアアアアアア!!」


 テオは円を描くように槍を振るった。


 魔法の風が水中で巻き起こる。風はテオを中心として巨大な竜巻を発生させ、周囲の魔物の体を横に引き裂く。


 竜巻の中で、巨大生物は水流に抗おうとした。そんなことでは逃れることなど出来ず、水中に肉片と血の煙を撒き散らす。


 風龍槍。魔導書に記されていた、五百年前の技。槍先に風魔法を付与し、振るうことで周囲数メートルに竜巻を起こす。水中で使用したのはテオが初めてだった。


 竜巻が止むと、巨大生物は粗く微塵切りにされていた。近くの魔物も巻き込まれ、血液が視界を遮る。


 その中心で、テオは肩で息をしていた。


 紅い煙幕に穴を開けるように、レイが泳いで来た。


「無事か?」


「何とか………………」青い顔をするテオが兄に全身の傷を確かめられ、くすぐったそうに笑った。


 防水性の高い服に返り血は付いていない。レイは全くの無表情のままほっと胸を撫でおろした。


不良少年(ヤンキー)のような掛け声は兎も角)


 乱れたテオの前髪をそっと耳に掛け、レイは穏やかに戻った弟に、ほんの僅かに顔をほころばせた。


(無事で何よりだ)


「それがこの階層の主だ」いつの間にか背後に来ていたセノカが言った。「さっさと行くぞ」


「オレへの労いは?」


「ヨクヤッタ」


「心が死んでる!」





『ふはははは! 幼子がここまで良く辿り着いたものだ! しかしそれもここまで! 我の力に屈するが良』


 ドサッ。


 最終階層を支配していた竜の首は、台詞を吐き終わる前に床に転がった。


 その死体の横を三つ子は素通りして行った。


「ちょっと気の毒」テオは竜の死体に軽く手を合わせた。


 竜の背後には宝箱が出現していた。迷宮(ダンジョン)の最下層に設置されている、古代の秘宝だ。


 重厚な宝箱は六歳の子供が開けるにはかなりの時間とを要するに違いない。


 それをレイは片手で開いた。


 その背後では竜の死体が寂しく地に伏せている。テオは兄姉の元に居るので死体は放置されたままだ。


 宝箱の中からは大量の魔導書と小型の武器が覗いた。


 魔導書はどれも太古の技術が記されたのもばかり、武器は小さいが実用性は高い。

 魔導書を見たテオの目が据わった。


「また増えた…………」


 宝箱は丸ごと異空間の中に落とされた。


 そして三人は踵を返した。


 帰路につく足取りは軽い。


 入り口付近には新しく魔物が集まっているが、下層に比べれば雑魚の集団だ。襲ってくる個体を捩じ伏せ、無いもののように歩いていく。


 迷宮(ダンジョン)から出た時、既に日は暮れかかっていた。


「どれくらい経った?」


「六時間二分四三秒」


「細かいよ」


 転移魔法で自室に移動する。


 屋敷の父と使用人達は変わらなかった。見事偽の三つ子に誤魔化されていた。


 本物の三つ子と偽物の服は同じ外見、丁度偽物を各々の部屋に戻していた三人は偽物を消去し、気づかれずに入れ替わる。


「お疲れ様」


 セノカの部屋で、レムノスが主人の頭に手を置いた。

 いつものようにその手を掴み上げ、降ろさせる。


 いつもと違うのは、それ以上レムノスは手を出さなかったことだ。



 レイは自室で手に入れた魔導書を三人分複製し、ハルクがそれを見下ろしていた。


「主、稽古を」


「明日にしろ」


 しかしハルクは、その後三回断られるまで申し出を辞めなかった。



 ディウルカはテオの六時間の冒険譚を聴く傍ら、魔法の遊戯道具を弄っている。


 テオはやや眠そうだが、止まる気配は無く目を輝かせて話を続ける。


「すごく大きい魚が居たんだ! しかも、ハルクさんサイズの竜まで!」


「スゴイスゴーイ」


「ディウルカさんって姉さんと同類?」


 自分に目も向けない従者にテオは口を尖らせる。



「お食事の時間でございます」


 女中が言った。


 三人の部屋に従者の姿はもう無い。


 夕食の呼びかけに答え、四半日の冒険も、新たな力の習得も、何事も無かったかのようにダイニングルームに向かった。


 父は普段と同じ、厳ついが穏やかな顔立ちで子供達を迎えた。

 子供達がつい先ほどまで入れ替わっていたことには気付いていないようだった。


 何ら変わらない夜。


 セノカとレイは父に偽の純粋さと幼稚さを見せ、テオは二人と比べれば幾分か不器用に素を偽る。


 新しく手に入れた魔導書は、次の日から活用されることとなった。訓練は以前より厳しさを増し、その中で三つ子は着々と力をつける。記されている内容は遥か昔に誕生した技術が多く、それらは現在のそれとは比べ物にならない質を持っていた。


 従者と共に獲得能力(スキル)を更に磨き上げ、その数を増やしていく。


 訓練は時間を重ねるごとに過酷なものとなっていった。一年が過ぎ、二年が過ぎ、その実力は衰えることなく磨かれる。その頃には死亡の危険性すらある訓練が施されていた。


 貴族の子供時代はほぼ完璧な安全の中で守られている。故に大した事件が起こることも無く、ひたすらに力を蓄える。


 剣術を始めとする武術は、年齢を重ねて身体の成長により急激に上達した。


 魔力の鍛錬でその魔力量は底知れぬものとなっていく。


 全てが神の依頼を遂行するための準備だ。


 ただの貴族の子供として暮らす筈だった三人は、脆仙の域を遥かに超える力を手に入れていった。

 屋敷の者、それ以外の者も、この事実を知る者は誰一人として存在しない。





 そして八年後、三つ子は十四歳になった。

登場人物プロフィールその9

ディウルカ

種族 神鬼(悪魔)

年齢 3089歳

身体年齢 16歳

身長 167cm

体重 42kg

好きな物・・・寝ること、魔法

嫌いな物・・・キラキラした人、子供、他の神鬼

好きな言葉・・・悠々自適

恋愛的な好み・・・神鬼は性別が無いから恋をしない

特技・・・知恵の輪

最近あった良いこと・・・寝てる夢を見た

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